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俺、婚約者の名前を知る

 ミリアさんと話すようになって、幾日かすぎた。

 ミリアさんの婚約者の名前は、キリウス・ルイスというらしい。

 妬ましいな。はらわた捻じ切れそ……げふんげふん。

 えーっと、なんだっけ。どこかで聞いたことがある名前だな?


「あ! 今度の実技訓練の対戦者だ!」


 そうだそうだ。なんかオレンジ色っぽい髪色で、緑色の目をした眼鏡の兄ちゃんだ。

 うんうん頷く俺を呆れたように眺め、ミリアさんがため息をついた。


「キリウス様はお強くあられます」

「そうなんですか? それじゃあ、気合い入れて挑みますね!」

「……わたくしは、辞退を勧めたのですが」

「特待生の点数がかかっているので!」


 そう、俺たち双子は特待生だ。点数を下げると、枠から外されてしまう。

 それは困る。とても困る。

 だからこそ、こんな不真面目な俺でも、授業や訓練には真面目に取り組んでいるんだ。


 最近、毎日が楽しい。

 ミリアさんとお話できるだけで、すっごく幸せだ。

 大丈夫かな? 顔にやけてない?

 ベンチという限られた範囲で、セクハラにならないよう、ミリアさんの隣に座る。

 すごくない? 憧れの人と同じベンチに座れて喋れるの、すごくない?

 俺、一歩間違えたら、ストーカーになる素質あるわー。



 こんな感じで、きゃっきゃうふふと毎日を楽しんでいた。

 とても浮かれていた。


 その日のミリアさんは表情もかたくて、言葉もいつも以上に少なかった。

 どうしたのだろう? 心配になって尋ねるも、ゆるく首を横に振られるのみ。

 けれどもミリアさんの顔色は悪い。


「ミリアさん、医務室行きませんか?」

「……必要ありません」

「でも……」

「必要ありません!!」


 滅多にない大声で怒鳴られ、びっくりして彼女を見てしまう。

 はっとしたように口許を押さえたミリアさんが、気まずそうに俯いた。


「……っ、失礼しました」

「……俺でよかったら、相談に乗るよ?」


 多分きっと、俺は情けない顔になっているだろう。

 ミリアさんの顔を覗き込んで、提案してみる。

 つらそうな彼女を見ていたくなかった。


 ミリアさんはためらうように視線をさ迷わせたあと、いいにくそうに口を開いた。


「……キリウス様のことで、悩んでいました」


 なんでも、ミリアさんとキリウスは折り合いがつかないらしい。

 親同士が決めた婚約なのだが、キリウスはミリアさんに興味がなく、邪険にしているそうだ。

 ミリアさんはミリアさんで、良好な信頼関係を築きたいと歩み寄っているのだが、うまくいかない……と。


 よし、キリウスを校舎裏に呼び出そう!

 ボコボコだ!!


 冗談は置いておく。俺は特待生だ。問題なんて起こせない。

 シオにも迷惑がかかってしまう。

 でもだからって、愛しのミリアさんを泣かせたままだなんて、そんなことできるわけないじゃないか!!


 沈鬱な表情のミリアさんの手を掴む。

 ほっそりとした、女性らしい繊細な手だった。

 この手が最終的に、いけ好かないキリウスの元へ行ってしまうのかと思うと、胸が捻じ切れそうになる。

 壊れものをあつかうかのように、彼女の手を両手で包んだ。


「ミリアさん、今度の実技訓練で、俺、そいつに勝ちます!」

「……え?」

「それで、ミリアさんに『ごめん』っていわせます! だからそんな悲しそうな顔、しないでください!」


 俺、震えないでちゃんといえたかな?

 すきな人といけ好かない野郎をくっつけるためなんて、本当、ばかみたいなことしてるなあ。

 でも、ミリアさんには家の事情がある。

 俺が壊しちゃいけない。

 せめてミリアさんがしあわせになれるように、少しでも手助けしよう!


 驚いたような顔をしたミリアさんが、そのサファイアのような目を細めて俯く。

 こくり、小さく頭が縦に揺れた。


「……応援しています」


 かすかな声だった。けれども、胸がきゅっとしまって、苦しくなる。


 その日家に帰って、シオにめっちゃくっちゃ泣きついた。

 失恋って、つらい。

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