可愛いお部屋
「エターナルファイア!」
シュンはよく意味もわからない呪文を、恥ずかしい気持ちを押さえて叫ぶ。
絶対に他人にこんなところを見せるわけにはいかないので、今回の遠征も一人だ。
噂で勇者は協調性がないとかボッチとか言われてるらしいが気にしない。
剣が赤黒い炎に包まれ、シュンは目の前のモンスターを一刀両断した。
これがゲームの世界ならば倒されたモンスターは何かしらのアイテム等を落として消えてくれるのだろうが、現実そんなにうまい話はない。
モンスターの体液や臓物がシュンのからだ全体をまんべんなく汚していく。
シュンは折れてしまいそうになる気持ちをグッとこらえ、次の敵に取りかかる。
(はあ、こんなはずじゃぁなかったのに…)
シュンは初めてこの世界に来たときを思い出さずにはいられなかった。
自分だって、生まれたときからモンスターと恥ずかしい呪文を叫んで延々と戦う痛い人だったわけじゃない。
もともとは、普通の高校生だった。
ひょんなことから、この世界に召喚されてしまい、なし崩し的にこの世界の魔王軍と戦う切り札となってしまったのだ。
泣いて狂喜乱舞する、王様や王女、お姫様等を見て断れるはずもないのだ。
別にシュンだって嫌だった訳じゃない。
むしろ退屈な日常におさらばできるぜ!と嬉しがったほどだ。
しかし、現実は甘くない。
勇者の仕事とは思っている以上に血生臭いもので、かなりストレスの溜まるものだった。
毎日モンスターを殺してはレベルアップ。
そんな生活をもう3年も続けている。
少しチヤホヤされただけで舞い上がってしまい易々と勇者になった自分が腹立たしい。
また、モンスターを切り殺し今度は体液が目と口に入ってくる。
もう泣きそうだ。
(いやいや、ここで根性見せなきゃ駄目だろ…!いつまでもこの世界にいるわけにはいかない!)
そう、シュンには変える場所があるのだ。諦めるわけにはいかない。
シュンに課せられた使命とは魔王討伐である。
そして今シュンは魔王との最終決戦のため魔王城に単騎で乗り込んでいるのだった。
そして、順調に敵を倒していき残されたモンスターも残り僅かというところだったのだが…
(はあ、これは完全に迷ったな。お供を連れてくればよかった…)
複雑に入り組んだ魔王城はさながら迷路のようで方向感覚に乏しいシュンが迷わないはずもなかった。
さっきから倒しているモンスターも、シュンの到来に備えて配備されています、というよりは偶々歩いていたら勇者と鉢合わせしちゃったどうしよう!といった感じの奴等ばかりだ。
さっきのモンスターなんてパジャマを着ていたのだから。
(なんだここは?)
かなり奥の方まで来てしまっているに違いない。
魔王城のそれとは似ても似つかない、かなり可愛いらしいつくりの部屋がポツンとあるのだ。
いくらシュンがお洒落にうとくても、この部屋の主はお洒落に敏感なのだということが一目でわかるような部屋だ。
「何でここに勇者が!?」
「おいっ、我々の命に変えてもこの部屋にはいれるんじゃないぞ!」
この部屋を守っているのだろうか。
魔族の女性二人組がシュンに凄い勢いで襲いかかってきた。
ちなみに魔族というのは人型のモンスターで人語を解し魔力を膨大に持つ奴等のことだ。
一般的に角や尻尾、翼が生えており容姿も美しいのが特徴だ。
そして、シュンは人語を解し、人間と見た目が大差ないということでこの世界で一度も魔族の命を奪ったことがない。
大抵は呪文で気絶させる等して戦闘不能にする。
別にシュンが、可愛い女の子に酷いことはできないとかそういう童貞臭い理由ではない。
「サタデイナイトフィーバー!」
かけたのはグッスリと眠らせる魔法だ。
詠唱と効果に少し違和感があるが気にしてもしょうがない。
魔族二人がかりで必死に守っている部屋だ。
何かお宝でもあるにちがいない。
勇者だってお金に困らないわけではない。
シュンは勇者らしからぬ考えで、ワクワクしながら可愛らしいドアに手をかけた。
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