第三十七話 陽電子レーザーキャノン
「すげえな。レーザーの収束率がめちゃ高そうじゃねえかよ。かなりの威力だし、これは大成功だな」
「いやぁ、本当に凄いっすよ! 何が凄いってこの『鱗』の使い勝手の良さっすよね。まさか『荷電増幅器』の耐圧バルクヘッドにまで使用できるなんて……流石に4斉射したら砕けましたけど、軍の正規品のカートリッジより頑丈なんじゃないっすか? これ持って帰ったらきっと高く売れやすよ?」
「持って帰るったって、どうやってだよ。アホなこと言ってねえでさっさとそいつにとどめを刺せよ」
「お? 今回は経験値稼ぎしなくていいんですかい? これ倒したらレベル上がるかもですよ?」
「アホか‼ こんなバカでかいやつどうやったって倒せるわけねえだろうが。いいからさっさとやっちまえ」
「了解っす!」
そう言いながら、二ムは素っ裸のままで、その木製の銃というか大砲というか、黒く変色してその先の方から煙が上がっているその筒を適当に放り捨てた。そして足元に置いてあった自分のリュックサックから、同様の形状の木製の筒を取り出すと、自分の胸から伸びた青と赤のコードをその筒の一番根元の辺りの穴に差し込んで構える。
「いやぁ、咄嗟にこのリュックサックを遠くに投げておいて正解でしたよ。まさかまた全身燃やされるとは思っても見なかったもんで。あ、ご主人ワッチのエロい肢体を見てちょっと興奮しちゃってたりとかします?」
「アホな事言ってんじゃねえよ!」
「へーい」
くねくねと腰を振りつつそんな戯言を吐く二ムを俺はジロリと睨んだ。
時と状況をわきまえろってんだ、まったく。そして二ムの手にした『武器』をもう一度眺める。
その『武器』は正に銃と言っていい代物だと思う。良いとは思うのだが、はっきり言ってこのファンタジー世界には似つかわしくはないだろう。
この武器の名は……
『陽電子レーザーキャノン』
二ムが内臓している『陽電子リアクター』は、高出力の発電機のようなものなのではあるが、常時高密度の陽電子を核融合によって発生させ続けている。
まあ、そうは言っても放射能が漏れることは一切ないし、それらの廃棄物も内部でリサイクルされるため、非常に燃費も良く、もともとは一般的な家電には大抵使われている汎用部品の一つでしかない。
ただ、それを俺がちょこっと弄って、出力を従来品の1,000,000倍くらいまで出せるように改造してあるというだけで……はい、そのせいでめっちゃ燃費が悪くなったんだけどもね。
そ、それはいいとして、その改造の過程で俺は二ムのリアクター内の『陽電子』を外部へと抽出できるようにもしておいた。二ムのリアクターを増幅器として使用して、陽電子自体を武器に転用できるように。
え? なんでそんなことしたかって?
だって、なんかかっこいいじゃないか! ピンチになったら必殺技使ったり出来たらな……って妄想しまくった結果、このような改造を施していたというわけ。
その後で分かったことだけど、この改造は完全に違法で、『特別テロ対策法』と『大量破壊兵器防止法』に著しく違反していたことが分かり、分かったけど直すための材料を買うお金がなかったので、そのまま黙っていたというわけ。
ここ異世界だし、もう時効だよね!
今回俺はこいつに施していたこの改造を利用することにした。
直接ぶん殴るよりも、武器に陽電子を流した方がエネルギーの消費が格段に抑えられるのだもの。
二ムに普通に戦闘をさせるとはっきり言って燃費が悪すぎで長時間の戦闘行動を維持できやしない。この世界に来てからもうすでに2度も燃料切れのエンスト起こしやがってるし、如何に二ムが頑丈でパワーがあるといったって所詮は無理矢理やっているだけでしかない。
そもそも二ムはセクサロイドだからな。バトルドロイドみたいな造りにはなっていないのだから当たり前だ。
ということで俺は、二ムにこの武器を作らせた。
リアクターから陽電子を引っ張り出し、それを高出力レーザーとして発射する武器を。
とはいえ、こんな異世界では正規品の部品を購入出来るわけもなく、組み立てるもなにもまずは部品から作る必要があるわけなのだが、実は思わぬパーツを俺達は既に入手していた。
それがあの『ミラーボアの鱗』である。
あの鱗は所謂『手鏡』な感じの鏡面コーティングされた見事な鱗だったのだが、これがレーザー増幅器の重要なパーツとして使用可能であったのだ。
人工物と比較しても遜色ない反射率と、凄まじい耐久性、それと通常の鏡ではありえない導電性。これによって大した部品のないこの地にあって、ここまで高出力の砲を作ることが出来たのだ。
今回の敵は、あの災厄の怪獣『金獣』を想定しなければならなかったしな。俺もいろいろな考えてみたが、もっとも簡易に造れてで威力が高いレーザーキャノンを作ることを俺は選択したわけだ。
金獣災害当時は、地球の科学力の総力をあげても、金獣を完全に滅ぼすことが困難だった。だが、研究されつくした『現代』の科学の前では、はっきり言って赤子も当然の存在なのだ!
二ムの改造リアクターを使用した高出力陽電子レーザーであれば、最後まで生き残り、地球のおよそ9割を破壊したとされる『キング』と名付けられた最大の金獣に対してでも、倒せないまでもダメージを与えることは可能。
そして今回この世界に現れたこれ……ヘカトンケイルは、言ってしまえば金獣の『なりそこない』でしかなかったのも幸いした。
突発的に発生した多くの『γ変異種幹細胞生物』のほとんどは、実はこの『なりそこない』であったとされていて、主に金獣と呼ばれた怪獣の『餌』となったと記録されていた。その姿形もさまざまで、色々な動物をミックスしたようなものから、不格好な巨人の様な姿であったとかで、そう言われてみればこのヘカトンケイルもそういう『なりそこない』の一つで間違いはないだろう。
こいつを見た瞬間に、俺は心底『ホッ』としたしな。
当然のことではあるが、金獣よりも段違いに、『脆い』。
「さあ二ム、やっちまえ!」
「了解っす!」
体中に大穴を開け、呻くように奇怪な声を漏らし震えるように蠢いていた、あの俺を踏みつけようとしていた巨大なヘカトンケイル。
その奴の巨大な上半身の胸と頭に照準を合わせると二ムは、その砲身の先から凄まじい勢いで光り輝くエネルギーを発射した。
その光の筋自体が眩く輝き辺りを真っ白に染め上げる。
それは全てを浄化するかのような清廉な輝き。
光の奔流のなか……巨大なヘカトンケイルはその全身を焼き尽くされ……完全に消滅した。




