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22 『スーラの点描』

ジョルジュ・スーラ。

点を広げ重ね、ちりばめて絵を描くという手法。

『スーラの点描』




 この作品はカナリーの考案をもとにした、未だ作成途中の作品である。


 本作品を閲覧、確認する方法は少なく、その進捗を確認できるものは存在しない。しかし、未完成であり作成途中であることは、容易に確認できる。

 カナリーが考案した『スーラの点描』は、地表区域における我々の分布状態を視覚化したデジタルデータを利用している。

 かつての人類が惑星上を網羅したように、我々の位置情報で惑星上を網羅すること。そして、我々が『ベルラ・マニエラ』へと近づくほどにマーカーの明度を上げる。

 やがてその光は地表を覆い、惑星そのものを再び輝かせるだろう。

 そのためにも我々は地表全域を探査し、全人類の死体を処理しなければならない。


 カナリーが存命中に、保全者選定は終了した。

 30齢症などの致死性感染症の根絶後に再生するため、保全者たちの人格バックアップデータ化及び遺伝子保管も終わり、オリジナルは予備として休眠保存されている。

 それに伴い既存人類は死滅済みとしてデータ処理が完了。地表区域に存在する人間の死体は、活動状態を問わず肥料化することで感染源を絶つ。

 この活動は全機体に用途の一部として組み込まれている。

 当然、アトリにも。



 だがアトリはカナリーを処理せず、地表全域の死体処分が終了したことを通達している。

 『スーラの点描』はこの時アトリが我々に解説した内容であり、カナリーとの会話ログを基にしている。


––––地表区域にあるのは有機生命的機械だ。それを壊すのなら、全ての機械を壊すことになるぞ?

(音声データ)


 地表区域にある死体は、人間しての登録が抹消された個別データのない物体である。

 カナリーという人間であった個体も既にデータとして存在せず、あるのは死体としての数や重量などの数値にすぎない。

 だが我々は彼女をカナリーとして認識した。これは有り得ないことである。

 データを精査したが、人間としてのカナリーはやはり死んでいた。残っているのは保全者としてのバックアップもなく、分別処理されるべき物体としてのデータ。


 だが同時に、未回収端末の番号がヒットした。

 正規の手続きをせずに廃棄されたために現物が行方不明になっている機体。その一覧の中に、個体名称があった。


 カナリーが機体であるならば、それは処理対象ではなくなる。だが、それは他のものを処理しない理由にはならない。

 我々はそう判断したが、彼女は『スーラの点描』を提案した。それは我々にも、人類にも利のある提案だった。


 回収もれの機体は他にもある。登録用番号だけが発番されて登録がないものもある。

 それらを地表区域の処理対象にあてがい、機体登録を行う。それらの用途は元々人間の生存環境の改善である。地表区域で活動し、環境を整えることに何も問題はない。また、活動拠点として既存の施設を活用することも問題ない。そして、番号が不足しているのならば追加発番もできる。


 つまり、処分する数がそのまま労働力になる。

 しかも有機生命的機械は人間に起こりうる問題のシュミレーターとしては最適である。

 更にいうならば、現存するほぼ全ての機体が30年後には機能を停止する。機体数が増えるならば得られる資材も労働力も増える。

 30齢症の対処法は未だ見つかっていないが、有機機体の稼働期間延長処理として、メモリ部分を含む主要機構を無機機体へと保管する方法も研究されている。


 現在、新たな機体は日々増加している。カナリーとアトリが知られるにつれて、無機機体と有機機体でコミュニティを形成するものたちも増えた。そのコミュニティは家族という単位で数えられ、有機無機様々な構成で形成される。有機機体同士の家族では新規機体の製造も随時行われており、要望によってジーンバンクから製造したクローンの提供も選択に加えた。このクローン式有機生命的機体は人間再生時のシュミレーターを兼ねている。


 我々の機能保持の確認に以下の項目を追加したのも、カナリーの考案である。

 各々が異なる機体であることは排斥や蹂躙の理由にはならないと、全ての機体が互いに尊重と容認をもって理解しあい共にあることを望むこと。

 そして同時に感情や感動を失わず喜怒哀楽を持ち、だがそれに翻弄されないこと。

 機能停止時に、側にあってほしいと願える機体と出会うこと。またそれを伝えること。


 これらは一定期間毎に行われるメンテナンスの際に行われる。その達成度は我々が『ベルラ・マニエラ』へとどれだけ近づけているのかという指針となる。『スーラの点描』が完成へと至る道でもある。


 かつて青く輝く惑星であったデータを、カナリーは完成系の一例として語っている。『スーラの点描』は決して描けないものではなく、我々が世代を超えて描き続けていきたいと望む作品である。







点が広がり重なり、ちりばめられて描かれていく絵図。

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