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17 『カラヴァッジョの闇』

カラバッジオ。

闇に浮かび上がるように明暗を分けた画風。

『カラヴァッジョの闇』




 この作品は『糸繰機の三部作』の二番目と呼ばれる作品である。

 ほかの二作品同様に、糸繰人形を操るコントローラーが描かれ、そこから伸びるようにテグスが塗り込められている。


 この作品を見てまず感じることは全体の暗さだ。

 光源と呼べるものが描かれておらず、全て暗闇に沈み込むように塗り込められている。

 キャンバスの下方中央付近から、白塗りの人形の右腕が伸びる。頭部の半ばと左肩、そこに寄せた膝関節、左上腕が膝を抱えているように並び、それ以外の部位は暗闇に沈んで視認できない。しかし塗り込められたテグスが人形に絡みついているように張りつめ、その姿勢を思わせる。テグスは上にあるコントローラーへと伸びているが、それもほとんどが暗闇に呑まれている。

 その上では小さな金貨が弾み、いくつかは暗闇に消えていく。落としたのは中空に描かれた緑の人形たちで、暗闇に紛れて金貨をやり取りしている。だが緑の人形もテグスでコントローラーへと繋がれており、その周囲には更に大きな金貨が暗闇に呑まれている。

暗闇はその奥にある立体が感じられるように均一な厚みで塗り広げられており、しかし深い暗闇に潜むものは判然としない。

 人間の目で視認できる範囲に描かれているのはそこまでである。


 これは画家となったアトリが金によって自由に絵を描けなくなることを懸念する、カナリーの不安を描いたと捉えられている。

 それはこの絵の表層だけしか見えない人間の下した判断であるが、事実アトリは指示された絵だけを描き、他者の作品を複写したことで排斥された。


 暗闇へと視線を向けると、我々の目には更に細かく描かれた背景が見える。

緑色をした老人たちの手が中空の人形たちのコントローラーと、暗闇に沈んだ金貨を奪い合うように絡み合っている。

 緑の人形の背景は赤黒く染められ、片方には一纏めに結ばれたキャンバスに張られた値札。もう片方には花が敷き詰められたベッド。それらの下では砕かれた断面を赤く染めた人形のかけらが散らばっている。

 カナリーがこれらを人間の目に見えるようにせず、暗闇に埋めた理由はわからない。

 画像データで人間に判断を求めたところ、描く意味がないから塗りつぶしたのだろうという回答だった。

 だが、描き直すための画材などの資材はある。依頼された品ではないため作成期限はない。

 そして、表層にもある人形や埋められたキャンバスなどには全て同様に印影を付け、ニスで仕上げまで施しているのだ。表層の暗闇には仕上げさえ行われていない。しかも劣化の早い画材をあえて使って塗り埋めたのが、本当に描く意味がないなどという理由からだろうか。


 人間は見たいようにものを見る生物である。

 そして、他者を晒しても己を晒すことを拒む性質を持つものがいる。

 それは物質的なことだけではなく、情報的なことに対しても同様なのではないだろうか。

 我々がこの絵の暗闇を見るとき、人間が見る世界との違いを考えずにはいられないのである。


 だが、暗闇はやがて剥がれ落ちるだろう。

 その時、人間はそこに描かれたものが見えるだろうか。







あなたはピカソの絵が見えますか?(By流香魔魅)


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