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救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~  作者: こもれび
第一章 聖戦士と漆黒の妖精
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第三話 ド貧乏一味

「はぁ……クビ……クビかぁ、嫌な響きだぜ。まさかこの世界に来てまでクビを体験するハメになるとは」


「まあ、仕方ないんじゃないっすか? ご主人アルベルトさんのこと苦手だって言ってやしたし、いい機会だったんじゃないっすか」


「まあそうなんだけどな、先立つものがなぁ……はあ」


 賑やかな店内の最奥の二人掛けのテーブルにニムと二人で座ってそんな話をしていた。

 ここは俺たちが定宿にしている『赤い風見鶏』という名前の宿屋に併設された食堂だ。まだ宵の口ということもあり、店内には食事をとっている大勢の姿。その大半は酒を飲んで陽気に大声を張り上げている冒険者風のおっさん達だ。正直めっちゃガラは悪い。

 そんな連中がたくさん居る訳だが、俺は構わずに目の前の木製のテーブルの上に今日の報酬でもある鈍い輝きの硬貨をじゃらじゃらと広げた。そして、丁寧に数えながら10枚単位で積み上げていく。

 一応金貨? らしいのだが、いったいどれくらい含有されているのか甚だ怪しいうえに、手作業で成形したせいなのか歪んだり(たわ)んだりしていて微妙に大きさも違ってしまっている。

 こんなの通貨で本当に大丈夫かよ……と心配にもなってしまうが、今はそんな心配できる身分じゃなかったな、はあ。いやだいやだ貧乏は。


「ひ~、ふ~、み~、よ~……」


「随分入念っすね」


 途中でニムに横やりを入れられて、どこまで数えたかいまいちわからなくなっちまった。ええい、やり直しじゃねえか。

 俺はもう一度数えて山を作り、きちんと今日の俺の取り分、2000G(ゴールド)があることを確認してから、そこから1800Gを袋に入れ、残りの200Gを自分の財布へと入れた。

 そして料理やジョッキを持って慌ただしく店内を駆け回っている茶髪ショートヘアーにプリムをつけた、オレンジのメイド服すがたの快闊そうな少女に声をかけてテーブルまで来てもらう。


「はぁい! モンジロウさん、ニムさん、お帰りなさいませぇ!」


「た、ただいま、アンジュちゃん、ふへへ」


「ご主人、今超気持ち悪い顔してますぜ、それは流石にワッチでもひきます」


 うえ? そ、そうか……それはまずい。

 こうか? こんな感じか?

 表情筋を頑張って動かして、なんとかハードボイルド感を出そうと特に目の辺りに力を込めて励んでみる。


「え、ええと、アンジュちゃん? これ、今日の分です」


 言って1800G入った巾着袋をずずいと差し出す。

 それを見て、アンジュちゃんはあらあら~と少し申し訳なさそうにそれを受け取った。


「なんかぁ、いつもすいませ~ん。こんなに急いで返して頂かなくてもいいんですよぉ?」


「いや、大丈夫大丈夫、気にしないで。俺こう見えて結構稼いでるから」

 

 グッと親指を立ててアンジュちゃんに目を向けると、正面のニムがはぁーっと大きな溜息をついた。


「なんだよ?」


「なんでもないっすよ」


 アンジュちゃんは巾着を受け取るとそれを胸に抱えてぺこりとお辞儀をしてくる。

 そして一言。

 

「モンジロウさんって律儀で優しくて本当に素敵ですね。私、憧れちゃうな。うふ」


 あ、アンジュちゃーーーーーん!

 ふはっ、アンジュちゃんにす、素敵って言われちゃったよ。わわわ、どうしよう、どうすりゃいいだろう! ひへへへへ。

 

「うへぇ、ご主人マジでチョロ」


 何やらニムがモニュモニュと言っていたが、まあどうでもいいな。

 アンジュちゃんマジ天使。

 清楚で可憐を地で行ってる心の女神だよ~。

 どうしよう、なんか俺今モテまくってんじゃね? モテ期到来か!?

 いやあ、まいったなぁ。

 まあ、でも、それとこれとは別で借りた金はやっぱり返さなきゃだからな。別にアンジュちゃんからというよりは、アンジュちゃんの親父さんのこの店のオーナーから借りたわけなんだけど。


「あ、アンジュちゃん? 悪いんだけど夕飯一人分だけ頼めるかな? 出来たらエールも一杯」


「あ、はい。今日もニムさんは宜しいのですか?」


「あ、ああ。こいつダイエット中なんだよ」


「ふーん。そんなの必要ないくらいスリムだと思いますけどぉ。本当に可愛くて羨ましいですしぃ」


「うわぁ、アンジュさんありがとう! 凄くうれしいっす!」


「うふふ」


 く、くそぅニムのやつ、アンジュちゃんと仲良くしやがって。いや、平静だ、平静。


「ははは……で、いくら?」


「あ、ディナーが120Gで、エールが一杯60Gなので、締めて180Gになりまーす」


 え?

 あ、あれ?なんか今日高くない? 俺今財布の中、さっきもらった残りの200Gしかないんだけど……や、やばい、ここでつかったら、明日からの生活費が……


「…………? どうしました?」


「あ、あはは、や、やっぱり今日はエールはいいかな? って、あんまり飲みすぎは体によくないもんねー」


「?そうですか? じゃあディナーお一つですねぇ! 少々お待ちくださいねー」


 にこぉっと微笑んだアンジュちゃんがタタタっと厨房へ戻って行った。本当に愛らしくて可愛い……

 可愛いんだけど……

 

「……はあぁああ……マジで金がねえ……」


「ご主人しくしく泣いちゃうくらいなら、あんなにたくさん借金返さなきゃ良かったじゃないっすか。別に何も催促されてないでしょ? ちょっと見栄張りすぎっすよ」


「ばかやろ、借りた金は最優先で返さなきゃいけねえんだよ! はぁひもじい」


 俺は自分の腰のポーチから赤く輝く石のかけらをいくつか取り出して、それをニムの前にある白い皿の上に置いてやる。

 ニムはそれに手を伸ばすと、まるで飴でも舐めるかのように舌を覗かせたまま口の中に放り込んだ。

 しばらくころころと口の中で転がしたかと思ったら、いきなりバリゴリガリゴリ噛み始めた。


「お前な……貴重品なんだからもっと大事に喰えよな」


「ええ? これ美味しくないからさっさと食べたいんですよ。だってこれ味しませんし……いやします、しますね! 何かこうスエたようなしょっぱくて芳しい……ご主人の汗とか色々な体液のにほい……ちょ、ちょっとなんか興奮してきちまったんですけどぉ!!」


「やめて! お願いだからそんな表現勘弁して」


 そんなことを言いながらもバァリボォリ石を食べてるニムを眺めつつ、アンジュちゃんが持って来てくれた煮魚の定食に俺も箸をつけた。

 そして俺は抱えてしまったこの大量の借金に思いを馳せた。


 あの骸骨の墓場に転移した直後に、ニムがスケルトンどもを倒してくれたわけだけど、その直後に不測の事態が起きた。

 それはなにかといえば。


『ニムの燃料切れ』


 ま、当然だわな。もともと家電のニムに必要な燃料は大したことなかったわけだけど、改造ついでに調子に乗ってジェネレーターを大幅に強化しちまったもんで軽く10万馬力の出力が出るようになった。

 それは趣味でそうしたから別によかったんだが、当然のことながら使用電力が急激に増加していた。まあ、リアクター自体は最新型の陽電子リアクターが使えたので問題なかったけど、肝心要の燃料の『リポジトロニウム』の消費が早い早い!

 ということで何が起こったかといえば、ニムが大群のスケルトンを片付けた直後に完全機能停止。俺はまあ、ちょっといろいろあって、その現場で何が起きたのか詳しく把握していないのだが……げふんげふん、散乱する大量の骨の中に固まったニムを認めて、慌てて担いでその場を後にしたってわけだ。

 あとは簡単、明かりを便りにこの街に辿り着いて、この宿屋に駆け込んだ。

 で、動かなくなったニムをどうしようかあれやこれや試していたら、たまたま手に入った『魔晶石』の放射線がリポジトロニウムと近似だということに気がついた。

 ということで俺がしたことは、この『赤い風見鶏』の店主のアンジュちゃんの父親に金を借りて、街の魔法道具店にあった魔晶石を買い占めることだった。

 その額たるやなんと10万G。

 いやはやなんて浅はかなことをしちまったんだか。

 この世界の貨幣価値とか商品価値とかいまいち分かってなかったもんで、つい買い占めちまったがそこまでする必要はなかったかもしれない。

 なにしろこの街での一人あたりの年間生活費がだいたい10万Gくらいだというのだから、いかに高い買い物をしてしまったのか様として知れるというものだ。

 はあ、失敗した。

 しかし、おかげでニムも再起動できたし、通常出力で行動している限りはそこまで燃費も悪化しない設定にしたから、まあ在庫で暫くは保つだろう。

 ニムはニムで食堂とかでアルバイトをしているし若干の給料はあるとはいえ、稼ぎ頭だった俺がこの体たらくではうちの家計が破綻するのは時間の問題。

 そもそも冒険者になったのだって借金返済のためにもたくさん稼ぎたいってのが最大の理由だったしな。このままじゃ本当にジリ貧だ。

 はあ……マジで生活保護とかの制度ないもんかな。

 

「また仲間の募集から始めねえとならねえか……」


 もうため息しか出なくて、せっかくのうまい夕飯の味もどこかに飛んでしまっていた。


「大丈夫っすよ! なんとでもなりますって!」

 

 と正面のニムが変わらずにガリボリしながらそんな軽口を叩いているし。

 分かってねえなこいつ。世の中そんなに甘くねえんだってのによ。これだから生まれたての人造人間(ドロイド)は……ったく。

 思わず苦言を言っちまいそうになったその時、唐突に脇から声が掛けられて、俺達は顔をそっちに向けることになった。


「あのう……モンジローさん……ちょっとお話したいことがありまして……」


 と、身を捩らせるようにやってきたのは、青ローブの元パーティメンバーだった。

 て、て、て、天使キターーーーーーー!


 俺たちを見下ろしていたのは青いローブを纏ったやはり青い髪の小柄な少女、フィアンナ。透き通った青水晶のような輝く瞳で

俺を緊張した様子のままに見降ろしていた。

 これはあれか? あれだよな?

 好きな男子に自分の想いをどう伝えていいのか分からなくて、戸惑いつつもでもこの内に秘めた想いをなんとか届けたいって悩みに悩んでここまで来ちまった恋する乙女の顔だよな! うん、そうだ! そうに違いない!

 ということは、この後起こるのは……

 そう! 『告白』だ!

 やばい、どうしよう、ついに告白されちゃうのか、純情乙女に……

 そりゃ今までだって女子に告白されたことは確かにある。なんというか、もっと気楽に「紋次郎、私と体育倉庫でエロいことしようよ」みたいに言われて……あれ? これ別に告白じゃなくね? ただの性癖の暴露じゃねえか。

 そ、そそそそそそしたらこれが本気も本気の最初の告白ってことか……

 くぅ~~~

 ついに俺にも春が来たかーーーーー‼

 

「ご主人? ご主人? 多分いろいろ妄想爆発してるっぽいすけど、あんまり爆走すると後でダメージでかいっすからほどほどにしといたほうがいいっすよ」


 何を言ってるんだニムのやつ。

 そんな勘違い俺がするはずないだろうが……


「あ、あの、モンジローさん。実はお願いというのは……」


 おずおずと頭を下げたままそう零すフィアンナの次の言葉は予想の斜め上を行っていた。


「お願いします! 父の……父の仇を取ってください!」


「はい、ダウトっすね」


 全てを察したかのような二ムが俺をにやにやと覗き見ていた。

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