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第一話 勇者を探すのです

「うーむ」


 俺は真っ白な空間に立っていた。そうただ立っていたのだ。

 だが、まあだからと言って別段驚くほどのことでもなかったのだけれども。

 俺はとりあえず見当をつけてまっすぐに歩む。そして徐々に現れる人気のない街並みと、正面に見える四本の尖塔とその中央に鎮座する城に向かう。

 門まで着くと、それを適当に押し広げ、すたすたと中へ。後はいくつか廊下を折れて、中庭を右手にしたままで突き当たったら、その左のふすまを開いて、はい到着。

 誰も中にはいなかったから、俺はつかつかと畳の上を歩いて、ついこの前座った場所に普通に座った。


 で、しばらくそうしていたら……


「はぁはぁ……紋次郎様……? どうしてこの城の主である私よりも先に接見の間に辿り着けるのですか? 迷いの暗示を無視して、まっすぐに到着しないでくださいませ。女神としての自信が消滅してしまいそうです」


「知らねえよそんなこと。一度来れば、大体はわかんだよ! それよりも、俺はてめえに言いたいことが山ほどあんだよ! わかってんだろうな、ノルヴァニア」


「それはこちらも同じでございます。紋次郎様は一体何者なのでございますか!? なぜあの『終末の獣達』をああも簡単に倒しておしまいになられたのですか?」


「はあ? 何者も何も、日本人だと言っただろうが! それに全然簡単じゃなかったんだぞ! 二ムの燃料だってギリギリだったし、γセルデストロイヤーだって、たまたま材料が揃ってたから作れただけだ。マジで死ぬかと思ったんだぞ。それよりもてめえ、やっぱり金獣のこと知ってたんじゃねえか」


「金獣……というのがあの『終末の獣』の紋次郎様の世界での呼び名なのでございますね。ええ、知っておりました」


「てめえ、開き直って澄ましてんじゃねえよ。教えろよ先に! そういう大事なことは」


「教えたとして、あれを倒せるなどとは到底思えなかったのでございます。私はただ、今しばらく紋次郎様に生きながらえて頂きたかっただけでございましたから、無用な話をして恐怖を植え付けたくはなかったのでございます」


「マジでふざけんなよ!? だったら何か? お前はあのバケモンが出てきたとして、俺だけは助けて、他の連中は全部見捨てようとしてやがってのか?」


「その通りでございます!」


「んなっ!?」


 俺は目の前で着物姿でピンと背中を伸ばしたまま正座して俺を見つめる絶世の美女の言に、絶句した。

 こいつの言葉はあんまりすぎた。

 なにしろ、あの時出てきたのはあの金獣……しかも出来損ない(ヘカトンケイル)ばかりではなく、大怪獣キング・ヒュドラまで現れやがったんだ。ここが地球なら、反攻しなければどんなに遅くても1年で世界は喰いつくされて滅亡するほどの存在なのだ。

 それを放置して俺だけ助けて、後はみんな見殺しとか、いったいそれをどの口が言うのか。


「てめえ……」


「紋次郎様が仰りたいことは分かっております。私が為そうとした行為が最低最悪のものであることも分かっております。けれど、世界を救うためにはこうするしかあの時の私にはなかったのでございます。終末の獣に如何に世界を蹂躙されようとも」


「はあ? 世界を救うだ? 金獣放置して救える世界なんかあるもんかよ。そもそもてめえは人類より自分のオナニーライフを優先したかっただけだったんだろうが! 散々人に醜態さらしまくりやがって」


「お、オナッ!? そ、それは、ひょ、ひょっとしてに紋次郎様のお情けを頂けるということでございますかっ!?」


「い、頂ける分けねえだろうが、っざっけんなこのくそビッチ!」


 しゅんと一瞬で項垂れるノルヴァニア。だが、彼女はすぐにまた背筋を伸ばして俺を見た。


「私が快楽を求めて止まないことに関しては何一つ申し開きしませんけれど……」


「ついに言い切りやがったな、お前マジで近寄んなよ!」


「も、申し開きはいたしませんけれど!! 今回のことはそういうことではないのです!!」


 強い語調でそう言った彼女は俺をまっすぐに見つめた。


「じゃあ、なんだって言うんだよ?」


「はい。紋次郎様に生きながらえて頂きたかった本当の理由は、『勇者』を探し出して欲しかったからなのです。探しだし、そしてその勇者を導いて欲しかったのです」


 そうはっきりと彼女は言い切った。


「はぁ? 勇者だ? 勇者ってあれだろ? ゲームとかの主人公で、魔王とか邪神とかを倒すっていうあれだろ? まさかまたあれか? ワルプルギスの魔女とかいう奴の予言なのか? 魔王を倒すとかなんとかっていう関連の話か」


 そう聞いてみれば……


「はい……」


 ノルヴァニアはすぐさま返事をして、そして沈鬱な顔になって俯いてしまった。そして口を開く。


「ワルプルギスの魔女に出てくる最後の章は、魔王と人類の壮絶な戦いがあると描かれておりました。それを最後に世界が滅ぶとも。ですから【オルガナ】はこの戦いを未然に防ごうと、魔王と目される存在の封じ込めに動き続けたのです」


「オルガナって、あれだろ? 元女神で、自分から女神を辞めて、5000年以上前から人類存続に奔走しているっていう、二次小説書きの女だろう?」


「??? ま、まあ、そうです。オルガナは『300年前』の『異形達』との戦いでその力のほぼ全てを失っておりましたが、この最後の魔王との戦いをなんとか避けようと、各地で魔王と呼ばれているモンスターの行動を抑制したり、強い力を持って生まれた存在を監視したりしていました。けれども、彼女の目を掻い潜り事態は悪化の一途を辿ってしまい、今回のような終末の獣の出現も許してしまいました」


「おいおい、その話だけを聞いて居ると、オルガナって奴はとんでもないお人よしだな。世界を終らせようとしている連中がゴロゴロしてるってのに、その原因になりそうともいえる連中を生かしたままにしているのかよ。大体それを一人でなんとかしようってのがおかしすぎるだろう? なんか身体も張って戦ってるみたいだし」


 なんとなくだが、さっきの話は聞いたことがあった。

 300年前の戦いといえば、あの『魔竜戦争』のことだろう。5英雄が各種族を率いて戦い、魔竜を葬り去ったというもはや伝説ともなっている昔ばなし。だけど、いろいろ腑に落ちない点が多いんだよな、この話。

 何しろ、魔竜がどんな存在だかが良く分かっていないのだ。

 首魁の名前が『メフィスト』という、どっかの偉そうな悪魔貴族みたいな名前だけど、それくらいしかわかっておらず、どんな姿なのか、どんな生物なのかは、口伝中心の物語の中では色々変遷を見せていた。それこそ、巨人だとか、竜だったとか、人の姿をしていたとか、はたまた霧みたいな触れることのできない相手であったとか……

 300年といえば確かに大昔ではあるけど、人類史の中でいえば300年なんてほんの一瞬だ。ちょっと昔にあった出来事だというのに、攻め込んできたその魔竜の遺骸の一つも存在しないなんてことがある訳がないのだ。

 まあ、目の前の女神様なら分かるのだろうと思って、聞いてみれば。


「わかりません」


「は?」


 そんな予想外の答えが返ってきた。


「いや、分からないって、それはどういうことだよ? お前が言ったんだぞ。この世界は我々女神が作りましたってな。だとしたら、この大陸に攻め込んできた連中だって、元をただせばお前らが作ったものの一部だろうが」


「それは違います。あれは我々が作ったものではありません。ですが、今でしたらはっきりとわかります。あれは紋次郎様と同じように『異世界』から来たものであったのでしょう」


「マジかよ……」


 確かに予感はあったのだが、改めて考えればその答えが一番しっくりくるのだ。

 この世界には異物が混ざってしまっていたのだ、それも遥か昔から。それならば、あの金獣がいたことも納得できる。正直、あれがいた時点で世界滅亡は必至なのだからな。


「ふう、マジでオルガナって奴はバカだな。金獣までいたってのに、破滅の原因になりえる人間に手を下せないとか、本当に甘々すぎだろう。ま、そんな理由で殺されでもしたらそれこそ恨んで魔王にでもなんにでもなっちまいそうではあるが」


「彼女のことを悪く仰らないででくださいませ。あの子は優しすぎたのです。本来交わる必要のないこの世界の住民の幸せを願い、争い傷つく人々を救いたい一心で女神の権能を放棄したのですから。そして彼女の身体に残された命もあとわずかで」


「やれやれだぜ。とにかく、お前の口ぶりじゃあ、魔王がもう復活しそうだということだよな? だから、女神全員の力を集めて伝説の剣だか、エクスカリバーだかを手に入れて魔王を倒せなんて俺に言ったんだよな? そういうことなんだよな」


「はい。その通りでございます。ですが紋次郎様は予言に言われる『救世主』ではあると思うのですが、『魔王』を倒す存在はやはり『勇者』。救世主たる紋次郎様には是非勇者を導いていただきたいのでございます。ただ、予言通りですと、救世主様は魔王打倒の後に、お亡くなりになるそうなのですが、紋次郎様でしたら大丈夫でございますからご安心を」


「こらこらこら、滅茶苦茶聞きたくないセリフをさらりと言いやがったぞ、てめえは! そもそも俺は救世主でもなんでもねえんだよ。なんなんだよこの世界の連中は、やれ、賢者だ、救世主だと、人のことをなんだと思ってやがる。マジでふざけんな!」


「いえ、紋次郎様は救世主ではあられますが、絶対死なせるわけにはまいりません。私が土の女神の全ての権能をかけてお守りして、これから永劫の快楽生活を共に送っていただきますので、安心して救世主のお仕事を全うされてくださいまし」


「マジでいい性格してるのな、てめえ。 そういうの『拉致監禁』っていうからね。そんなに気持ちよくなりてえなら、今度快楽中枢刺激して無限に気持ちよくなれるように、脳を改造してやるよ。あれ? 女神って脳みそあるのか? まあ、なんとかしてやるよ」


「ま、マジでございますかっ!?」


「く、くいつくんじゃねえよ! そこに!! 別にいいよ、だから俺を巻き込むんじゃねえぞ? そうすりゃお前は明るく楽しいオナニーライフを手に入れられるんだからな」


「は、はい……んんんんんんん……、そ、それは、もう……た、たまりませんぬ……んん……」


「お前、いきなりここでおっぱじめるんじゃねえぞ? いいな!」


「は、はい……、あ、えと、そろそろ失礼しても……?」


「いや、呼んだのお前だし、お前の用が済んだならもういいけど、お前、本気で人前でもじもじしながら股間触ろうとするのマジ止めろ!! っていうか、あきらかにそれ目的で退室しようとすんな‼ 俺が恥ずかしい!」


「あ、えと、その……んんんんん……」


 何を顔真っ赤にして嬉しそうになってんだよ? いや、別にこれ『おあずけプレイ』とかそんなんじゃねえからな!?

 

「あー、じゃあ、あれだ。最後に一つだけ聞いておくぞ? お前の言ってるオルガナのことだ。どうも口ぶりだともう死にそうな感じだけど、今どこにいるんだ? それくらいは知っているんだろう?」


 その問いに、スッと表情を元に戻したノルヴァニアが真摯な口調となって言った。


「紋次郎様。オルガナは今この地、エルタニア王国の王都、エルタバーナにあります。そして今、この地は『滅びの魔王』の誕生に向け滅亡の歩みを進めています。紋次郎様、どうかお願いでございます。どうかオルガナを……オルガナの心をお救いください。お願い申し上げます」


 急に変わったその雰囲気に俺も呆気にとられたわけだが、ノルヴァニアの真剣さは手にとるように分かった。だから俺は宣言した。


「ああ、分かったよ。『失われた七つ目の魔素(マナ)』の主……俺も興味があるしな。それに、お前の大事な友達なんだろう? いいよ、友達を助けたいって気持ちは、俺だってわかるからよ」


「紋次郎様……あ、ありがとうございます」


 ノルヴァニアは深く深く頭を下げたのだった。

 ふう、それにしても魔王に、勇者に、救世主か。それに滅亡だ、破滅だと、禄でもない話ばかりになっちまったな。

 いとも簡単に人が死んでいくこの世界だ。のんびりしてたんじゃああっという間に俺も死んじまうし、流石に純愛も経験しないままに死ぬのは俺も嫌だしな。

 まあ、金獣だって相手したんだ、『捕食者』だろうが、『殺人機』だろうが、『寄生憑依生命体』だろうが、なんでも相手してやるさ。


「で、ではそろそろ失礼して……」


 またもや赤面でそわそわ始めるノルヴァニア。あー、はいはい分かりましたよ。ったく、俺までちょっとしたくなってきちまったじゃねえか。

 

「あ、そういや、オルガナってどんななんだ? 人間なんだろうけど、目印は?」


 そう聞くと?


「? はて……? 紋次郎様はお会いになられたことがある筈でございますが? 眼鏡をかけていて、小柄で、ローブを着て……その手にしている『魔導書』を手渡した……」


 つまり、やっぱりあの眼鏡痴女(言い掛かり)がオルガナで間違いなかったわけだ。

前話のプロローグがなにやら、『ザ・なろう小説』って感じでしたけど、このお話はやっぱりこんなかんじで、健全にエロエロに進行してまいります。もじもじする女神様ってどんなんでしょうね、お預けプレイw


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