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ミリアさんと嫌がらせ

「なんだよ、キリウス! 俺のミリアさんタイムを邪魔するなよ!」

「邪魔するつもりはない! そうではなく、僕と再戦してほしい!」

「邪魔じゃんか!!」


 中庭までの渡り廊下を、キリウスと言い合いしながら歩く。

 くそう、この生真面目坊っちゃん、無自覚で俺の時間を奪おうとする……!

 俺はこの時間を、ミリアさんと会うためだけに使いたいの!!


「やだよ! お前絶対えぐい技使うじゃん!」

「お前を負かすためだ!」

「やだよ!! シオとやってこいよ!」

「僕はお前から受けた雪辱を果たしたいんだ!!」

「執念深いな!!」


 がるがる唸りながら、中庭へ降りる。小道に沿っていつものベンチを目指し、窺えた麗しい人物へ大きく手を振った。


「み、……?」


 あれ? 今日はなんだか人が多いな? いつもは全然いないのに……。

 はてと違和感を覚え、立ち止まる。……なんだろう、変だ。


 ミリアさんはいつものベンチにいたけれど、今日は本を読んでいない。いや、本は開いているけれど、頁をめくる手が止まっている。

 そして違和感の最大の要因。ミリアさんから離れたところにいる、数人の女子生徒。

 たむろする彼女たちはお喋りに夢中らしい。けれど、不自然に声が小さい。


 ――俺は庶民代表特待生なので、嫌がらせに詳しい。

 あれは陰口だ。ちらちらミリアさんへ目を向け、密やかに嘲っている。

 ……本人を目の前に、よくする。肝試しのような感覚だろうか?


 不意に本を閉じたミリアさんが、音もなく立ち上がった。冷めた目で女子生徒たちを見据える。


「仰りたいことがあるのでしたら、直接どうぞ」

「あら、ごきげんよう、サンブラノ様。わたくしたち、ただお喋りに興じてましたの」

「ええ、自意識が高過ぎるのではないのでしょうか? うふふ」


 にやにやと笑う女子生徒たちが、互いに顔を見合わせ、「ねえ?」言葉に含みを持たせる。

 ……うわ、俺もよくあれやられる。無視し続けていたら構われなくなったけど。女子制服着ていたときとか、ひどかったな。うーん。


「キリウス、ちょっと行ってくるから、あとよろしくな」

「なッ!?」


 顔をしかめていたキリウスへ一言告げ、着崩した制服を適度に整える。……よし。


「ミリアさん!」


 小走りでミリアさんの元まで駆け寄り、にこり、控え目な笑みを作る。

 はっとこちらを向いた彼女が、数度瞬いたあとに、「シオ?」片割れの名前を口にした。


「向こうでキリウスが呼んでたよ。行こう?」

「は、はあ……」


 面食らったように頷いたミリアさんが、小道の先にキリウスを見つける。

 ぎょっと肩を竦ませた彼が、そっぽを向いて片手を挙げた。よし、よくやった!


「ごめんね? お話の途中に」

「い、いいえ! よろしくてよ、シオくん!」


 シオっぽい笑顔に気をつけ、たむろしていた女子生徒たちへ微笑みかける。


 ははは、すまんな。きみたちが頬を染めてる相手、片割れのニアくんなんだなー!

 シオはなんだかんだ、女子からの人気が高い。あざとい系美少年だ。そんなシオからの微笑みを独占だ。

 ははっ、いい夢見れたか?


 程よく中庭から離れ、よし、息をつく。

 ぐうっと伸びする俺へ振り返り、ミリアさんが目を瞠った。


「やっぱり、ニアだったのですね!」

「でしゃばってすみません。ミリアさん」


 えへへ、笑って頬を掻く。はっとした彼女が、ふいと顔を背けた。


「あのような手合い、わたくしひとりで対処できました」

「ええと、その、……折角のミリアさんとの時間が、減っちゃうなーと思って」

「!!」


 ミリアさんの頬が、真っ赤に染まった。キリウスが嫌そうにこちらを振り返る。


「おい。僕をだしに使うな」

「今度再戦受けるから! な!」

「く、くうっ! お前、ずるいぞ!!」


 俺より背の高いキリウスと肩を組み、猫撫で声で交渉する。口をへの字に曲げた彼が、そっぽを向いた。


「くそっ、お前の細胞から破壊してやる!」

「やめろよ。それ前言ってた分子レベルのふんちゃかのやつだろ? やめろよ!?」

「こてんぱんにしてやる!!」

「物騒が過ぎるわッ!!」


 俺とキリウスがぎゃーぎゃー騒いでいる間に、ミリアさんはこちらに背を向け空を見上げていた。

 頬に手を当てている様子は見れたけど……、こらキリウス! 俺とミリアさんの逢瀬を邪魔するな!!

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