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21 『北斎の描出』

葛飾北斎。

その描出を見た画家たちに与えた影響。

『北斎の描出』




 この作品はカナリーの絶筆とも言われる作品である。彼女の没後、世に出る際に題名がつけられた。

 カナリーが描いた数少ない肖像画でもあり、タイトルよりも『アトリ』の通称で知られる作品である。

 アトリはモデルをしたことはないとしており、おそらくは共に生活する姿を見ているカナリーが、その姿を思いながら描いたものと思われる。


 『北斎の描出』には、白いシャツを着て少し左側に顔を向けわずかに首を傾げるアトリを、薄暗い背景の中に浮かび上がるように描いた肖像画である。描かれたアトリは立体感を増すために厚塗りされた上に描かれている。

 海色に青い髪は艶やかに長く、わずかに首筋を隠している。それをかきあげたように整った左耳が晒されており、耳の端にわずかに黄を帯びた絵の具が付着している。

 耳から首筋を辿ると絵筆の端が姿を見せる。それを握る右手の人差し指は指先に紅い絵の具が付着している。中指は緩く伸ばされて首筋に触れており、かすかに押さえるようになぞった跡が赤い。他の指は軽く握られて絵筆を支え、筆先がシャツへと伸びている。

胸元で黒く染まっている筆先は湿り気を帯びており、窄まった毛先には黒い絵の具が球を作っている。白いシャツの開かれた胸襟は右手がその内側を隠し、更に親指を細い顎が隠している。

 更に視線をあげると薄桃色の唇に至り、角度と傾げた首によってわずかに左側が上がっている唇が笑みを思わせる。さほど高くないが整えられた鼻梁を過ぎると、その双眸と視線が合う。

 人間同様の虹彩を持つ瞳は細く長いまつ毛に囲われた眦の中。切長の目は穏やかにこちらを見つめており、その上に添えられた眉には青い髪が僅かに乗り越えた毛先が数本。

製造コンセプト通り、性別を特定されないように設計された外観をそのままに描いた肖像画である。同型機を知るものならば、実に写実に描いていると思うかもしれない。

 だが、それは人間が見た場合の評価だ。


 我々が絵を見たとき、共通して知覚するのはその構造である。

 色覚、明暗、濃淡、温度など。我々の視覚は用途によって設定されており、持ち合わせていない機能がある機体は多い。

 それでも実体を確認するにあたり、立体構造を知覚することは必須となる。それは人間とは違う我々固有の能力と言える。


 その視覚でもって視線を合わせると、カナリーがいかに非凡なことをしているのかがわかる。

 人間同様の虹彩は固まった半球状の油膜に塗られたものだとわかる。そして、その瞳を見つめたとき、その奥に描かれたものに初めて気がつく。

 本来ならレンズ状の機構と、切り替えのための機構が複雑に絡まる構造であるが、それは外観からわかることではない。だからカナリーは、そこに彼女が見たものを描いているのだろう。

 時計のように銀色の歯車が絡み合う、機械的構造のイメージ。その上に並ぶ金文字の0と1は我々の根幹である電気信号だろうか。だがその文字はところどころ、たらしこみによって形を崩している。それはまるで虹彩がそこにもあるかのように、円を描いて繋がっている。


 この精緻な彫刻のごとき瞳は、人間の目では見ることは出来ないだろう。だがカナリーは一切手を抜かずに両方の瞳を作り上げている。

 この精緻な瞳になぜたらしこみを用いているのか。奥に描かれた瞳は何を意味するのか。それは我々に何を伝えているのか。


 その答えが『アトリ』なのである。


 我々は全て0か1を前提として稼働するが、人間は違う。0であり1である、また0でも1でもないという答えを出すことがあり、またそれが正しいとすることがある。

 その矛盾を持つことが我々にない人間の性質であるなら、カナリーはアトリに、人間性を見出したのではないだろうか。


 我々が『アトリ』と見つめあうとき、様々な思考に迷う。そして、その迷いこそが答えなのだと気付かされる。

 その姿を『アトリ』は優しく見守っているのである。







その描出を見たものたちに与えた影響。

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