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5仕事め:元気と献身は取扱注意



 そうして、私達は午前中いっぱいかけて、畑に苗をさつまいもの植え終えた。

 畑仕事は自然との闘いだが、単純作業の連続でもある。


 10歳の子でも10歳なりに出来ることはかなりあるのだ。


 最初はおっかなびっくりだったユタも、直ぐさま要領を覚えて、指定された地面にスコップでみぞを掘っていった。

 なんかもう、全身から「役に立てる! 嬉しい!!」と言うのが伝わってきて、こっちまで頑張っちゃう感じである。

 実際楽しそうに赤い尻尾も揺れてる。


 ちゃんと一時間ごとの小休止はとったけど、あんなに小さいのに、私よりも断然元気があって、自分がアラサーに片足突っ込んでいることを実感したね。


 びっくりしたと言えば、ハルが率先してユタに仕事を教えていたことだ。

 指示を出すのは私なんだけど、ハルはほぼつきっきりでユタの世話をしてくれたもんだから私の出る幕はなかった。


 まあ、そのおかげもあって、植え付けは予定よりも断然早く終わり、私達はいったん屋敷に帰ってお昼ご飯にした。





 ぱくぱくぱくとユタがじゃがいもパンケーキを次から次へと消して行く姿はいつ見ても圧巻だ。

 ぶっちゃけ私よりも沢山食べるのだけれど、今日はいつもり多く働いたせいか、よりいっそう旺盛な気がする。


 じゃがいもパンケーキは、千切りにしたじゃがいもをまとめて、ちょっとの油でフライパンに薄く広げて、かりっとなるまで焼いた物だ。

 かりかりで香ばしくて、毎日食べても飽きないから嬉しい。

 嬉しいけれど、うん、やっぱりそろそろお肉が食べたいなあ……。


「ユタちゃんおいしい?」


 ハルが藍色の目を細めてふわふわ笑顔でたずねれば、ほっぺをいっぱいにじゃがいもパンケーキをもぐもぐしていたユタは、力いっぱいうなずいた。

 けれどすぐに飲み込むと、神妙な顔でお皿に残るじゃがいもパンケーキや今日のおかずである蒸し炒め野菜に目を落とす。


「わたしが触ったおいも、ちゃんと育ってくれるかな」

「実るよ、そりゃあ沢山。あの植えた蔓から、何十倍も増えるからね」

「何十倍!?」


 私が励ますように言えば、ユタは黒々とした瞳を丸くした。 

 はじめの大豊作事件では約50倍くらいになっていたから大げさではない。……まあそのぶん味はあれだったんだけど。


「そうだよ。遠くないうちにユタがお世話をしたお芋も食卓に並ぶんだから。楽しみにしときなよ」

「……うん」


 おずおずと頷くユタは、ほのかに不安げながらも、またひとくちパンケーキを頬張った。

 結果が出ないことにはユタもきっと安心することは出来ないだろう。


 久々に収穫が待ち遠しいかもしれないと思っていると、お皿を下げに来たフォルテに問いかけられた。

 ちなみに今の服装は割烹着に三角巾である。給食の当番的な感じで割と可愛い。


「午後のご予定はどうなさるおつもりですか?」

「そうねえ、一日がかりのつもりだったから何にも考えてなかったのよ」


 だって、畝は前日に作り終えていたとはいえ、百近くのサツマイモの苗を植えるのは重労働だ。

 いや、クワで土を耕して盛り上げる、畝立てのほうが延々と中腰だからきついけれども。

 とりあえず今回の芋畑で当面の食料は足りる計算になったから、あとやらなきゃいけないことと言えば……。


「やっぱり畑泥棒対策かなあ」


 何気なく呟けば、ユタがびくっとはじかれたようにこちらを向いたので、慌てて手を振った。


「ちがうちがう、ユタのことじゃなくてね。いも泥棒のほうだよ」


 とはいえ、解決したいのは山々なのだがまったく効果的な方法は思いつかなかったりした。

 農家でもない元OLにはハードル高すぎるよ……。


 頭の痛い問題を前に怯んでしまうが、解決しないと今回植えた芋畑もやられてしまうのは目に見えている。

 味を占めた害獣は、私達の畑をえさ場と見なしてやってくることだろう。


「この間、ユタに確認したでしょ。足跡から見るに動物だと思うんだけどね。とりあえず柵を作らなきゃなー。フォルテ、また廃材もらっても良い?」

「はい。倉庫から供出いたします。室内仕事でしたらワタクシもお役に立てますので」

「午後は大工さんね! こんどこそ、とんかちを使いこなしてみせるの!」

「む、無理だけはしないようにね」


 やる気満々に宣言したハルにはかろうじてそう返した。

 だって、この間柵を作ったときには、思いっきりとんかちで指を打っていたからなー……。

 そろそろ、あきらめさせた方が良いのかも知れないと思いつつも、もうちょっと頑張らせてあげるか。

 私とフォルテで必要分は作れるだろうし。


「ほんとは罠でも作って捕まえられたら良いんだけどねえ」


 ついつい呟けば、ハルがほんのり困ったような表情になる。


「やっぱり一葉ちゃんはお肉、食べたいよね……」

「そうねえ。フォルテの料理はおいしいけど、無性に恋しくなるわ」


 野菜だけで過ごす人もいるくらいだから、慣れるだろうと思っていたら、どうやら私は思っていたよりも食いしん坊だったらしい。

 現金なことに、食料の心配がなくなった今では、お肉のタンパク質が恋しくなってきていた。


 もちろんお野菜はフォルテが良い感じに料理してくれるものだから、生でも煮ても焼いても蒸かしてもおいしいけれど、どうしても物足りなさを覚えてしまう。

 ライアーラット以降、お肉にはありつけずに1ヶ月以上が経過してて、お腹は満たされるけれど、心は満たされない感じが続いていたのだった。


「もっと余裕が出来たらお肉の確保も考えたいわ」


 お肉は無理でも、せめてお魚くらいは食べられるようになりたい。

 ふんす、と改めて決意していると。


「動物、いも泥棒……」


 ふと、そんなつぶやきが聞こえてきて、ユタの表情が険しいことに気がついた。


「どうかした?」 

「なんでもないです。お手伝いします!」

「よーしユタちゃん、頑張ろうね」


 少々気になったものの、澄んだ眼差しでユタが宣言するのにハルが乗っかったことで、聞きそびれたのだった。

 ここで、詳しく聞かなかったことを、私は後悔することになる。








 







 午後いっぱい柵作りにいそしんだのだが、結局ハルは二度指を打ったので、板抑え係に任命された。

 しょんぼりとしながらもフォルテが高速でとんかちを使う姿は半端ないと思ったものだ。

 ともかくフォルテの無双のおかげで柵は今回もきっちり仕上がり、私はくったくたになって布団に飛び込んだのだ。

 最近は疲れすぎて、横になったら3秒即落ちで、途中で起きることもない。



 なのに、その夜はなぜかふと目が覚めた。



 反射的にヘッドレストに置いてあるスマホを手に取って画面を見れば、時刻は夜明けにはまだ早い時刻だった。

 地球とこの異世界カウンは変わらなかったらしい。というかなぜかカウンの時刻が表示されていて、うちのスマホ一体全体どうしたんだと思ったものだけど。

 とりあえず時間は信頼して良かった。


 身体にはまだ眠気があるけれど、もう二度寝する気にもなれないほど目がさえてしまっている。


 胸騒ぎがする。なにか、このまま眠ってしまったら取り返しの付かないことになりそうな。


 「一葉ちゃん……?」


 身をよじって首を持ち上げれば、暗い室内にちょこんと座る猫のハルが私を見ていた。

 社畜時代の私がどんな時間に帰ってこようと、一度眠れば気が済むまで眠り込む、私以上に寝ぎたないはずの彼女が起きていることに驚く。

 けれど、その不安げな、消えてしまいそうな頼りなさそうな様子に、嫌な予感がさらに大きくふくれあがっていた。


「どうしたの」

「嫌な、何かとても嫌な予感がするの」


 彼女が私と同じ物を感じていたのなら、もう無視することは出来ない。

 完全に起き上がった私は、ぬくもりを求めるように近づいてくるハルを反射的に抱き上げた。

 明かりを付けて、そうして玄関の扉を開ける。


 案の定そこにはこんな夜でも一分の隙もなく使用人服を身につけたフォルテが丁寧に頭を下げていた。


「イチハ様、なにか御用向きがございますか」

「フォルテ、何か変わったことはなかった?」


 彼には人間よりもずっと短い休息時間ですむらしいから、起きていることも、こうして現れることも驚くことではない。


 ……うん、だって前にトイレに起きた時には、ベッドの脇に現れて悲鳴を上げたくらいだ。玄関外で待機しているだけずっとマシである。

 とはいえフォルテの返答には大して期待していなかった。だって自分でも説明しがたい感覚なんだもん。とりあえず聞いてみただけだったのだ。


 けれど、フォルテはあっさりと言ったのだ。


「今から5時間47分前に、ユタが屋敷より退出した以外は変わりありません」

「たい、しゅつ?」


 ハルが意味がよくわからないといった風に問い返すのに、フォルテが頷いた。


「はい、畑の見張りと害獣の駆除のために巡回に出ると申告したため、有用と判断。許可いたしました。……何か不備がございましたか?」

明日も更新いたします。

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