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救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~  作者: こもれび
第一章 聖戦士と漆黒の妖精
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第十八話 精霊の力

 突如周囲の足元から間欠泉のごとき勢いで水が吹き上がる。そしてそれは渦を巻き、まるで水上竜巻の様に高速でうねりつつ獄炎の嵐を迎え撃った。

 強烈な閃光とともに、水の竜巻の壁が炎を蹴散らすも、相手の火炎の威力が絶大過ぎて一瞬水の壁に穴が穿たれるかとも思ったが、更に強化術式を加えて強化させた水流がそれを塞ぎしのいだ。


「あっぶねー、丸焼けになるとこだったぜ」


 マジで恐ろしい奴。

 こんな包囲殲滅魔法をいきなりぶっぱなして来やがって、愛しのフィアンナの身体でいったいなにしてくれちゃってんだか。


「お、おい、紋次郎……これはいったい……お前、本当に魔法を……」


 ゴードンじいさんが冷や汗を垂らしながらそんなことを言ってやがるし。

 本当に俺って信用ねえんだな……まあ、しかたねえか、レベル上がらねえし、クソ弱ぇままだしな。


「ああ、だから使えるって言ったろ? だけど、相手の魔法が凄すぎでマジビビったけどな。この辺の『ウンディーネ』たちがいい働きしてくれて助かったよ」


 じいさんは怪訝な顔を俺に向けたままだったが、唐突に叫んだ。


「も、紋次郎……良いか? 貴様は全くわかっとらんようじゃからきちんと言ってやる。魔法というもんはな、己が授かった存在の『恩恵』を元に、体内にある『魔力』を糧として周囲の『(マナ)』に働きかけて、様々な事象を発生させるもんじゃ。つまりな、魔法は魔力を持たん者には使うことはできんのじゃ。当然儂も使えんし、かつて存在したどんな英雄も勇者もその理から外れた者はおらんかった。お前……本当に『魔無し』なのか?」


 そんなことをこの炎に飲まれた中で言いやがるし。

 ま、確かにその通りだと思うよ。俺だって最初はそうだって思ってたしな。でも……

 俺はポーチからあの古ぼけた赤い本を取り出しながら、じいさんへ言った。


「俺が『魔無し』なのは、最初にじいさんに依頼貰ったときにステータスカード見せてんだから分かってるだろう? 俺には魔力なんて微塵もねえよ、それこそ、近所のガキが遊びでやってる『水弾ミ・ウォーターバレット』とか、『送風(フ・ブロワー)』の魔法だって使えやしねえよ」


 ほんと、あのガキどもが指先から水を打ち出して、お互いびしょぬれになって遊んでたあの魔法とか、超うらやましくて俺もやりたかったよ……ま、出来たところでどうせ仲間に入れちゃもらえんだろうが。


「ま、仕方ねえ、魔力ねえ奴は無理だってみんなにも言われてたからな。でも、ちょっとこの本を読んでみたら、おもしれえこと書いてあったんだよ。ほら、ここ……この56ページ目のところ……」


 片手で本を開いてじいさんの前に出してやるも、じいさんは本と俺を交互に見てまったく喋りもしねえ。ったく、なんだよ、俺に読めってか?

 そう思っていたら、俺の背中からニムが顔を覗かせてきた。


「あ、その本、例のアンジュさんのお店で痴女のメガネっ子からもらった奴っすね? えーと、なになに……」


 ちょっとニムさん! その痴女確定とか本当にやめて! 今度会った時、本気で『この人痴女かも』って思っちゃうかもしれないでしょ! そしたら、俺痴女に告白しなきゃいけないじゃん! というか素っ裸で俺に抱きついてる時点でお前の方が痴女レベル高いから。

 ニムは俺にはお構いなしに読み上げ始める。


「えーとでやんすね……『魔術とは精霊の力の具現化に他ならない。あまねく力の全ては精霊より与えらえ、そして世界を象り、精霊へと帰す。これすなわち魔の理なり』。??? どういう意味です?」


 こいつ……いきなり思考を放棄しやがった。


「お前な……もうちょっと自分がコンピューターだっていうプライド持てよ。なんでもかんでもポイポイ簡単に丸投げしやがって」


「へへ……だって、ワッチよりご主人の方が頭良いじゃないっすか」


「うるせいよ! 俺が電子頭脳より頭良いわけねえだろうが! ったく……いいか? 要はな、この世界の魔法って奴はな、目にはよく見えねえが、その辺とか次元の境界とかにいる『精霊』って奴の力を借りて行使してるわけだ。このステータスカードに出てくる『恩恵』ってとこに記載されてるのがそうなんだけど、もともと恩恵貰って魔力のある奴は、自分に力を与えられてるわけだからな、そんな細かいこといちいち気にしなくても魔法が使えるわけだ。マジでうらやましい」


「? それは分かるっすけど、ならなんでご主人は使えるんでやんす? しかもこんな強力な奴」


「そりゃあれだ。作ったからだよ」


「作ったって……何をです?」


「だからあれをだよ……『魔法』を作ったんだよ、『精霊を捕まえる』魔法を」


「「…………」」


 なぜかいきなり時を止めるニムとじいさんの二人。俺を凝視したまま固まってるし。そ、そんなに見つめんじゃねえよ。俺なんかおかしなこと言ったかな?

 と、その一瞬間を開けて、二人が絶叫した。


「「はあっ?」」


 あまりの大声に思わず飛び上がる。

 二人を見れば、じいさんは眉を吊り上げてるし、ニムはケラケラと笑い出した。


「も、紋次郎、お前何言っておるのかわかっておるのか? 精霊を捕まえる魔法じゃと? そもそもその魔法をお前は使えんのだろうが」

「きゃははははっはっ……さ、さすがご主人っす! 予想の斜め上っすね! どうして魔法使えるのかワッチも気になってたんすけど、なるほどそういうわけだったんすか! 何がなるほどかワッチにも良くわかりやせんけど、なるほどなるほど!」


 なぜか怒ってるじいさんと大爆笑のニム。

 お前らいい加減にしろよな。


「ったく……なら教えてやるよ。いいか? 人間の『魔力』と『(マナ)』は言わば同質のイコールの存在だ。そして、その『(マナ)』により生まれた存在が『精霊』とか『神霊』とか『悪霊』とかってやつらだ。つまりな、本来は術者が供給しなきゃならない『魔力』を他所から持ってくることは理論上可能なんだ。だがこの世界の知識のない俺にはまさに雲をつかむような行為。そんなとき貰ったのがこの本だ」


 俺はもう一度本を持ち上げ、表紙をたたいた。


「ここにな、いろんな魔法についての術式が載ってたんだよ。それこそ『光闇()元素』全てが網羅されててな。そんで何気なくそれを見ていたら、そのうちにあることに気が付いたんだ」


 俺は適当なページを開きながら、魔法陣のとある個所を指さしつつ語りかける。


「ほら、こことか、ここ。な? 分かるだろ?」


 だが二人の反応は頗る悪い。なんでだ? こんなにわかりやすく指さしてやってんのに。

 するとニムが俺の肩をちょいちょいつついてきた。


「あのあのご主人? 多分ご主人の中じゃ解が出てるんでやしょうが、ワッチらには基礎知識がないもんでもう少し噛み砕いて教えていただけないでしょうか?」


「そ、そうか? うーん十分わかりやすいと思うんだが……、ま、ざっくり言えば、魔法って奴はどの魔法も全て『精霊』を『使役』することで発現させているわけだ! つまり精霊とは、『奴隷』、『下僕』、『小間使い』! 精霊の自由を奪ってそのエネルギーを抽出しているわけだな、まあ、精霊に感情があるのかは不明だし、痛みとか嫌悪感とかあるのかも分からんが、そうやって精霊を制御して誰もが魔法を使っている。つまり」


 俺は人差し指を立てて結論を言う。


「俺は全ての魔術を分析して精霊の使役に関する箇所とその方法を抜き出して、任意でそれを行えるように改良した魔法を作った。当然起動に必要な魔力は精霊から貰う形でだ。さらに、その際に俺に負担が掛からないようにも気をつけてな。どうもこの本にも載ってるいるが、魔法は、やれ使うと身体が消耗するだ、自分にもダメージがくるだと適当なやつが多くてな、流石におれも誤爆で死にたかねえから色々調整して無駄を省いて……とまあ、こんなわけで、俺は魔法をつかってるんだが……何かおかしいか?」


 なるべく分かりやすく、噛み砕いたつもりだが、逆になんでここまで説明しなきゃならないんだ? こいつらも魔法使いたいのかな? それにしてもじいさんの奴微動だにしていないんだが……

 すると、ニムが聞いてきた。


「なら、ワッチも魔力ないですけど魔法つかえるってことっすかね?」


 身を乗り出して興味津々といった様子の二ム。だが……


「お前はどうかな? まずは『精霊と会話』する必要があるからな。精霊は恩恵を与えた相手と『同調』することで様々な現象事象を発現させるわけだが、同調していない精霊も近くにいる『生命体』に入り込む修正があってだな、今こうしている間も俺の中にはたくさんの精霊が入り込んでて干渉しているわけで、俺の『思念』や『思考』を読んでいるんだ。だから、俺が脳内で描いた『魔法陣』に『感応』してその魔法を使えてるわけなんだが、お前はそもそも『生命体』じゃないからな」


「ええ? なんかずるいっすよ。ワッチだってちゃんと『自我』のある生命体っすよ! ほらあれですよ、ワッチなんて『メカ〇体ゾイ……』とか、『超ロボッ〇生命体トラ……』とかと一緒っすよ!」


「おい、やめろ! 背筋がゾッとしちまったじゃねえか!」


 いや、ほんとやめろよ、理由は分からんけど嫌な汗流れまくっちゃってるから!

 にへへと笑ってるニムはどうも諦めてはいないみたいだな。そんなに使ってみたいってんなら今度教えてやるかよ。

 それにしても本当にここの精霊たち……特に『ウンディーネ』はいい仕事していやがるな!

 自分達の身を守るために放った水魔法であったが、未だにその竜巻は俺たちを囲み守り続けている。このように行使は確かに可能なのだが、効果や持続時間は正直良くわかっていなかった。行使者は俺だとしてもエネルギー源は精霊達そのものだからな。

 実際に俺も精霊なんてもんはよく知らないのだが、この凄まじい勢いの水流を長時間こうやって維持できていることはまさに驚嘆に値する。

 というか、これどうやったら止まるの?

 俺はなんとなく、目の魔の水竜巻にむかって言ってみた。


「えーと、そろそろ終わっていいよ?」


 すると……

 ふわりと水壁の一部が盛り上がり水がもこもこと形状を変えた。そこにいたのは下半身が魚のようになった半透明の少女の姿……

 おお……こいつがウンディーネか! いや、マジでたすかったぜ! 

 と感謝を思い浮かべつつ、右手でサムズアップする。

 すると、その水の少女は一瞬ぽかんとした表情になるも同じようにサムズアップを返してきてニカっと微笑んだように見えた。そしてその背後にも同じような無職の液体状のたくさんのウンディーネ達と、あの透明なのは風の精霊シルフだろうか……とにかく大小様々な精霊たちが踊る様に現れては消えを繰り返しながら竜巻と共に消えていく。そして俺たちは周囲の惨状を目の当たりにすることになった。

 一瞬で掻き消えたその魔法の爪痕だろうか、もともと崩落して瓦礫まみれになっていた周囲が綺麗に清掃されたように、床だけを残してあとは綺麗さっぱりなにも無くなっていた。

 そればかりか、見張らし良くなったこの丘の周りの墓石やら樹やらが大量の水に浸かっており、さらに、多分ここから弾き飛ばされた瓦礫の成の果てだろうか、奇っ怪な形の石のオブジェがあちこちのその深い水溜まりに突き刺さって前衛的な芸術作品と化している。


 うん、ウンディーネ達、良い仕事しすぎだ!


「ご、ご主人! ちょっと来てください!」


「あん?」


 慌てた二ムの声を聞いて、そちらに目を向けてみれば、そこには床に横たわる両腕と全ての翼のもげた先程の気持ち悪い見た目の第四使徒の姿……

 どうやら、先程の水魔法によってその身体を切り刻まれてしまったようだが……

 良く見てみれば、そのまるで人形の様であった顔の半分が欠け、その奥にフィアンナとおぼしき人の顔がめり込んでいた。

 2mを越える大男の顔の部分に、フィアンナの顔だけ存在している様は本当に摩訶不思議な感じだが、彼女はまだ息があるようで、口を開いて荒い呼吸を続けていた。

 そしてその視線が俺を向いた直後、その瞳から涙を溢れさせた。


「も、モンジロー……様……あ、ありがとう……ございました……私を……ころ……して……くれて……」


 フィアンナは瞳を濡らしながらそんな恐ろしいことを宣う。

 いや、これやったの俺じゃないからね? 俺は魔法を構築しただけでやったのはウンディーネ……


「ご主人、苦しそうですしフィアンナさん助けられませんかね?」


 二ムにそう聞かれ、俺は即答。


「いや、無理だな」


「ちょっと、ご主人!」


 何故かいきなり怒った感じで詰めよってくる二ムに一瞬たじろぐも、とりあえずまあまあ落ち着けと二ムを離れさせる。


「慌てんじゃねえよ。このままの状態で助けるのは無理だって言っただけだ。フィアンナを見捨てるわけねえだろが」


 二ムは安心したのか、ホッと胸を撫で下ろしている。

 そんな奴に近づいて俺は持っていた本の必要なページを探してめくりそれを奴に見せた。


「いいか? フィアンナの今の状態は、フィアンナの身体に第四使徒ドレイク・アストレイって奴の魂とフィアンナ自身の魂の二つが同居していて、且つその支配権をドレイクに奪われている状況だ。つまりなこのまま回復したところで、ドレイクが元気になるばっかりでフィアンナは結局消滅することになるんだよ」


「じゃあ、どうするんでやす? そのドレイクさんの魂だけ殺すんです?」


「いや、そいつは無理だ。融合した身体と魂を分離させる魔法には、分離先の器が必要なんだ。多分もう『魂の宝珠』は砕けちまってでもいるからな、その方法は取れない……だからな……」


 俺は開いていた本の内容を二ムへと伝える。

 その様子をさっきからずっと黙りこくっているゴードンじいさんもしっかり聞いているはずだが、やはり何も言わないし、その無言の圧力が超怖かったもんで俺は何も告げずに伏しているフィアンナの顔へと手を伸ばした。


「フィアンナ……ちょっと怖いかもしれないが我慢してくれな……必ず助けてやるから」


 俺の言葉に目を見開くフィアンナ。濡れた瞳をそのままにその殆ど動かない頬をくしゃっと歪めて泣き顔になってしまった。 おっと……いかんいかんいくら緊急事態とはいえ、婦女子の身体に触れちまった。流石にこの反応は傷ついたけどしかたないだろう。とにかく、この元凶でもあるドレイクの魂をなんとかしないとな。

 見れば、ドレイクの身体のところどころの傷の修復が始まっている。両腕は欠損して無くなっているが、その身体は小刻みに震え始めており、今まさに起き上がろうとでもしているかのようだ。

 時間がないな……

 俺は立ち上がって両腕をドレイクの身体にかざす。

 悪いな水の精霊(ウンディーネ)風の精霊(シルフ)……もう一度力を借りるぞ。それと、お前らも……

 心で念じる。

 俺の中に息吹く様々な存在を俺の中に作り上げた魔法術式の中に招き入れていく。そして、確かに光り輝く魔法陣が完成したことを知覚し、そして発現の為の呪文を唱えた。


「『万能なるマナよ……我が右手に消滅の闇を、我が左手に復活の光を現わせ!』」


 その瞬間、俺の周囲に光と闇が出現し、そして俺の右手に風の刃を纏った闇が、そして左手に癒しの水を煌めかせた光が収束する。そして、その両方のエネルギーをドレイクへと叩き込む。

 それは凄まじい火花を発生させて周囲を明るく照らした。

 ドレイクの身体に吸い込まれた漆黒の闇がその全身を駆け巡る。そして光は泣き腫らすフィアンナの顔を優しく包み闇の浸食から彼女を守っているようである。

 全身を激しく痙攣させるドレイクの様子を眺めつつ、俺は最後の詠唱を行った。


「消えちまえ! 第四使徒ドレイク・アストレイとかいうやつ! これ以上子孫に迷惑を掛けるんじゃねえよ! 『原子分解消滅魔法アル・デストロイ・ダスト・ボディ』! あ~んど『死者蘇生(リザレクション)』!」


『ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ』


 漆黒の闇がその全身を蝕みボロボロに崩していく。苦悶のその半分の顔を歪めるドレイクののっぺりとした女顔。だが、その隣では金色の輝きに包まれたフィアンナの穏やかな顔があった。

 闇は周囲の空間をも侵食し、そして光はその闇の中に一条の筋を描きだす。

 完全に闇に飲まれたドレイクアストレイ。

 だが、残された一条の光の輝きが徐々に大きく膨れ上がり始める。

 それは神々しいまでに眩しく、その中に確かに命の光が息づいているかの様にも思えたのだ。


   ×   ×   ×



 この日…… 煌めく満月の夜、少し離れたアルドバルディンの街の住民達は、この巨大墳墓群、『死者の回廊』から発せられた激しい音と眩い光の数々に、驚き恐怖しそして何がが起きているということだけを実感し、その事態を見守っていた。

 住民たちは家の戸を固く閉ざし、男たちは手に手に武器を構え、モンスターの襲撃に備え夜通しその警戒に当たる。

 しかし、現れると思ったアンデッドはついに街の周辺には出現せず、街はなんの被害もないままに朝を迎えることとなる。

 そして近隣の町村からの応援の到着を待ってから、冒険者を中心とした調査隊を組織し死者の回廊へと派遣する。彼らはそこで、破壊の限りを尽くされた元礼拝堂があったであろう丘の上で、アンデッドの遺骸と思われる大量の骨の中で気を失っていた一人の聖騎士の姿を確認する。

 生存が確認されたその聖騎士は意識が戻ると調査隊の面々より『このアンデッドの死体の山はいったいどうしたのか』と問われ、暫く周囲を見渡した後に、


 『全部俺が片づけた!』


 と笑顔で言い切ったそうだ。

 この礼拝堂の近くからは無残な屍となった領主、スルカンの遺体も見つかり、街の人々はスルカンとこの聖騎士の活躍によりアンデッドの恐怖は取り払われたと彼らへ深い深い感謝を捧げた。

 以来、この街にアンデッドが押し寄せることはなくなり、街の中心にはこの街を救った聖騎士とその時の領主の名前の掘られた『英雄の碑』が立てられることとなる。


 街の脅威が取り払われたことに歓喜し、おおいに賑わっていたこの辺境の街から、黒髪の美しい女性を伴った一人の若い冒険者が姿を消したことに、ほとんどの人は気が付くことはなかった。

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