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08 『アングルの空間』

ドミニク・アングル。

ディフォルメも一つの美。


『アングルの空間』




 この作品は地表居住区の情景を描いた作品である。カナリーが幼少期に暮らした地域であり、原風景の一つとして語られている。


 古びたレンガ造りの下町にある裏通り。並ぶ家はどれも二階建てだが、尖った屋根には屋根裏部屋の窓が見える。

 日差しと風通しのいい通りを越えて、互いに紐を結んで洗濯物を干すのが常。しかし洗濯物はなく、代わりに大きなシャツに包まれた少年少女がロープの上で戯れ、手を振っている。

 振られているのは軍服姿の人々に引かれる二人組み。片方は赤いドレス姿の女性で軍服姿に腕を絡めて缶ビールを飲んで笑っている。もう片方は囚人服を着てタバコをふかした男性で、足を掴まれて引きずられている。

 その横には赤ら顔の老人が佇んでいるが空を見上げており見ていない。

 人影はどれもバランスがおかしく描かれており、男性と女性、軍服姿は九頭身で異様に手足が長い。少年少女は二頭身で目が大きく、老人に至っては顔から手足が生えている。


 これらは擬人化という表現で、ポストが老人、洗濯物が少年少女へと姿を変えて描いたものだとされる。女性は缶飲料の自動販売機で、男性はタバコの自動販売機。軍服姿は回収作業を行なっていた搬送用自動機と思われる。

 実際に暮らす人々が描かれなかったのは人が去った後の景色であり、残される物が別れを告げているのだとする解釈もある。

 また、男性と女性のモデルが両親ではないかとする指摘もある。これはカナリーの両親の情報が希薄なため派生した寓話が原因だろう。


 カナリーの母親は第一期30齢症による死亡者で、遺体は研究機関により回収済みだ。その際の公的援助でアトリエへと移り住んだのはカナリー自身の選択である。なお、画家のフィンチとは対立遺伝子の確認により血縁関係が確認されているが、データ上では父親は存在しない。

 カナリーは絵について、母親から学んだとしているが、母親が描いた絵のデータは残っていない。

 母子間のやりとりであり、データ上にアップされていなかったためと思われるが、当時の閲覧データを確認するとデジタル展覧会などが頻繁に利用されていた。VRアートやVRコミックの利用データも確認できたが、利用者の音声ログは無邪気な子供のようであり、実際にはカナリーが利用していたと思われる。彼女の絵画における才能はこれらで育まれたのだろう。


 人が存在しない中に設置された機械が撤去される情景が本来の光景である。カナリーはその様子を擬人化させることで、長閑でコミカルな情景に変えている。


 該当区域は既に存在せず、他地域と同様に燻蒸処分と粉砕処理が終了した。農耕地利用調査は30年の休眠期間後、2071年秋頃となる予定。







回収した機械は分解してパーツを再利用します。

中身(製品)は人体に有害なものは処分されます。


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