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06 『ミケランジェロの葉』

ミケランジェロ・ブオナローティ。

葉は後から足されたらしい。

『ミケランジェロの葉』




 カナリーとアトリが共同生活を始めて1年が経った頃に、カナリーがアトリに専用のイーゼルとキャンバスをプレゼントした。

 この時をきっかけに、アトリは人間の要求に沿うためだけではなく、自発的に絵画を描くことを考えるようになる。


 カナリーとアトリは、互いの視覚情報や認識の違いを確かめるため、アトリエの窓から見える当時の街並みを描いた。

 それらが『ミケランジェロの葉』と題された絵であり、その違いは現在でも比喩表現の参考にされている。


 好きに描くようにと指示を受けたアトリは、保有する機能や技術を用いて、当時の街並みを実に詳細かつ写実に描いている。

 全体に雪が降り積もる季節に描かれており、窓の前を横切る四車線の道路にもうっすらと雪が積もる。

 道路周辺を埋める二階建ての箱型建築は薄汚れて朽ち果てつつあり、その奥にのぞく集合住宅もガラスが割れて生活の様子はない。それらの建物は火災の名残をうかがわせる損傷が目立ち、わずかに雪で隠されている。

 右奥にはそれらを押し潰すための巨大な破砕ドリルが歯列を晒して停止しており、その熱で雪が蒸発した湯気が立ち昇る。

 左奥には当時の保全者選定委員会の施設があり、壁面全てがガラス張りの巨大な円筒形の建造物が空を埋めている。ガラスには雪は付着することなく、内部で飲酒や繁殖行為を行い書類を撒き散らしている様子が仔細に描かれている。


 だがカナリーは全く異なる絵を描いた。

 同じように雪が降り積もる景色である。窓の前では流れる川に疎らに残る葦草の影に魚影がかすみ、川端にしだる雪がのぞく。

 箱型建築は木造廃屋となり雪の張り付いた枯蔦が絡み付いている。集合住宅は全体的に白く染まり家の窓ガラス越しにロウソクのような灯りが不均等に点る。

 右奥のドリル歯列は廃屋から伸びた蔦が絡まり全体に錆を浮かべてうっすらと雪を乗せている。

 左奥にあるはずの施設は巨木と化して、人影のあった窓は雪が張り付いた瘤になっている。


 同じ場所を描いたと知っていても、まるで別の場所にしか思えない。

 これはアトリを混乱させ、人間のように描くということの難解さを初めて認識したという。


 機械と人間の認識や表現が如何に違うものか、その違いを端的に捉えた資料。データとして閲覧可能になったこの二つの『ミケランジェロの葉』は、我々が検分する分には何ら問題はなかった。

 だがこれを比較サンプルとして人間が見た際に施設内の様子が問題視され、保全者選定委員会への不信が吹き出した。

 我々のように用途目的が明確でないためか、人間は目的遂行中であっても目的以外の行動をとる。

 それが人間自身に容認出来ないことであると、我々には理解が及ばなかったのだ。







保全者選定委員会の淫宴に葉を被せる発想がなく、そのまま公開した結果、選別される民衆が怒りました。

カナリーは頓着していなかったためツッコミを入れませんでした。

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