88A列車 「びわこExp.4」グリーン券への執着
「のぞみ64号」に乗り、岡山を出発する。GPS速度計でスピードを見ていると、かなり遠慮して走っているのがよく分かる。時速は230キロ前後で、本来なら300キロに到達しているであろうという区間でも230キロのまま巡航する。しばらくするとスピードを上げ始め、時速300キロで走る。
車掌が僕の隣を通りかかる。呼び止めようか呼び止めまいかと考えていたが、結局は呼び止めた。隣の車両に移ろうとしていた時だったし、迷惑だっただろうなぁ・・・。
「今、遅れはどうですか。」
「はい、今この列車は岡山13分遅れで出発しています。」
13分遅れかぁ・・・。所定は21時20分。13分遅れで新大阪到着は現状21時33分。まだ「びわこ」には間に合う。
「13分遅れですか。」
僕がそういう頃、車掌はタブレットを出した。さっき「さくら」の車内で見たモニターの携帯バージョンらしい。新大阪から岡山の間には遅れた列車ばかりがいる。姫路には「64号」を選考する「62号」、その後ろにはさっきまで僕が乗っていた「568号」がいる。西明石の手前には「752号」がいる。これをどうするのだろうか・・・。
「遅れはまだ拡大しますよね。」
「そうですねぇ・・・。今、姫路に止まっている「のぞみ62号」が出発しないと「さくら568号」が入れないので・・・。」
「そうですよねぇ・・・。「さくら568号」は所定で姫路止まりますから、止めないといろいろとダメですよね。」
だが・・・。
「「のぞみ62号」って所定で姫路止まるやつですか。」
と聞いた。山陽新幹線を走る「のぞみ」はごく少数を除き姫路、福山、徳山、新山口に選択停車する。それが気になったのだ。
「恐らくそうではないでしょうか。」
曖昧な返事で終わった。
車掌と話している間に「のぞみ64号」が失速し始める。車掌とこの先のことについて話し終わってから、また自分の座席に着いた。その時には姫路の手前まで来ている。スピードは100キロぐらいまで落ちているが、
「あっ、加速しだした。」
「さくら568号」を所定通り姫路で追い抜くようだ。姫路を通過すると「64号」の左側には岡山で降りた「さくら568号」が止まっていた。あのまま乗っていたら、新大阪には先着できないばかりか、「びわこエクスプレス」にも間に合わなかった。これで少しは「びわこエクスプレス」に間に合う可能性が上がった。
と思ったのもつかの間だった。次の西明石通過のタイミングでは時速20キロぐらいにまで失速する。停車一歩手前まで言って再び加速する。西明石では列車が待避していない。もしかしたら、「のぞみ62号」と「64号」の間に「こだま752号」をツッコんだのかもしれない。だが、それを知るすべはない。車窓にはライトが光っている明石海峡大橋を見ることが出来る。
ちらりと時計を見る。時間は21時15分を過ぎている。新神戸の到着アナウンスはまだ流れない。新神戸→新大阪間の所要時間は15分くらい(13分ほど)だ。今の時間から新大阪の到着予想時間を計算してみると21時35分。だが、さっきの西明石での失速を見る限り新大阪の手前で止められるのは必至だが、新神戸の手前でも止められるだろう。到着は今よりも更に遅くなる。21時35分までに新大阪に到着すれば、後は走ってなんとか間に合わせるが・・・。
「びわこエクスプレス4号」京都22時06分発・・・。
「・・・。」
僕は1号車の乗務員室に向かう。姫路を通過してから、僕が話していたとおりになったとわざわざ報告しに来てくれた。そして、その後車掌の姿を見ていない。乗務員室にいるのは確定している。
「まもなく、新神戸です。」
新神戸の到着直前アナウンスがようやっと流れる。だが、「64号」は僕がにらんだとおり新神戸の手前で停車した。前の列車が新神戸をたってから「64号」が新神戸に入る。新神戸で客扱いしている時、
「すいません、ちょっと後でよろしいですか。」
と車掌に聞いた。
「分かりました。新神戸出発までしばらくお待ちいただけますか。」
との回答があった。
新神戸を出発し、ホームが後ろへ過ぎ去ると乗務員室の扉が開いた。
「はい。お待たせいたしました。」
僕は車掌に切符を見せた。
「あの、今僕はこういう切符で来ているんですけれども、新大阪でたぶん「びわこエクスプレス」には間に合わないと思うんです。なので、新幹線を京都まで乗り越して、京都で「びわこ」に間に合わせようと思うんです。」
僕はそう切り出した。
新神戸で「64号」は遅れている。到着は新大阪の手前で止められなかった場合で21時35分。接続はかなり厳しい。これを京都にした場合、「びわこエクスプレス4号」の京都出発は22時06分。「のぞみ64号」であれば21時45分に新大阪を出発すれば京都着は21時58分となり、間に合うのだ。
「そういうことって出来るんですかねぇ・・・。いや、そんな詳しいところまで分からないんですけれども・・・。」
そう問い合わせてみた。聞くところ、車掌が出来るのは料金の徴収だけらしい。乗車変更するにしても料金が上がる場合でなければ取り扱わないというのだ。僕の持っている「びわこエクスプレス」の切符は1870円(乗継割引)。京都→守山間のグリーン料金は1650円(乗継割引)。料金が下がるため、変更は出来ない。
「うーん・・・。ああ、でも仮に今ここで新大阪、京都の特定特急料金860円を払えば、一応は高い金額を徴収したことにはなりますよね。」
「・・・えーっと・・・。ちょっと待ってください。」
お金の話だからなぁ・・・。
「一番の方法は駅で窓口に行っていただくことなのですけれども、そんな時間もないですよねぇ。」
時間は刻一刻と迫っている。車掌は新幹線特急券を買えたりという方法も考えていたが、13分という短い時間の中ではとてもじゃないがいい方法は思いつかなかったようだ。
「まもなく、新大阪です。JR京都線、JR神戸線、地下鉄御堂筋線はお乗り換えです。」
新大阪到着直前アナウンスが流れ始める。だが、「64号」はそのアナウンスが流れてもまだ新大阪には入らない。また待たされた。僕はその間に自分が座っていた2号車に自分の荷物をとりに行った。戻ってきてもまだ車掌は頭を抱えている。
「・・・。」
「ちょっと問い合わせてみます。」
車掌はそう言い、電話を手に取った。
「こちら1号車乗務員室です。8号車どうぞ。」
車掌は車掌長と話し始めた。
「お客様から「びわこエクスプレス」に接続できないかという問い合わせを受けまして・・・。2号車に座っていた方なんですけれども、今は乗務員室の前に来られています。」
どうだろうか・・・。仮に「びわこエクスプレス」が多少遅れても接続を取ってくれるのであれば、猛ダッシュするのだが・・・。
話が終わったようで車掌は電話から顔を離す。
「申し訳ありません。どうも、新大阪では「びわこエクスプレス」には接続取ってもらえないみたいです。」
とは言ったが、この後東海の車掌に引き継いでくれると言うことなので、京都駅で「びわこエクスプレス」に間に合うというのは確約されたようなものだった。




