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猫邪神とはじめる自給生活~異世界で美味しいご飯を食べるには~  作者: 道草家守


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3仕事め:炭水化物、ゲットしました

 

 調合釜に入れて、待つだけって本当に大丈夫なのかと一抹の不安を覚えたのだが。

 フォルテが入れてくれたお茶を飲みながらマニュアルをめくっているうちに時間は過ぎ、きっかり1時間後に出てきたのは本当に粉だった。

 黄色みがかっている以外は、小麦粉によく似た普通の粉だ。


 1時間に使った大半はトウモロコシの乾燥だったようだ。 

 からっからのフレーク状になったやつは、容積も10分の1位になっていたから、それだけ水分を飛ばすのは大変なんだろうけど。


 粉砕なんて、もうスイッチを押した一瞬あとには完成していて、え、こんなに簡単にできるの? 粉って!?って思うくらいあっさりしていた。

 やばい、あの調合釜とやらがすごすぎてやばい。


 ありがとう、アリーヤさん、ここに残していってくれてありがとう。男性か女性かもわかんないけど。




 私はこの世界の先人に感謝を捧げつつ、持ってきていたジップロックに詰めていれば、器用に手を拭いていた猫のハルがフォルテに言った。



「ねえねえフォルテはこれからどうするの?」

「ワタクシでございますか。昼食の準備をさせていただこうかと」

「ならあたし、フォルテが料理するとこみてみたいなあ。一葉ちゃんが料理するのすっごく楽しそうだったから!」

「そのような雑事お見せするわけには」


 そういえば、私がキッチンに立っていれば高確率でのぞきに来ていたなあ。

 根負けして、専用の物見場所を作ってあげたけど、あれはおこぼれに預かろうと考えていたんじゃなくて、料理するところを眺めていたのか。


 わくわくと身を乗り出す猫ハルにフォルテが戸惑いの表情を浮かべるのに、言ってみた。


「私も手伝いたいな。せっかく半日お休みしてるし、久々に何かしたいって言うか。もちろん、フォルテの邪魔にならなければだけど」


 私はそうでもないけど、自分以外の人間にキッチンに入られるのが嫌っていう人もいる。

 誰かに手伝わせるのが苦手という人もいるからと付け足したのだが、フォルテは困ったような顔になった。


「お二人には、できればお休みいただきたいのですが」

「たまには畑仕事以外のこともしたいのよ。前から料理は息抜きの一つだったから。まあ、トウモロコシ粉を扱うのは初めてだから役には立たないだろうけど」


 というか今の今まで、料理をはじめとする家事はフォルテにまかせきりだったから後ろめたいというか。

 決まり悪さに言葉を濁しつつもお願いしてみれば、フォルテは、どこかほっとしたような、顔をした?


「そうでございましたか。では、キッチンへご案内いたします。どうぞご見学ください」


 残念、見学だけか。

 まあ、入れてくれるだけましか、と思いつつ、私はわくわくしながらトウモロコシ粉を抱えたのだった。







 幽玄屋敷のキッチンは、アイランド式のどこのレストランの厨房ですか?といった感じのところだ。

 実用性が機能美につながっているような、でも所々装飾的なタイルも使われていたり、木製の戸棚がちょっとかわいかったりして料理が楽しくなりそうな場所だ。


 実はここに入るのも初めてだった。

 収穫した野菜も全部フォルテにお任せだったものだから……。

 私は手伝う気満々、ハルは応援する気満々だったのだが、やっぱり手伝いは要らなかった。


 コックコートに着替えたフォルテは、虚空へ視線を向けた。

 すると、戸棚から引き出しから調理道具が出てきて、整列したのだから。


「ワタクシは、この屋敷の中の道具は自由に動かせますので」


 唖然とする私にフォルテはそう説明しつつ、すととととっと包丁で材料を切っていく。

 さらに4口あるコンロを駆使して同時進行で料理を進めていったのだ。

 人が働いているのに、自分だけ座っているのはちょっと気がとがめたものの、私はフォルテの鮮やかな手際に見入った。


 切られた野菜が宙を舞い、鍋で煮込まれ、トウモロコシの粉が様々なものに形を変えていくのだ。

 ハルなんて終始はしゃぎっぱなしだった。私だってそうだ。

 手伝わせてもらいたいけどこれは入り込む余地がない。


 少々残念だったけど、と言うわけで、本日のお昼は、できたてほやほやのトウモロコシの粉を使った料理が並んだのだった。





「トウモロコシの粉で作りましたトルティーヤです。野菜などを包んでお召し上がりください。こちらはトウモロコシ粉で打ったパスタでございます。今回はシンプルにトマトソースを絡めました。最後にこちらが、カウンの一部地域で主食となっているポレンタでございます」

「おおおお……!」


 次々に出される品々に、私とハルは目を輝かせた。

 うっすらと焼き色がついたその生地は、薄く手のひら大に焼かれていて、ほのかに甘い匂いが漂っている。

 傍らには炒められたりゆでられたり、生だったりする野菜が、ケチャップやマヨネーズと一緒に並べられていた。

 パスタは平打ちの太めに切られていて、赤々としたトマトソースが絡められた姿はもはや本場イタリア料理顔負けだ。

 ただ、ポレンタって言われた丸くて黄色いマッシュポテトの塊みたいなものはよくわからない。


「ポレンタは、鍋で油や塩とともにトウモロコシ粉を練り上げたものでございます。ソースをつけてお召し上がりください」

「なるほど。じゃあ、いただきますっ」

「いただきます!」


 手を合わせて私とハルはフォークを握った。

 私はまず、気になっていた薄焼きパン、トルティーヤに手を伸ばす。

 きゅうりやにんじん、ちょっと辛い大根の千切りをのっけてくるくる巻く。


「あ、破けちゃった」

「トウモロコシ粉は粘度が低いので、少々破けやすくなっております」


 フォルテの補足になるほどと思いつつ、破けたところを押さえつつ、ドレッシングを振りかけてぱくりと一口。

 トウモロコシのトルティーヤはもっちり、と言うよりさっくりとした歯ごたえで、野菜の間からほのかに甘い舌触りがした。

 小麦粉でできたやつとは微妙に違う、けど。これ!


「ラップサンドだああ……」


 じゃがいもじゃない、豆じゃない。

 しかもこんなおしゃれなご飯が、うちでも食べられるなんて思わなかった。

 私が感動していれば、ハルが藍色の瞳をきらきら輝かせていた。


「一葉ちゃん、パスタすっごくおいしい!」

「なんだと!」


 その言葉に私は自分のパスタに手を伸ばす。

 たっぷりソースを巻き込みつつ、フォークに麺を絡めて、口に入れる。

 咀嚼すればトマトソースの酸味と一緒に、ほのかにあまい麺が歯切れ良く口の中で踊った。


 思っていたよりも麺だった。しかもちゃんとパスタしてる!

 確かに、なんとなくトウモロコシの味はするけれども、十分すぎる満足感だ。

 すごい、まさか米も麦もないのに食べられるなんて。


 そう思ったらもう、フォークが止まらなかった。

 けど、はっと思い出して、ポレンタとやらにも手を伸ばす。

 お皿に丸く盛られたそれをすくって取り皿に移して、添えられていたなすのトマトソース煮込みをかけて一口食べた。

 ちょっと固いのかな、と思ったけど、柔らかくてもちもちとした食感とともに、トウモロコシの甘さが広がる。

 おおう、これもじゃがいもとはちがうもったり感が面白い!


「ポレンタは冷えると固まり弾力を持ちますので、切り分けてトーストやフライにしても美味です」

「それも食べてみたい!」

「では、朝食にでも」


 ハルがリクエストすれば、フォルテがそう返事をしていた。

 私達が夢中になってフォークと箸を進めていれば、お皿はきれいに空になっていて、お腹はほかほかと幸福感に満たされていた。


 やっぱりご飯がおいしいとテンションが上がる。


「お気に召されましたか」

「ありがとう、フォルテ、幸せだった……」

「よろしゅうございました。では、こちらの料理をメニューに追加いたします。卵と牛乳が手に入れば、パンケーキやコーンブレッドを焼くことも可能です」

「いつかできるようになると良いなあ」


 夢は広がる、そしてお腹も膨らむ!

 食べ過ぎて苦しいけれどはふうと、幸せのため息をつきつつ、そう言えばと聞いてみる。


「ねえ、あとどれくらい粉が残ってる? じゃがいもと交互くらいで食べたいな」

「はい、約2カロのトウモロコシを製粉いたしまして500カロンになりました。そのため、今回の製粉したものほぼすべてを使用した形です」

「なんだって」


 若干血の気の引いた私とハルは、顔を見合わせた。

 カロはキロ、カロンはグラムでだいたい考えている。

 つまり、粉にすると4分の1になるわけで、そんなに少なくなっていたのかと言うのと、それだけの量をぺろりと食べてしまった自分達に戦慄していた。


「あんな沢山のトウモロコシ、たべちゃったの?」

「はい。残っているのは、ポレンタのみです。おそらく一食に必要な粉は最低100カロンと思われますが」


 トウモロコシ一株植えて採れるのは今のところ1本から2本。おいしくならせるためにはそれくらいが順当だって本に書いてあったからだ。

 実際に、欲張って沢山生らせた株ではちっちゃいトウモロコシしか採れなかったからそんなもんだろうと思っている。

 と言うことは、トウモロコシ20本で5食分で、それを収穫するのに最低10株は必要で……?


 素早く計算した私は、真顔でハルに向き直った。

 たぶん、たいそう目が据わっていると思うけど、ハルも似たようなものだ。


 こいつは食いしんぼの顔である。


「ハル、これからトウモロコシ量産体制にはいるよ! 目標は週に2回、麺かパンケーキ!」

「うん! あたしも頑張るの!」


 フォルテにおいしく料理してもらえるとわかった今、自重はしない!

 ハルと一緒にやる気万倍になった私が、拳を握って決意していれば、かすかに息を漏らすような音がして、ふりむいて、びっくりする。


 フォルテの口角がほんのすこしだけ上がって、微笑んでいたのだ。

 本当にかすかだけど、ほとんど見たことがない笑顔の破壊力たるやすさまじく、私は思わず見惚れてしまった。

 けれども幻のようにいつもの無表情に戻る。


「かしこまりました。トウモロコシ粉は保存にも大変適しております。ワタクシもお二人に楽しんでいただけるよう、精一杯料理させていただきます」

「うん! フォルテ、楽しみにしているよっ」


 ハルがフォルテに朗らかに返すのに、私は我を取り戻して言った。


「そうだね、じゃあ作付け計画立て直そう。フォルテも必要な作物があったら教えてね」

「恐れ入ります」


 もうフォルテはいつも通りに戻っていたけど、美少年の良いものを見たと心がほかほかした。

 たぶんきっとそんなに笑わない子なのだろうけど、もしかして、嬉しいとか思ってくれているのかな。


「じゃあ、今回はお礼をこめて私が皿洗いしようか!」

「それはワタクシのお役目でございますので。どうぞゆっくりなさってください」

「あ、はい」


 断固とした態度で断られてしまったが、いつかは一緒に料理ができると良いなと思いつつ。


 と言うわけで、芋、豆以外の炭水化物の確保ができました。



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