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プロローグ 異世界転生したから僕は当然最強のチートスキルをもらい、悠々異世界ハーレムライフを愉しみます。

 僕の名前は【カイラード・ノースウィンドゥ】。みんなは【カイル様】とか、坊ちゃんとかって呼んでくれている、へへ。

 所謂金髪碧眼で超イケメンの良いとこのお坊ちゃんだ。

 なにしろ、お父様はエルタニア王国貴族の中でも一、二を争う名家にして、もっとも栄えた北部の大都市を治める辺境伯。西の小国連合や、北の大国ジルゴニア帝国とも親交の深いことを考えれば、国王様の系統を除いて、この国でもっとも由緒正しい血筋であるとも言える。

 そんな大貴族の一人息子として産まれ、沢山の召使や優秀な家庭教師に囲まれて、何一つ不自由なく育ったこの僕だけど、誰にも言ってはいない重大な秘密があるんだ。


 実は……


 僕は『異世界転生者』なのである。


 まあ、そんなことを言ってもこの世界の連中は誰一人信じたりはしないだろうが、これは紛れもない事実だ。


 元の僕は良いとこのおぼっちゃんでも、金髪碧眼の超イケメンでもない、ただのしがないちょっと太ったアニメとラノベ好きの18歳だった。とはいえ、別にオタクと分類されるような種族ではなかった。

 好きは好きだったけど、人前ではそのことを明かさなかったし、アニメと同じくらいバラエティ番組とユ○チューブ、ニコ○コの人気動画の閲覧も欠かさなかったことで、そこそこ博識の三枚目を演じていたから、実は女の子の友達もいたりしたのだ。へへへ。

 彼女はジャニ〇ズに御執心だったから、当然僕もそれをチェックチェック、その手の話で盛り上がってだんだんいい雰囲気になってきたところで、彼女が言ったんだ。『頑張って一緒の大学に行こうね』って。

 これはもう僕に気があるってことで間違いないよね! って浮かれまくって、これは人生初の彼女が出来るかも!? ってもう毎日大興奮、わくわくして過ごしていた。

 そして僕は決めていた。『大学に進学が決まったら彼女に告白しよう』と。


 ところが……

 僕は大学受験に失敗した。

 彼女と目指した第一志望だけでなく、第二、第三志望も悉くダメだった。

 失意の中、当然の様に第一志望に合格した彼女は僕に、『大丈夫だよ、きっと来年は受かるよ』と励ましの言葉をくれ、僕は来年こそはと気合を込めて浪人したい旨を両親へと相談した。

 が、両親はそれを拒絶した。そう拒絶。

 大学に行きたいからというから受けさせてやったが、ダメだからと一年も予備校だの塾だのに通う金がもったいない。受験はまたさせてやってもいいが、予備校行きたいなら自分で金を稼いでいけ。嫌なら父さんの知り合いの会社に就職しろ。

 そう無碍にあしらわれた。

 ただでなくても、アニメのBDボックスやラノベの新刊を買いあさるには金が要る。だというのに、予備校代を自分でバイトで稼いで更に勉強までもするなんて、僕にはどうしたらいいか想像もつかなかった。

 だからまた彼女に癒してもらおうと家の傍まで行ったら、


『私、前から○○君のこと好きだったの』


 とか、いつか僕と一緒にキス〇イの新曲を一つのヘッドフォンで聞いた公園のベンチで……


 僕の友達でもあった○○君に告白しているところを目撃してしまったのだ。

 しかもその後、すぐにちゅ、チューまでしちゃって……


 あ、あいつ……○○の野郎、僕が彼女を好きなのを知ってたくせに……

 僕はそれを見て、完全に心が折れたんだ。

 今までの人生はいったいなんだったんだ……と。受験に失敗して、親にも見放されて、彼女も寝取られて(そもそも付き合ってなかったけど)、ああ、なんて僕は不幸なんだ……

 こんな人生嫌だ。僕はこんな世界は嫌だ。もっと別の、もっと楽しい世界へと行きたい。

 

『僕はここにいるべきじゃないんだ!!』


 そう思ったとき……


 気が付いたらすぐ目の前にトラックがいて、そしてそのまま衝突、僕は腰の骨と腕と足をポキポキ潰され折られながら空中へと投げ出された。直後目の前にアスファルトの硬そうな地面が迫りあまりの恐怖に目を瞑る……そして、耳に直接響くように『グシャッ』という音を聞いたのがあの世界の最後の記憶となった。


 そして現れたのがあの白い空間。

 そこで僕は女神様と出会った。

 黒に近い紫の髪を、銀の布で結わえ、やはり濃い紫の彼女の見事なプロポーションが浮き出てしまっている薄手のドレスに身を包んだその人は、自分のことを女神だと宣った。

 彼女は言った。君は不遇過ぎた。と、君はまだ死ぬべきではなかったと。そして問われた。


『もう一度、違う世界で生まれ変わってみるかい?』


 条件は?

 

『条件? あはは……死んでもうどうしようもないのにそんなこと聞いちゃう? 臆病で傲慢ね? あは……でも嫌いじゃないよ、そういうの』


 彼女はひとしきり笑ってからその華奢な細い指を立てて言った。


『たまに私の言うことを聞いてくれるだけでいいわ。それとあなたには何でも一つ、あなたの欲しい能力を授けてあげる。これでどう?』


 そ、それだけでいいの? 能力を貰えるってそれなんでもいいの?


『お? やる気になったみたいだね、嬉しいよ。そうだねー、この中のスキルならなんでもいいよ。ほら分かるでしょ?』


 僕の頭の中……というか意識の中に膨大な量の能力の情報が流れ込んでくるのだけど、それで頭が痛くなったりはしない。何か特別なやり方をしてるのかな?

『加速』『剛腕』『剣の才』……

『魔力強化』『無詠唱』『並列処理』……

 本当に様々なスキルがそこにあった。これを見る限り、僕が行くのは剣と魔法の世界の様子。であれば、それはゲームやラノベの世界ってことに外ならず、それならばはっきりいって僕の独壇場だ。

 僕にそんな幸運が舞い込んでくるなんて、これは本当に奇跡だ。

 おっと、今は喜ぶのはまだ早い。

 異世界転移で重要なのは如何にこのタイミングでチート能力を手にいれられるかどうか、そのひとつに掛かっているのだ。

 普通の考えなら、どう考えても最強そうなスキルを選ぶだろう。ここで言えば、


『剣聖の才』『操り師』『魔導王の才』とかかな?

 説明を見る限り、剣聖とは剣を持てばほぼ無敵であり、剣で負けることがなくなるらしい。それと操り師は全ての人、モンスターを精神支配して操って動かすことができるとのこと。あと、魔導王の才は言わずもがな、魔法に関して威力、魔力量、速度の全てにブーストがかかり、最強の魔法使いになれるらしい。

 他にもいろいろありはしたが、僕はそれらを見た後に、とあるスキルに注目した。それは……


能力喰(スキルイーター)


 説明:『倒した相手のスキルをn%の確率で取得する』


 これだ!

 そう、まさにこれこそキングオブチートスキル。

 僕はこういうのを望んでいたのだ。

 今まで有りとあらゆる種類のラノベを読んできた僕だけど、チートと呼ばれているスキルが数多あることを知っていた。

 例えば、何もないところに物質を想像するスキルは、商売にも戦いにも有効だし、時間遡行系統は何度もリプレイすることで正解を引くことが出来る。

 だけど、スキルを奪うこの手のスキルは、別格だ。

 何しろ、自分をスキルで好きにカスタマイズできるのたから。剣を極めたければその系統のスキル。魔法なら魔法でスキルによってどんどん強化も可能。

 それに、攻撃特化にするにしても、自動回復的なスキルがあればまず負けなくなるだろうし、盗賊スキルとかもあればアイテムも増やし放題。

 それだけにとどまらず、先程の創造系や、時間遡行系のそれ単体でのチートスキルも手にいれる事だって出来るかもしれない。

 スキルで身を固めまくって超安全に異世界でスローライフを楽しむ。そうだな、スキル集めを頑張るのも楽しそう。アイテムでも武器でもなんでもコレクションするのがRPG の醍醐味だもの。

 

 これにします。


 そう宣言した僕に女神様は愉快そうに微笑んだ。


『あは! やっぱり君ならそれを選ぶと思ったよ。さすが私が見込んだだけのことはあるね。それじゃあ、契約成立っと!』


 け、契約?


『ん? そうだよ、これは契約さ。これで君は私の『眷属』だ。そのうちに私の為に闘ってもらうからね』


 そ、そんな話聞いてない!


『ま、そう慌てないでいいよ、まだ当分先の話だし、君は君でこのチートスキルで異世界生活を満喫しなよ。それじゃあ、楽しんでねー』


 ま、待って……まだ、話は終わって……

 

 そう言い終わる前に僕はまた闇に呑まれたんだ。

 まったく騙されたって思ったよその時には。

 でも、そんな思いもすぐに僕は気にしなくなった。

 どうせなるようにしかならないし、時間があるのだからこのスキルで自分を強くすれば良いだけだと思ったし。

 なにより、僕はその後の生活が超幸せだったから、もうそんな些事はどうでも良くなったんだ。

 

 僕はノースウィンドゥ家の長男として産まれた。

 産まれた直後にはもうはっきり意識もあって、僕を産んでくれた超美人のお母様に大興奮だった。

 なにしろ、美人の上に胸も本当に豊かで、しかもそれを僕は毎日毎日……ふふふ。


 そんなこんなで僕はすくすく成長した。

 赤ん坊の内は殆ど何もできなかったし、人の言葉も理解できなかったのだけど、2歳くらいでようやくこの世界の言葉も理解できるようになった。

 そして色々な知識を得た。

 まず、この世界にはレベルというモノが存在しているということ。

 人はモンスターを倒したり、様々な技能を鍛え伸ばすことで身体のレベルを向上させられる。

 通常戦わずに生きている人のレベルは10前後の人が多く、冒険者や軍人など、戦闘に携わる人は10~20がほとんど。そのような人の中で更に高みに昇る人たちの中で30を超えるような人たちのことを一級、エリート、エースなどと呼称するのだそうだ。

 ちなみにこの時の僕のレベルは当然1。

 なんでわかったかと言えば、我が家にはステータス閲覧をするための魔導具が存在していたから。

 『鑑定の鏡』と呼ばれたその手鏡には所謂『鑑定眼』というスキルと同等の性能があって、それで自分を確認したというわけだ。そしてその時、きちんと『能力喰(スキルイーター)』の記載もされていたことが確認できて、僕はほぼ有頂天になってしまったわけだけども。

 そして程無くして僕はこのスキルの高性能さを思い知ることになった。

 鑑定の間で自分のレベルを確認しているときに、目の前に一匹の小さな蜘蛛が現れた。

 僕は何気なくたまたま手にもっていた鑑定の鏡で蜘蛛を鑑定。そこにはスキル『蜘蛛の糸』とあった。

 そこで僕は躊躇なくその蜘蛛を叩き殺した。

 そして自分のスキル欄を見て飛び跳ねたい衝動に駆られた。そこにはきっちりと『蜘蛛の糸』と記載があったのだから。

 僕はそれから身近な生き物を殺しまくった。

 カエル、鳥、メダカ、犬、猫……

 その都度、その生物固有のスキルをほぼほぼ手に入れることが出来た。一度では無理でも二度三度目くらいで大体はゲット。手にしたスキルは『ジャンプ小』『遊泳小』『威嚇』『隠密小』など。  

 本当にこのスキルは凄い、凄すぎる。どんどん増え、どんどんそれによって強くなっていく自分に思わず鏡を見ながらガッツポーズしたほどだった。

 お父様もお母様もこの『能力喰(スキルイーター)』のスキルの存在には気づいているっぽかったけど、相当なレアスキルであるらしく方々に聞いて周ってもこのスキルのことを知ることは出来なかったみたい。

 だから僕はそれを上手く利用することにした。

 スキルを獲得し続ければそれを確認された時に『能力喰(スキルイーター)』の性能も明らかになってしまう。だからこのスキルを調べるといって、父様の書斎で能力についての書物の調査を始めたのだ。

 そしてそのスキルの存在を見つけた。


擬態(カモフラージュ)


 このスキルは通常、自分の存在を消して隠密行動に移るためのスキルなのだけど、本によると鑑定眼も多少は欺くことも可能らしい。そしてそれは正解だった。

 僕は早速このスキルを持っている存在、『ナナフシ』を捜しだして殺しまくりなんとかスキルをゲット。そしてその効果によってボクは鑑定の鏡に自分のスキルを写さないようにすることも出来た。

  

 さて、これで僕の異世界ライフも安泰となった。

 極レアスキルを所持していたり、他人以上にたくさんのスキルを持っているなんてなったら、それこそスローライフなんて送れやしないもの。

 僕は貴族としての教育を受けつつ、手近な生き物を殺してからスキルを奪いまくる生活を続けた。


 5歳になった。


 このころになるともう近所の生き物の持っているパッシブスキルは大体取得済み。正直虫や小動物の持つスキルは効果の薄いものが多くて物足りなく感じ始めていた。だから、家庭教師たちに頼み込んで狩りに連れて行ってもらったりして、より大型の生き物やモンスターとの戦闘の経験も積ませてもらうようにした。

 そもそも僕には『恩恵』もなかったし、より強いスキルを集めることこそが急務であった。

 『恩恵』というのは、所謂精霊の力を分け与えられることで、それを貰った人はその精霊と同等の魔法や奇跡を起こすこともできるということで、恩恵があるというだけで、上級冒険者と同等の価値を認められることになるのだという。

 確かに万人には持ちえないのだろうけれで、恩恵があるだけで、高位魔法使い放題とか、それこそチートな話だ。

 そう言うわけで、恩恵持ちにも負けないスキル集めを続けていたわけだけど、我が家と親交の深い公爵家の一人娘もこの恩恵を授かっていた。

 今日も金髪を揺らして僕の家に訪れてきたわけだけど、僕に会って何やら嬉しそうでもある。屋敷も近所だし所謂幼馴染って関係になるのかな?

 彼女の名前は【ソフィア・ブルーウォーター】と言った。


『カイル様、またお怪我を為されましたのね? 今すぐに治療して差し上げますわ』


 彼女はそう言いつつ、狩場で転んでけがをした僕の擦り傷に手をかざしてそれを治療した。彼女の持つ恩恵は『ディアレスマーメイド』という水の高位精霊によるもので、ミ・ハイヒールという高位の治癒魔法を好きな時に使うことが出来る。

 ありがとうと彼女へと伝えると、彼女は本当に真っ赤になった。やっぱこの子僕に気があるんだな? まるでプリキ〇アのフィギュアみたいに可愛いこんな子が僕を好きなんて……

 ということで、会うたびに結婚の約束みたいなことをしておいた。くひひ。


 6歳の時にも出会いがあった。

 僕が家庭教師に連れられて、社会見学だと領内でもっとも栄えた都市、グルスターヴに赴いた時のこと。

 街の一角で何やら人だかりができていて、気になってそれを見ようとしたら、家庭教師に見てはいけませんと止められた。そう言われて止められるわけがない。

 僕はサササッと小柄であることを利用して人垣を縫ってそれを見た。

 そこにあったのは……

 

『この役立たずども! てめえらみんな死んじまえ!』


『ご、ごめんなさい』『うわぁああん』


 見れば首と手を拘束され、鎖で繋がれたまま引きずる様に歩かされている10数名の子供たちの姿。みんな痩せこけ、ほぼ裸に近いぼろ布だけをとって、体中擦り傷だらけになっているその一段の中央付近の子供たちが折り重なるようにして倒れ動けなくなっていた。

 明らかに瀕死と思えるその光景に思わず吐き気が催すも、その子たちを連れているのであろう太った大柄の商人風の男が

手に皮の鞭を持って、倒れている子供たちを打ち続けていた。

 びしぃっ! びしぃっ! と鞭が振るわれる音が響く中、僕はこっそりとその子たちへと鑑定の鏡を掲げてみた。

 すると……


――――――――――――

名前:シンシア

種族:人間女

所属:なし

クラス:奴隷

称号:なし

Lv:1 


恩恵:なし

属性:なし

スキル:〖魔導王の才〗

…………

……


――――――――――――


 ビンゴ!

 

 なんとそのうちの一人、今まさに鞭で叩かれているその少女が超極レアスキルを持っていた。

 彼女は動けなくなった3人くらいの子供たちに覆いかぶさるようにして鞭を一人で受けていたわけだが、このままでは間違いなく死んでしまう。

 こんなとんでもないスキルを持っているのにこの仕打ちを受けているということは、あの商人風の男はこの子のスキルに気が付いていない? 

 だったら、誰かに鑑定される前になんとかしなくては!


 おい! そこの商人!

 と、僕は大急ぎで声をかけ、すぐにその野蛮な行為を止めるように諭した。商人は僕を睨んでいたが、素性を明かした途端に平身低頭。だからそこに畳みかけるように、金を払うからその子たちを譲れと申し出た。

 商人は結構な額を言ってきたけど、僕の家庭教師がその金額はおかしいとすぐに抗議、結局は僕の一か月分のお小遣いくらいで全員を買うことが出来た。

 そして僕は屋敷に全員を連れ帰ったわけだけど、それに抗議してきたのがお父様。下賤の輩を館に居れるのは許さんと頭ごなしに言われたわけだけど、そこをお母さまが、この子は虐げられた子供たちを助けるために動いたにすぎません。いくいくは人の上に立つ身の上。今回のことで市井の者たちもこの子のことを高く評価しました。ここで連れ帰ったこの子たちを放逐するのは、領主としてどうかと思います。

 お母さまははっきり言って強い人だった。その厳しい口調についにお父様も丸めこまれてしまい、この子たちは全員屋敷の使用人として住まわせることとなった。もともと山麓や川も含んだ広大な屋敷だし、いくらでも仕事はあったのだが、結局はお母さまの一言で決した感じ。孤児たちの保護を目的とした施設の設立までもお父様はお母さまに約束してしまったのであった。

 まあ、僕にはその辺はどうでもよかったのだけど。

 そして僕は例の【シンシア】に近づいた。

 彼女のこのスキルを見る限り、この子は魔法使いとしての大成が約束されたも同じだ。流石にこの子のスキルを手に入れようとまでは思えないから、であれば僕の仲間として育てた方が良いという判断だった。

 風呂に入れ、衣服を整えた彼女はとても可愛らしかった。 

 煤けて汚れまさに浮浪児といった風体だった彼女は、濃い茶髪をショートカットに切り揃え、茶褐色の肌と薄桃色の唇をしていてまさに健康的な美少女だった。

 そんな彼女は僕に救われたことを常にまだ感謝して、僕の専属のメイドにしたこともあってどこに行くにもトテトテとついて回った。そして僕は彼女にも魔法を指導するように家庭教師へと頼み込んだ。当然彼女のスキルも擬態スキルによって見えなくしたままで。

 彼女はあのようなスキルを持っているとは知らないままに、どんどん魔法の知識を吸収、数年で家庭教師も舌を巻くほどの魔法使いに成長してた。

 

 そしてもう一人、僕の家には美少女が居た。

 このノースウィンドゥ領軍団長アドマイア・スティングレイの娘で、【サファイア・スティングレイ】。僕よりも5歳年上の彼女は、眉目秀麗の長髪の美人で、剣においては並ぶものがないとまで言われた女性剣士だった。

 それもそのはずで、彼女が有しているスキルは、なんと『剣聖の才』!

 正直、このスキルを見たときには驚愕したものだけど、まさか身近に剣系統最強スキルの保持者がいたとは驚きだった。彼女のこのスキルはすでに公然のものとなっていたから僕がわざわざ隠す必要はなかったけど、そんな彼女は僕の護衛兼剣術指南として同居するようになったのだ。


 そう、こんな感じな日常なのである。


 僕は美少女たちに囲まれた生活を送りつつ、日々新たなスキルを獲得し続けた。

 そして、スキルの所持には法則があることも分かってきた。

 動物や、虫や、知能の低いモンスターが持っているスキルは、ジャンプ、飛翔、遊泳など、その個体の特徴ともいうべきパッシブスキルがほとんど。で、人間を含めた多少知能の高い生き物のスキルは、剣の才や、魔導の才など、多様な才能系の能力が多いイメージだった。

 さんざん動物系のスキルを取得した僕だったけど、やはり才能系のスキルも必要と感じ始めていた。

 館に住む使用人や商人たちのスキルを見るに、有用そうなスキルも多かったけど、流石に殺人をしてまでゲットしようとは思わなかった。

 そこで考えたのが、死んでもいい人間からスキルを奪えば良いのではないか? ということ。

 例えば死刑囚や犯罪者、余命幾ばくもない人間でもいいかもしれない。

 とにかくその人が有しているスキルも手に入れることが出来れば、僕は更に強くなれるのだ。


 そんなことを思っていた11歳のある日、我が領内に大規模な盗賊集団が現れた。

 いくつもの村や町で、金品の盗難事件が多発し、領主であるお父様のところに陳情が上がり続けていた。

 それを知り、僕はこれをいい機会だとばかりに盗賊退治に乗り出すことにした。

 犯罪者集団であるのなら、殺したところで大した罪悪感もないだろう。むしろ悪を成敗するのだから人にも喜ばれるはず。そう確信して行動を開始した。

 とはいえ、領主の息子が堂々と出張ることなど到底できない。

 だから僕はこのことを、ソフィアと、シンシアと、サファイアの三人にだけ、こっそり屋敷を抜け出して盗賊団退治に行く旨を伝えた。初め彼女たちは全員が反対したが、最初にシンシアが僕に賛同し、それを見たソフィアも同行すると申し出た。残ったサファイアも仕方ないと同行を決めた。

 こうして僕と彼女たちは盗賊団のアジトを目指した。

 すでに僕は商人や領軍の兵などに話を聞いて、アジトの位置はほぼ把握していたが、具体的な位置などは当然分からない。

 だからここで僕のスキルの出番だ。

 まず被害に遭ったという村の一つを訪れた。そこでは死人は出てはいなかったが、けがをした村人が何人かいて食べ物や金目の物を奪われたのだということだった。

 話を聞いた僕は、犯人が触れたであろう箇所の匂いを嗅いだ。『臭探知』のスキルである。これは犬やキツネなどの小動物が保持していたスキルで散在している匂いの中から同一のものを選びとることを可能とするスキルだった。とはいえ、ずっと嗅いでいるのはカッコ悪すぎるので、だいたいの方向に目星をつけた後、今度は『遠見』の

スキルを発動。所謂望遠鏡のような使い方の出来るものだが、相当遠くまでを知覚できるのだ。他にも『集音』や『感知』など、当たりをつけつつその都度スキルで確認を行いながら、僕たちはついに盗賊団のアジトと思しき山中の洞穴までたどり着いた。

 そこには見張りと思われる男たちが数人待機していて手に武器を構えてたっていた。

 それを僕は鑑定の鏡で確認する。

 すると、『剣士の才』『商人の才』『窃盗』『隠密』『気配察知』……あるわあるわ多様なスキル。

 僕は流行る気持ちを抑えて同行の三人に声をかけた。

 まずは僕が弓で攻撃してみるからみんなで援護してくれと。三人はすぐに頷いてくれたわけだけど、これは三人に敵を殺させないための方便だ。そして確実に僕は弓であそこの盗賊を殺せる自信があった。

 実は僕はすでに『弓術士の才』を手に入れているのだから。

 以前森に遊びに行ったときに、僕は死にかけの猟師に出会った。すぐに助けようと思ったのだけど、あいにく薬草やポーションの類も持ち合わせていなかったし、その手の魔法は苦手だったから使えなかったし。

 そうこうしている内に彼は苦しみ出してしまい、どうも毒蛇にでも噛まれたようでまもなく確実に死んでしまうと思われた。

 僕はどうしようか相当悩んだのだけど、あまりに苦しそうであったし、どうせ助からないだろうと思えたから、一思いに殺してあげることにしたわけだ。 

 で、持っていた短剣で彼を刺した後に自分のスキルを見てみれば、そこには『弓術士の才』が追加されていたというわけだ。

 弓の腕前は鍛えたこともあってかなり自信がある。そしてそんな僕にはまだまだ特殊なスキルがあるのだ。

『猛毒の牙』、『麻痺の牙』。これらは蛇やサソリを殺した際に手に入れたスキルで、これを発動させると自分の犬歯から猛毒や麻痺毒を出せるようになった。だからそれを利用して、僕は弓に自分の歯から滴らせた猛毒と麻痺の毒を矢にたっぷりと塗って、それを弓につがえて連続的に盗賊達を射た。

 筋力的にはまだまだ大したことないので威力は弱いけど、毒によって彼らはあっという間に絶命。

 確認してみれば、僕のスキル欄に『剣士の才』と『農作業』のスキルが加わっていた。

 盗賊なのに、農作業スキルがあるのか!

 

 三人のお供はそんな僕の活躍に飛び跳ねて喜んでいたけど、当然これで終わりじゃない。ここからが本番だ。

 僕は今度は剣を引き抜いて、それにも毒を塗りたくった。当然二刀流でだ。

 今度は3人にも協力を頼む。

 上位の回復役でもあるソフィア。

 すでに上級魔術師の域に達したシンシア。

 向かうところ敵なしのサファイア。

 三人とともにアジトの洞穴へと突入し、そしてあっという間に数十人の盗賊たちを皆殺しにすることが出来たのだった。

 いわば三人は牽制だ。彼女達が派手にうごけば動くほどに盗賊たちは右往左往するはめになった。そこに僕の猛毒の太刀が振るわれれば、掠っただけでも命を奪えるのだ、簡単な作業だった。

 あっという間にたまっていくスキルの数々。僕はそれだけでもう気分上々だった。

 それにしても、少し意外だったのはここにいた連中のあまりの不甲斐なさ。

 盗賊というからもっと手ごわいかと思っていればそんなことはなくて、大して強くもない連中の寄せ集めだった。

 なんにしても盗賊団壊滅という快挙は僕たちの勝手な行動の全てを帳消しにしてくれるほどのインパクトがあった。

 戻った僕たちのことをお父様は褒めたたえてくれたし、領民のほとんども僕のことをやれ神童だ、英雄だと持て囃してくれた。唯一お母さまだけは少し悲しそうな顔をされたはいたけど、抱きしめてくれたからただ心配していただけなのだろうと思えた。


 こうして領の英雄となった僕たちはその後の領内で起こる様々な事件の対応をこなしていくこととなる。悪人を殺す機会も増えたことで、スキルもガンガン溜まっていったわけで、僕はもうウハウハだった。


 13歳になった。

 ソフィアとシンシアも同い年だから、僕たちは同時に成人となったわけだ。

 領の大講堂で行われた式典で、僕は宣誓の儀に臨んだ。赤々と燃え上がる火炎の前で、一糸まとわぬ姿でただ裸体の少女と抱き合うだけ。その相手に僕はソフィアとシンシアの二人を指名した。

 伯爵令嬢のソフィアはともかく、奴隷であるシンシアを儀式に参加させることに難色を示した貴族もいたけど、それを僕は権力で捻じ曲げて通した。

 炎の前に裸で立つ二人は本当にきれいだった。

 少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにしている二人をそれぞれきつく抱きしめた。それを見ていた新成人の領民たちはわーわーキャーキャーと声援を上げた中、儀式は盛大に幕を閉じた。


 だけど、それで気持ちが昂った僕たちが終われようはずがなかった。

 三人揃ってそわそわしながら帰路について、屋敷に戻ってみれば、そこにはスケスケのネグリジェを着たサファイアの姿。彼女は恍惚とした表情のまま、突然自分も含めた全員の服を剥ぎ取るとそのまま全員をベッドへと押し倒した、後は有無を言わさずに無理矢理に行為に突入。はっきりいって前世から見ても完全に初体験の僕に何をどうすることもできなかったのだけど、裸になった四人がまるで溶け合う絵の具の様に、触れ合い、混ざり、混濁と一つになっていくかのよう。

 僕は最高のシチュエーションで童貞を卒業したのだった。


 そして今、僕は17歳になった。


 僕はノースウィンドゥが誇る英雄として王都へとやってきていた。当然僕の愛妾達でもある、ソフィア、シンシア、サファイアも連れたって。

 今このエルタニア王国は危機に見舞われていた。

 領の各地で起こる奇怪な事件の数々と、凶悪化の一途を辿るモンスター問題など、その対応を図る様にと王城から勅旨が下されたのだから。だけど、ここに来た理由はそれだけではない。

 17歳になって初めて、『あの人』がお願いしてきたのだから。


『やあ、元気そうだね。随分楽しそうにしているみたいで本当に良かったよ』


 そんなことを言いつつ夢枕に立ったのはあの紫髪の女神様。

 彼女のおかげで僕はこんなに素晴らしいリア充ライフを満喫できているのだ。もう感謝しかない。だからどんなお願いをされても僕はそれに従うつもりでいた。

 そして彼女が言ったのは……


『これから王都へ行って、そこに現れる『勇者』を殺しておくれよ。なに、君なら大丈夫。もう君に敵うものもいないみたいだしね、ふふふ』


 そう微笑みながら消えていく彼女に僕は慌てて声を掛けた。

 

 ま、待って、せ、せめてそいつの名前を教えてよ。


 すると女神様はくすっと微笑んだ。


『行けば分かるよ。じゃあ、頑張ってね』


 そう彼女に言われたのだ。

 だからこそ僕はここにいる。

 エルタニア王国は全土において今荒れに荒れている。治安のよいとされる我がノースウィンドゥにしたって、盗賊や野盗が出没し続けているのだから。

 それはこの王都エルタバーナにおいても同じであった。神教の聖地にして、大陸南方の交易の要とも言える重要な都市。でも、世界が破滅する、国が滅びるといった悪い噂ばかりが蔓延し、かつて理想郷とまで謳われた肥沃な大地の千年王国は見る影もなくなっていた。

 そして、この王都から更に南部では、アンデッドの大群が出没しただとか、神話の破壊の巨人が現れただとか、破滅の獣が現れただとか、既に世界が何度も滅んでいそうな噂が飛び交っていた。

 まあ、それらを話半分で聞いたとしても、やはりこの王都で何かがあるのは間違いないのだろう。

 

 そして探さなくてはいけないのが『勇者』か……


 この街について早々、勇者についての情報を得ようと酒場や冒険者ギルドで話を聞いてみたりしたのだけど……


『勇者? そんなもん知るか! 儂は聖戦士を捜しとるんじゃ! ふんっ』と酒を煽った、ステータス数値が高すぎの屈強なドワーフに睨まれたり、『え? 勇者ですか? 勇者じゃなくて童貞賢者ならここにいるっすよ? ねえ、ご主人!』『だ、誰が賢者だ、マジでぶっこわすぞこの野郎』と、夫婦漫才みたいなことをやっているレベル1のカップルの旅人に出会ったり。

 というか、レベル1で旅をしているとか、どんな何だろう? 相当金持ちということなのかな?

 後は、見たこともない必殺技とかいうスキルを持った超高レベルの冒険者集団に遭遇したりとか、や、やっぱり王都は強い奴が多いみたいだった。

 ちなみに僕達のレベルは全員今30。正直、これは相当な強さなんだけど、やっぱり10以上レベル差のある相手とは戦いたくはない。機先を制する前にアビリティの差で叩きのめされる未来が濃厚だからだ。

 とはいえ、僕には無数のスキルがあるのだから、戦いかた次第ではあるとは思うのだけれど。


 いずれにしてもすぐに勇者を見つけることは叶わなかった。

 僕たちは国王陛下に拝謁して改めて国防に備えよとの勅旨を賜ったわけだけど、具体的に何をどうするかまでは指示されなかった。

 そこで、この王都に暫く滞在して王城からの指示を待つことになったわけだ。


 王都について2週間。

 相変わらず何も変化はなかった。

 勇者は見つからないし、王城からの指示もない。

 僕らはただ漫然と、城下にとった貴族向けの宿に泊まって惰眠を貪り続けた。まあ、ここには最高の抱き枕とも言える3人の美女もいるわけで、毎夜毎昼、好きなときに好きなだけ愉しむことができていたのではあるけど。


 そしてそんな風に4人で愉しんでいた昼下がりのことだった。


 

 ドドーーーーーーーン!!


 

「な、なんだ!?」


 突然激しい爆発音がしたかと思うと、開け放った窓の向こうに巨大な爆炎が巻き上がっていた。

 方角からして、都市の西の方角。人々の悲鳴や何かを叫ぶ声も聞こえる中、更に爆炎が複数個所で発生した。

 その爆発は次第にこちらの方……王城へと迫ってきているかのように思えた。


「い、いくぞ!」


 僕たちは慌てて服を着、そして帯刀して外へと飛び出した。

 街は爆発から逃れようとしている人が四方八方へと走り回っていて、もはやパニック状態。いったい何が起きているのかを調べようにも、あまりに事態が急すぎて得意のスキルでのサーチが全く出来なかった。

 とにかく爆発の原因を見ようと前へ出たその時だった。


『ヴ・ヴ・ヴ・ヴ・ヴ・ヴ・ヴ・ヴ・ヴ・ヴ・ヴ……』


 そこにあったのは身の丈4mはありそうな巨人の姿。

 でもただの巨人ではなかった。

 漆黒の全身鎧(フルプレートメイル)で身を包み、手は地面についてしまうのではないかというほどに長く逞しかった。だが、一番異様だったのはその下半身。通常であれば当然二本の足があるはずのそこには、カニのような鋭く尖った足が合計4本、地面に突き刺すようにして立っていたのだ。


「な、なんだよ、こいつは……」


 僕は初めて目にするその異様な存在に気おされつつも、先日漸く手に入れた『鑑定眼』のスキルで相手を見た。すると……


――――――――――――

名前:

種族:

所属:

クラス:

称号:

Lv:


恩恵:

属性:

スキル:

…………

……


――――――――――――


 

 なしなしなしなし……

 なにも無し。

 そ、そんなばかな……

 僕の鑑定眼が如何に優秀であるかはこの僕が一番良く分かっている。鑑定の鏡にも映らなかったステータスデータでさえも、鑑定眼であればきっちり把握できたのだから。

 だけど、こいつは違う。なぜ何も表示しないんだ!? なぜだ!?

 これではレベルもスキルも分からないし、分からないんじゃ何も対応できやしない! い、いったいどうしろっていうんだ……

 だが、そんな猶予を当然貰えるわけがなかった。


『ヴヴヴ……』


 突然奴のフルフェイスの中の目が真っ赤に光った。そう思った次の瞬間、奴は僕に肉薄していた。


「カイル様っ!! ああああっ!!」


「サファイアッ!!」


 迫ったそいつが僕へとその長大な腕で殴りかかってきたそこへ、サファイアが飛び出し僕の身代わりに殴り飛ばされてしまう。だが奴はそれに構わず、今度は振り上げた槍の様な足で僕を串刺しにしようとしてきた。


「『ド・ディフェンスシールド!!』 カイル様今の内です!」


 シンシアが魔法を行使しながらそう叫ぶのに合わせて僕は飛び退いたが、一瞬遅れて魔法で作った土の大盾を貫通したその足が僕の足へと突き刺さった。


「ぎゃああああああああっ!!」


「カイル様! いますぐに治療いたしますわ!」


 ソフィアがすぐに僕の足を魔法で復元する。

 それによって痛みが減じたことで僕は少し冷静になることが出来た。だからすぐにスキルを使った。


『超加速』『怪力大』!

 

 僕は急いで倒れていたサファイアを抱き上げると、そのままの勢いでシンシアとソフィアも抱えて一気に近くの建物の屋根へと飛び上がった。

 相手のステータスは不明だけど、あの重量感のある身体だ、足場の悪いこんな高いところまでは上ってこないだろう。そう思いつつ、対策を練る。

 僕には相手のステータスを見ることは出来なかった。だけど、逆に考えればあれは『見えなくするためのスキル』なのではないか? そう思えたのだ。

 僕が常に使用している『擬態(カモフラージュ)』は多少ならステータスをごまかせるけど、やはり高位の魔法やスキルの前では隠しきれない。だけど、当然その上位互換のスキルがあってもおかしくはないのだ。

 目の前の相手が使用しているのはまさにそのようなスキル。

 だとすればまだまだ戦い様はあるし、さらにそのスキルを獲得することができれば、僕は高位の魔術師とだってステータスがばれるのを気にせずに戦えるようになるのではないか。

 そんな考えが唐突に浮かび、僕はならば、ここはひとつ頑張らねばと気合が入った。

 相手は確かに頑丈そうだし、力も強い。

 だったらそれを正面からねじ伏せてしまえばいい。そうだ、僕にはスキルがあるのだから。


 僕は自分の身体能力をこれでもかというレベルまで向上させた。攻撃力、守備力、敏捷性、その全てを持ちうる全てのスキルを使って向上させておく。

 これで僕はレベル60の戦士と同等程度のアビリティだ。つまりほぼ地上最強という奴だな。

 よし! 準備OKだ。一気にやってやる!


「覚悟しろよ、この僕が倒して……え?」


 僕は奴を倒そうと地上へと降り立ち、さあ戦闘開始だと思ったその時だった。


「う、うそだろ?」


 一瞬で僕の右腕が切断されたのだ。

 まるでスローモーションのように宙に浮かんだままの右腕。痛みを感じる前に相手を確認しようと顔を向けたその時には、奴はもう僕の眼前にいて、そのフルフェイスの前面を大きく解放、そこから銃口のようなものを広げて僕に向かって光を放った。

 それはまさに光だった。

 それが僕の左肩あたりに直撃し、そのまま消し飛ばし、その直後に背後の建物が大爆発したのだ。


 あ、と思った時にはもう遅かった。奴が放ったのは『光線』だ。しかも破壊力抜群の。


 な、なんだ? なんなんだいったい? なんだあの技は? いや、ぶ、武器なのか? 光線武器? 光線銃? ま、まさか、そんなもの僕は知らない。

 あの女神様からスキルを貰うときだってどんなスキルがあるのかさんざん確認したけど、あんな光線を放つような道具や武器や、それ関連のスキルは見当たらなかった。

 じゃ、じゃあ、あれはなんなんだよ。

 身体強化した僕のスピードよりもはるかに速い挙動と、凄まじい攻撃力。僕の防御も全く役に立っていない。こいつはいったい……


「カイル様!」「今お助けしますわ!」「いきます!」


「ま、まて……く」


 来るな……そう言おうとしたけど、もう遅かった。

 なぜなら……


 あの四つ足の巨人の口から光がすでに放たれていたのだから。


 光に呑まれた3人。

 ああ、死んだ。

 死んでしまった。

 僕の大事な女の子達が一瞬で……

 ああ、なんで死んだんだよ……


 輝きの中で走馬灯のように彼女達との楽しかった日々が思い起こされて、僕はいつの間にか泣いていた。

 右腕は切断され、左肩から先はもう消滅しているこの状態で、自分の痛みも忘れてただただ僕は泣いていた。


 その時だった。


「泣き虫っすね、お兄さんは随分と」


「え?」


 光の奔流の只中からそんな場違いな声が聞こえたかとおもって顔を上げてみれば、そこには真っ黒な髪の毛をはためかせた全裸の美女の姿。 

 僕の腕を吹き飛ばしたあの光線をその身に受け続けていた。


 そしてもう一つの声が……


「てめえ二ム。また服を燃やしやがって。マジでふざけんな!」


「もう、勘弁してくださいよご主人。ワッチはただこの人たちを助けただけっすよ。また可愛いの買ってくださいよ」


「知らねえよ、そんなのてめえで勝手に買え! ったく、なんなんだこの世界は。ポルタック・オードンリーフの殺人機(ターミネーター)かよ。マジでこの世界の人間皆殺しにする気じゃねえか」


「ま、ちょいと年式が古いっすけどね……っと!」


 そう言うなり、全裸の美女は目の前の四つ足巨人を殴った。そう殴ったんだ、素手で。

 その瞬間、巨人はそのどてっぱらに大穴を開けて爆散した。

 あ、あれはまさか、機械?


「ふう、ま、旧式ならこんなもんっすね? ご主人の敵じゃないっすよ」


「あほ、油断してんじゃねえよ。こいつらが一機なわけねえだろうが。くるぞ」


「え?」


 何を言っているのか良く分からないままに顔を上げた僕の視線のさきに、さっきの四つ足巨人の姿が再び浮かび上がった。家々の合間からのそのそと現れ続ける巨体の数々。その腕には今度は電柱のような巨大な得物を掲げているものまでいる。その数、見えているだけで、およそ50。


 う、うそだろ?

 たった一体で僕は死にかけて……そして彼女達も助けが無ければ間違いなく死んでいたんだ。

 それなのに、いったいなんでこんなにたくさん出てくるんだよ。

 もう、僕は何も思考できなかった。

 今まで僕は強くなるためにスキルを集めていた。それはひとえに生き残るために。この世界でおもしろおかしくスローライフに興じたいがために。だけど、この存在は違った。

 何も効かなかったし、何も出来なかった。

 本当に僕ではどうしようもなかったんだ。

 

「くく……仕方ねえなあニム。てめえじゃあどうしようもなさそうだから、今回は俺様の新作魔法でやってやるぜ」


「まあ、別にワッチでも大丈夫そうっすけど、ご主人も少しは活躍したいっスもんね、どうせレベル上がんないでしょうけど」


「うるせいよっ!!」

 

 お、思い出した。

 この人たちとは一度会ってるんだ。そう会っている。あのレベル1の人たちだ。たいしたスキルも、アビリティも全然ないのに、いったい何をやろうとしてるんだ? 魔法? 使えるわけない、だって魔力もな……い……


「ふははははは、食らえ必殺の……」


 その時僕は見た。

 そこに広がる圧倒的な暴力を。理不尽なまでの非常識を。

 

 この日、僕は……


 この世界に初めて絶望した。

ご無沙汰でございました。某お絵かきサイトで二次創作物を書いていて間があいてしまいました。

なるべく頑張って更新いたしますので、応援宜しくお願いします。

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