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09 『宗達のたらしこみ』

俵屋宗達。

水墨をにじませる、たらしこみ。

『宗達のたらしこみ』




 アトリがカナリーに師事し、大きく影響を受けたことは間違いない。アトリは取材を受けた際に、彼女なくして画家にはなれなかったと語っている。

 だが後にカナリーは影響を与えたことを恥じ入り、悔いるような言葉を残している。その際に作られていた作品がこの『宗達のたらしこみ』だ。

 この作品は『ジョーヴェの吹き墨』同様にモノクロの油絵であるが、その手法は全く違う。


 遠目に見ると、左上の白が右下の黒へと色を変えていくだけのシンプルな作品である。

しかし近づくとその面は立体感を増す。白いほど、また黒いほど高くに盛り上がっており、互いに向かい合う様はチェスを思わせる。

 白と黒の双丘から滑らかに降る大軍同士の激突。しかしその大軍は互いに近づくほどにその色を重ねていく。

 キャンバスの中央で絡み合い混じり合う様は大軍同士の衝突のような混迷を見せる。時に渦を巻き時にぶつかりあって、どちらがどちらの軍勢なのか俄かにわからないほどに混ざりあっていく。

 大軍を思わせる要因は、キャンバスを埋め尽くしている羽だ。黒い羽は白の頂点を向き、白い羽は黒の頂点を向いている。中央に向かうほどその向きは彷徨い、羽は重なり混じり合う。わずかに広がりきらなかった薄っすらとした白と黒が羽の中央に残っているので、よくみると対になっているのがわかる。

 羽自体を絵具に付け込ませ、たらしこみを行う筆の代わりにしているのだ。そして乾いた羽の毛先が反りキャンバスに立体感を出しており、空気の動きに合わせて微細に揺らぐ。それはまるで白と黒が互いの吐息で揺れているようでさえある。

 この作品は互いに攻め込む様子であると同時に、互いに手を取り踊るワルツのような印象を与える。それはお互いが影響を与え、受けあう関係そのものである。


 アトリが画家として認知され、アトリに与えた影響が大きい画家がいるとメディアが取り上げた。やがて情報はカナリーの詳細を伝えるようになり、その作品を取り上げるようになった。

 それがアトリの凋落の引き金となることを、カナリーは予期していたのだろう。

 カナリーは生涯、アトリに与えた影響を悔やみ続けたという。


 だが、凋落無くしてアトリは画家にはなり得なかったのだ。







たぶん作中の技法は、たらしこみとは違う気がします。

誑し込み、も意味が違う気がします。

作中では同じものとして捉えています。

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