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第十二話 揉みしだけ!私のちっぱい!

「童貞賢者ならここにいるっすよ? ねえ、ご主人!」


「だ、誰が賢者だ、マジでぶっ壊すぞこの野郎!!」


 何やら俺たちの背後に立った金髪のイケメンと会話していたニムが、急に俺の方を向いてそんなことを言ってきやがった。というか、本当に毎回毎回こいつはマジでムカつくぜ。

 それで、ちらとニムに声をかけていた男へと視線を向ければ、今度はそいつが訝しい目つきで俺をジッと見つめてやがった。これはあれか? いつものニム狙いのナンパ野郎か? と、そう思っていたら、その男の背後には金髪縦ロールふんわり系お嬢様、茶髪ショートの褐色美少女、それと銀髪ロングポニーテールの長身美女と、より取り見取りなかわいこちゃんを引き連れてやがった。それを見てニムが、『イケメンは連れてる女の子もレベル高いっすねー、ご主人ももうちょいカッコよくなれば、あんな風に映えるはずなんですけどねー……なんでダメダメな感じなんすかね?』とか、そんな失礼なことを言い始めやがった。

 マジでふざけんな!

 手元の冷えたエールをグイと飲めば、隣のニムがけらけらとおかしそうに笑った。


「ご主人にはワッチがいるじゃないっすかー! 童貞言われるの嫌なら、抱いてくれていいんすよ? ワッチもヴィエッタさんもいつでもウェルカムです!!」


「うるせいよ! 絶対抱くか、この馬鹿!」


 ニムはまったく俺の言葉を意に介さずに俺へとしな垂れかかって、こつんと頭を肩に乗せてきた。

 こんなバーのカウンターで酒を飲みつつ二人並んでのこの行為、見る奴が見れば完全に出来上がったカップルとしか映らないだろう。こいつマジで酔っ払ってるんじゃなかろうか?

 気が付けば、さっきのイケメンと美女軍団は消えていた。いったいあれはなんだったんだ? ただ連れの可愛い女を見せびらかしたかっただけだとか? くっそ、本当に世の中間違ってる。

 あんなモテモテリア充のイケメンが蔓延ってるから、真面目一辺倒で生活してきた純朴な子が、『実は身近に自分にとっての大切な存在が居たんだよ?』という感じで恋愛に発展して結ばれるという流れが、ぶち壊しになってるに決まってる!(思い込みっす) 純朴な子がああいう良からぬイケメンに惑わされて純潔を失い続けているんだ!(言い掛かりっす)

 ぐぬぬ……許すまじ、世のモテイケメンども!!(ただの僻みっすね)


「まあ、ご主人の気持ちはだいたいわかりやしたけど、そんなの今どうでもイイじゃないっすか! せっかくのデートなんですからもっとイチャイチャしましょうよ!」


「あほか! デートなわけねえだろうが! お前な、ここに来た理由覚えてないの? バネットだろうがバネット!!」


「あー、そういえばそうでした……?」


 そう、俺達は今、バネットを捜しにここにやってきていた。

 宿屋でアレックス殿下たちが帰った後、あーだこーだやったその後でニムが帰ってきたわけだが、二ムはばっちり連中の住処を見つけてきた。

 といっても、そこはただの孤児院だったようで、ナツとウーゴと呼ばれたあの二人の男の子たちも含めてそこで寝起きをしているとの話。

 当然そこがレジスタンスの本拠地であるとも思えないことから、後々それは探ることにして二ムは帰ってきたのだという。

 さて、そうして帰って来た二ムに俺は、バネットが現在どこにいるのかを捜させた。

 ニムの高感度ハイパーセンサーはかなり遠距離まで対象物を識別することが可能であり、実際に人間がいるかどうかくらいであれば、生体センサーと収音センサーの二つだけで容易に数キロ先の存在を確認することも出来る。だがこれは、あくまでその『人間』という存在を知覚するためだけの方法だから、その個人を特定するまでは難しい。

 当然これだけであればバネットを探し出すことは困難ではあるのだが、彼女の場合はすでに探索に必要な識別データが揃っていたから簡単だった。なにしろ、以前一度、窃盗を行ったバネットを追いかけるために詳細なデータを二ムは取り込んでいたわけだからな。

 ということで、容姿、声、匂いなどの個別識別データを用いてセンサーで捜索した結果、なんと彼女は王城にいたことが分かった。しかもその場所は王城の上層階。明らかに王族が居るであろうそのエリアに留まっていたのだ。

 いったいこいつは王城で何をやっているのか?

 そう考えてみたところで、バネットが実はいい歳だということで、過去に王城がらみで何かの因縁でもあったのではないか? と推察することは出来たものの、当然その場の全員が彼女の過去を知っているわけもなくその予測は棚上げ。

 まあ、帰ってきたら聞けばいいかと思っていたのだが、バネットは王城を出ると今度は歓楽街方向へと足を向け、そしてこのショットバーの様な店にかなり早い時間から入店し、それからずっとあの部屋にいたというわけだ。もういい加減待っているのも嫌になり、ヴィエッタやオーユゥーン達にもやっておいてもらいたいことがあったから、こうして俺とニムの二人が迎えに来たというわけだ。

 だが……

 俺達が店に着く寸前に、そのバネットのいる部屋に『女』が入ったことをニムが知覚した。そしてなにやら密談のようなことを始めたもので、こうして俺達は客の振りをしながら、壁越し喧騒越しにバネットを観察しているというわけだ。

 なのに、この機械ときたら……


「思いっきり忘れてんじゃねえか。もうどうでもいいからほれ、今バネットが何してるか教えやがれよ」


「へーい」


 二ムはそう言いつつ、喧騒に包まれたこのバーの店内の更に奥の方……ガチムチのガードマンみたいな奴が立っている扉の脇辺りに視点を固定した。

 そしてぽそぽそと呟いた。


「さっきと変わっていませんねー。女性と向かい合って話しているだけですよ? でも……ふむふむ、なるほどなるほど。ワッチのハイパーセンサーでもこの雑音の中じゃあノイズが酷くて直接は聞き取れやせんけど、熱源感知で可視化した唇の動きも合わせて読み取ってみますね。えーと、王様がどうたらで? 国がどうたらで? それで死んでどうたら? なんなんすかね?」


「知らねえよ、てめえが読み取ってんだろうが、俺に聞くんじゃねえよ。そもそもそのどうたら? が大事なんじゃねえかよ」


 まったく、本気でこいつ、ハイパーセンサー宝の持ち腐れじゃねえか? 1km先で針を落とした音すら拾える性能があっても、集積されたデータから音紋を特定・選別する作業をこいつがやってる時点で不安要素増大しやがるからな。まあ、作ったの俺なんだけども。


「ふむふむ……えーとですね? 『臆病で、慎重で、わがままで……恥ずかしがりやで、良いカッコしいで、見栄っ張りで……エッチで、スケベで、変態で……ってこれまるっきりご主人のことっすね! あはははは」


「なんだとあの野郎!!」

 

 っざっけんな! あのクソチビロリ鼠、俺がいないのを良いことに悪口言いまくりやがって‼ 許せん!!

 

「ちょ、ちょっとお客さん、この先はご予約のお客様のみですよ……」


「ほらよっ!!」


「え……あ……こ、こんなに!? うへへ、ど、どうぞ」


 俺を通せんぼしようとしていた立ち番の大男の手に5000ゴールドを握らせて俺はそこを素通り。そして、洒落た通路の最初の扉を思いっきり勢いよく開け放った。


「やいてめえバネットこの野郎! 人の悪口言いまくってんじゃねえよてめえ!!」


「おや? ご主人様流石だね!! 私の隠密無視して辿り着いちゃうなんて最高だよ! そんなに私に会いたかったの?」


「マジでふざけんなっ! てめえいいか!? 人の悪口をそいつのいないとこでするほど悪質なことはねえんだよ! 危うく鬱病で寝込んじゃうとこだったじゃねえか!!」


「あ、ちなみにご主人? あのあとバネットさん、『でもね、優しくて、まっすぐで、最高に素敵なご主人様なんだ!』ってえへって笑いながらご主人のことを褒めてましたよ? いやあ、ご主人最後まで聞きましょうよ、ワッチも面白くてあえて言わなかったんですけどね」


「なんだとてめえっ!! ……ん?」


 もはやなんで怒っているのかだんだんわからなくなってきていたその時、ふと視線を動かしてみれば、バネットの対面の椅子に腰を下ろして引きつった苦笑いをしている一人のメガネをかけたローブ姿の女!!

 明らかにこの状況に戸惑っている様子で完全に固まってしまっていたのだが、俺はその顔を見て、唐突に思い出し、つい叫んでしまったのだ!


「あ、あーーーーーーっ!! め、『メガネ裸ローブ』の『痴女』!!」


「ええええっ!?」


 愕然とした表情でやはり絶叫する裸ローブ痴女。

 彼女はガタガタっと椅子を蹴って立ち上がると、俺に向かって吠えた。


「ち、痴女じゃないです!! こ、このローブの下だってちゃんと着て……」


 と言いつつ、自分のその茶色のローブをがしっと掴んで開こうとしやがった。だから俺は慌てて目を瞑って首を振った。


「や、やめろっ!! ど、どうせあれだろ? まっ()じゃなくて穴あき下着とか、ヒモ下着とか、そんなの着てるから裸じゃないですよーとか言って、愉悦に浸ろうとかってあれだろ!? や、やめろー! 清純な男子を闇に落そうとかするなー!」


「ち、違います! 違いますからっ! ちゃんと着てますから! ほら、ほらぁっ!!」


「くっ……てめえだけはそんなことしない奴だって信じてたのに! アンデッド怖くて震えてた俺を助けてくれたって感謝してたってのに! 結局てめえもただの露出狂ナルシストのただ変態痴女だったんじゃねえか!!」


「な、なななな、何を言ってるのですっ!? だから本当に違いますから、信じてくださいってば! 本当に私は痴女じゃなくてですね……」


 その時のことだった……


「ふふふ……漸く魔力を感知できたわ。この王都にいることは分かっていたのだけれど、なるほど、あなたはその『魔封じの衣』を纏って自分の魔力を遮断していたのね。まったくやられたわ」


 そんな声が唐突に部屋の奥の方から聞こえたかと思うと、そこにいたのは一人の長い銀髪の女。地面に着きそうなほどに長いその髪を微かに揺らめかせつつ、微笑みを浮かべてまっすぐこちらを見ているのだが、その恰好がとんでもなかった。

 簡単にいうと、ボンテージな拘束衣。黒いベルト状の服なのかヒモなのかで全身をグルグルに巻いたというか、隠しただけというか、肉にめり込みまくった感じで体中を締上げさせ、その衣装のところどころの穴に鎖やロープの切れ端が垂れ下がっていて、明らかにプレイしたまま着替えずに来てしまいました風な感じなのであった。

 

「うわぁ、もう一人でた!」


「ちょ……だから私は違いますから!!」


 何やら俺の視野の外で例のメガネ痴女が何やらほざいていたが、もう俺はこんな不埒な連中とは目も合わせたくなかったので無視を決め込んだ。

 だが、はて? 部屋の向こう側にはドアは無かったはずだが、あの女どうやってあそこに現れたんだ? まさかずっと室内に……ってそれはないな。二ムは壁越しだったが、生体センサーで確認をしていたんだ。いたらいたって言うはずだ。なら……

 ボンテージ女が笑いながら話始めた。


「初めての方も多いみたいだから自己紹介するわね、ふふふ。私の名前は【スペリアネス】。人は私を『災いの魔女』なんて呼ぶのよ、失礼しちゃうわよね。私ってこんなにも尽くすタイプなのに、みんななんでか途中で逃げ出しちゃうのよね。うふふ」


 いや、それ多分、お前がただ怖いだけなんだと思うよ? だって俺いま超怖いもの。マジで目の前から居なくなってほしい。


「す、スペリアネス……最悪だわ……」


「ん?」


 何故か震える声でそう漏らしているメガネ痴女。ちらっとだけ様子を見れば、手に魔術師のワンドを持ち、何かの魔法の詠唱に入っていた。

 これは『結界』系の魔法か?


「あはは……そんなしょぼい魔法でこの私を止められるわけないでしょ? 話には聞いていたけど、ほんとに大したことないのね。ま、いいわ。あなたって相当に『価値』があるらしいものね。ここで私に殺されて、私のレベルのこやしになって頂戴な……オルガナちゃん!!」


「『聖防壁ホーリー・ガードウォール』!!」


「だから効かないって言ってるでしょ? 『ダークネス・サモンズハンド』! あははははははは」


 突然スペリアネスの周囲に靄が発生し、そこから巨大な黒い影のような手が現れてメガネ痴女へと襲い掛かった。メガネ痴女はといえば、自分だけでなく、俺達を含めた全員の前に光の壁を構築していたのだが、それも一瞬で巨大な黒い手によって破壊され、自分はその手のぶつかる衝撃で後方へとぶっとんだ。

 これはまた面白い魔法だな? あの手みたいな奴はそれこそ魔法で作られた疑似身体というべきものか。何かしらの魔法生物かなにかを本当に召喚しているのかもしれないな。今度ちょっとためしてみようか。


「あはははははははは、よっわーーーーい! 弱すぎるよ――――! そんなんで良く今まで生きてこれたねぇ。あ、そうか、魔力が減りすぎてもう死にかけてるんだっけ? うふふ……、ならなおさら私が殺してあげないとね。せっかく貯めた経験値が勿体ない物ね! あははははは」


 ボンテージ痴女は力を込めて身体を抱くようなポーズをとるのだが、その衣装がミチミチと音を立てて身体に食い込み、そのたびにビクンビクンと震えながら恍惚とした表情で微笑んでいた。

 こいつぁ、完全に変態だ。


「ば、バネットさん……み、みなさん、逃げてください。あの女はまさしく災いの魔女です。彼女は躊躇いなく皆さんも殺します」


 そう言いつつ、再びローブのすそから出した手でワンドを掲げようとする。 

 俺はその様子を見つつ、彼女へと言った。

 

「ま、やっとあんたに会えたし、あんたとは色々話したかったんだ。とりあえずこの場は助けてやるよ」


「え? え?」


 メガネ痴女は言葉もない。ただ呆気にとられて俺を見ていた。

 

「それに、あのスペアリブだか、スピリタスだかって変態はレベル38みてえだしな、ちょっとやそっとじゃ死なねえだろうから遠慮しねえでぶちかませるから」


「え? そ、それはどういう……?」

 

 質問しようとしているメガネ痴女をとりあえず無視して、俺は隣のバネットを呼んだ。


「おいバネット。お前の胸を触らせてもらうからな」


「さあおいで、ご主人様!! 揉みしだけ! 私のちっぱい!」


「揉みしだくかっ!!」


 俺はぶん殴りたいのを必死に堪えて、即座にバネットの幼い胸に手を当てた。そして一気に魔術を走らせる。


「ん? 貴様はいったい何を……?」


 不可解とでも言った風で俺を見つめていたボンテージ女が、首を傾げているそこへ、俺は一気に魔法を爆発させた。


「『重竜巻(フ・ヘビートルネード)!!」


「!? ば、バカなッ……」


 と、何かを言いかけた瞬間、奴は消えた。そう消えた、俺達の目の前から! というか、消えたというより、『打ちあがった』だけなんだけども。

 俺は瞬間、ごく狭い範囲で、ちょうどボンテージ女の立っていた直系50センチほどの空間のみで一気に超強力な高位魔法を炸裂させた。といっても今使えるのはバネットに憑いている『ノースウィンドゥ』とかいう風の精霊の力のみ。

 で、この街の中の、店の中の、更に人が大勢いる中で逃げるためにはどうしたら良いかと考えれば、おのずと答えが出てくるわけだ。つまり相手にいなくなってもらえばいいということだ。

 ということで、俺は奴の足元から頭上……それもこの店の天井、屋根も含めた直上に向かって真っすぐに空気の道を切り開いた。そして、威力だけで言えば複合魔法の超重力結界(グラヴィドン)と同程度はあるだろう、風魔法最上位級の攻撃魔法を思いっきり放ったというわけだ。

 おかげで奴は大砲……というより、超電磁砲的な感じで摩擦無しどころか超加速された状態で打ちげられることになった。

 流石に宇宙までは行っていないだろうけど、落下してくるだけでも相当時間かかるからな。ま、これで逃げる時間は稼げたというわけだ。


「きゃ」「わ」「はわわ」


 と、その瞬間部屋の中を一陣の風が駆け巡って俺達を撫でた。

 ま、全部を逃がしきれなかったわけだなーとか、思って見て見れば、ニムとバネットのスカートがめくれ、眼鏡痴女も必死になってめくれ上がりそうになるローブを押さえていた。

 というか……


「や、やめろよ! お前そのローブの下何も穿いてないんだから、絶対捲られるなよ!!」


「は、穿いてますから!! ちゃんとパンツ穿いてますから!! あ……」


 そして捲れたローブの内側に、俺はばっちり純白のパンツを見てしまったのだった。

やっとメガネ痴女に会えました。

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