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第三十五話 狭間の城の主④

毎日更新したかったのですが、執筆時間がとれず断念しました。

というか、毎日更新されてる方、本当に凄いです! 尊敬します!

 ノルヴァニアは何やら面食らったような顔になっているが、そんなん当たり前だからな。


「お前な……どこの世界に『貴方は救世主ですから、魔王を倒してください』って言われて素直に戦いに行く馬鹿がいるってんだよ、ゲームじゃあるまいし。そんな魔王とか言われてる恐ろしい奴になんかに会いたくなんかねえよ。ってか、こんな大事な話をさらりといきなり言うんじゃねえよ」


「ですが、貴方様は間違いなく『救世主』だと思うのですが……『ワルプルギスの魔女』の預言書にも、『終末の刻、遠方より最後の希望たる救世主(きた)る』と知らされておりますし、紋次郎様は結構遠くからお越しになられた様子でございますし」


 『結構遠く』ってお前、そんな程度の認識でいいのかよ、神様が。


「そんなおみくじの、『待ち人、遠方より来る』みたいな表現だけで人のことを変な役職に押し上げようとかしてんじゃねえよ。それめちゃくちゃパワハラだからな」


 そもそも神様が一個人に直接話しかけるのはどうなんだろうな。

 それで『ワルプルギスの魔女』か……

 神様が預言書とかいう怪しげな本をベースに話しかけていることに相当な不安を覚えるのだが、まあ世間一般でいうところの全知全能の存在ではないってことなんだろう。

 この本は俺も読んだけど、預言書というよりどちらかといえば、魔女たちの冒険譚を(つづ)っている感じだと思ったんだがな……結構面白い物語だった。

 

 魔法に秀でた『7人の魔女』が年に一度集まって、その年に体験した様々な事柄を他の魔女達に報告するという、魔女たちだけの酒宴兼自慢大会。

 最初のころは、どうやって人を助けた、どんな旅をした、どんな珍しい生き物に出会っただとか、そんな『グレートジャーニー』みたいな話で、ほのぼの系なのだが年を追うごとにその話がどんどん過激になり、どこどこの悪い国王のいる国を滅ぼしただとか、自分で開発した魔法で蛮人たちを島ごと消し飛ばしただとか、自分で作り上げたゴーレムで人食いドラゴンの住む山を海に放り捨てただとか、一応勧善懲悪的な感じなんだけど、どんどんやることが過激になっていき、最後の方では世界を滅ぼそうとした野蛮な巨人から人類を救うために、魔法によって人の住む大陸を大地から切り離して、こうして一時の平和が訪れました。とか、確かそんな感じの話だったはずだ。


 というか、これを読んで思ったこと。


 お前らのやることがどんどんエスカレートしたから、迷惑被った人や獣やモンスターとかがただ怒っただけだったんじゃねえのか! と。

 それで怒った連中を勝手に『悪』と断定して、お前らがふたたび襲いかかっただけなんじゃねえのか! と。

 こんなに毎年毎年悪がはびこるかよ、ヒーローアニメじゃあるまいし。


 つまり、人の迷惑を顧みず、自分たちの自慢話のためだけに様々な逸話を『作り』続けた迷惑な女どもの話ってのが、この『ワルプルギスの魔女』という本の内容だと俺は思っている。

 まったくどれだけ人に迷惑をかけたのか知れないが、その説話の数たるや数百に上り、所謂『千夜一夜』的な様相を呈しているのだ。

 でも、そんな預言みたいなこと書いてあったかな? 

 あ、あれかもな? 確か『聖戦士』がどうたらってあった気がする。

 でも、あれは救世主の話というより、悪いことをしたと魔女が滅ぼした国の生き残りの末裔かなにかで、魔女の一人に復讐しようとかしてたような気がするのだが……? そんで、魔法合戦の末に魔女が勝って、でも魔女に諭されて、最終的に和解して平和の礎になりました、的な終わり方だから、救世主と言えなくもないけど、魔女視点のこの本のなかで、これほど分かり易いマッチポンプはないと思ったもんだ。だって魔女が何もしなければその人聖戦士なんて呼ばれる必要はなかったのだもの。

 他にも、魔女の仲間になる『魔法使いの弟子』の話とか、村を襲うドラゴンに、少年の主人公が立ち向かう『ちっぽけな勇者』の話とか、人を救うために人身御供になってしまう『儚い聖女』の話とか、それっぽいのもあるにはあるが、ひょっとしたらあれか? 写本によって書いてある内容が異なるとか、それかもな。俺の読んだ本には欠損してた箇所があるとか。

 ただでなくても膨大な量の物語集だったしな、端折られたり、欠損しているページがあってもおかしくはあるまい。

 そう思い、口にしてみればノルヴァニアは、想定外の恐ろしい話を宣った。 


「かつてあの本を人間へと授けたのは、我々女神のうちの一人、『オルガナ』でございました。けれどそれはあくまで物語として……人々が読み楽しめる程度の内容に書き直したもの。来る日の為に人々にその内容を記憶してもらうために」


「オルガナ……? っていうか、何? 女神様が書いたのか? いや、すげえなマジで? あれ、一読者の俺が言うのもなんだけど、結構おもしろかったぞ? あの内容なら普通に出版してもヒットしちゃうんじゃねえか? いや、ヒットしちゃったのか、だからみんな知ってるわけだしな。ううむ、しかし、女神様が書いたのか……あの『二次小説』……」


 一瞬激しい人並みの中でテーブルに『サークル女神新作出ました!』とか書いてハチマキハッピ姿の眼鏡美人が現れたのだが……

 あれ? なんでか、俺に魔法の本をくれた、あの眼鏡痴女が引きつった笑顔で本を手渡している姿が目に浮かんだんだが……はて?


「二次小説……というのが何のことか分かりませんけど、あの本を作り上げたのは間違いなく女神オルガナでございました。我々のもとにあの原書たる『ワルプルギスの魔女』がもちこまれたがために」


 ノルヴァニアは憂いの籠った視線を自分の膝へと落とした。

 そのことが本当に不幸な出来事であったかとでもいうような暗い顔で。


「なあ、その原書ってやつはいったいなんだ? 口ぶりからすればどこぞの別の誰かが書いたってことと、内容がかなりヤバいということは分かるんだが、なんで神様自称しているお前がそんなに困ってるんだよ? 神なら、奇跡でも起こせばいいだろ?」


「神といっても我々が行えるのはこの地の『創造』とその『維持』の二つのみにすぎません。断言してしまえば、我々は自由にこの大地へと干渉することはできないのです」


 そうはいうが、十分に干渉している気がするんだけどな、俺をここに呼び寄せたりとか、快楽求めて手を伸ばしちゃったりだとか。


「ですから、我々はこの地を見守り続けてきました。そんなある時、一人の魔法使いが『時の魔法』を作り上げました。それは時空を超えありとあらゆる過去と未来を見通す大魔法であり、彼はその魔法を使って、自身が作り上げた『7人の(しもべ)の魔女』を時空の果てへと送り込みました。そして集めたのです。

 『この世の全ての歴史』を。

 それはあらゆる過去と未来の歴史。彼はそれを知り、見て、そしてこの『ワルプルギスの魔女』を書き上げました。これは『終末の未来までの歴史書』なのです」


 そう断言するノルヴァニアの手にはいつの間にか分厚い黒い表紙の本が握られていた。金の刺繍が入った本にはタイトルがついているが、その文字はあの死者の回廊の墓石に彫られていたものとそっくりなもので『ワルプルギスの魔女の報告』と書かれている。どうやらこの世界でいうところの古代文字と分類されるあの文字のようではあるが。

 それを見せながらノルヴァニアが言った。


「この本はこの世界の趨勢を表しており、この本の導きによってこの世界が保たれていると言っても過言ではございません。本来は私が話して良い内容ではないのですが、紋次郎様にどうしても生きながらえて頂かなくてはなりませんので、ここでお伝えさせていただきます。しっかりとお聞きください」


 拳をきゅっと握ってそう熱弁するノルヴァニアだが、その真意が酷すぎて、感動もへったくれもあったもんじゃない。


「あーはいはい、で、なんだって」


 耳を穿りながら俺はそう聞いてみれば、ノルヴァニアは待ってましたとばかりに身を乗り出してきた。

 で、その答えがこれだ。


「はい、この世界は間もなく滅亡することになります」

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