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第二十八話 足掛かり

「よし、準備が出来たら出掛けるぞ」


「出かけるって……だからどこへですの?」


 カチャカチャとベルトに剣を帯びて身支度を進めていたオーユゥーンが聞いてきたので、俺は言った。


「そろそろくる」


「え?」


 そう不思議そうに見つめてくるオーユゥーンへを見た直後に、入り口のドアが大きくバンっと開かれた。


「来たよモンジロウさん!!」


「ちょ、ちょっとナツ……やっぱりまずいよぅ……」


 そう言いつつ現れたのは二人の少年。アレックス君と一緒に助けたあの孤児院の二人の男の子、ナツとウーゴだった。


「いよう、待ってたぜ」


「へへー、シスターたちの目を盗んできたからな、少し遅れちゃったよ」


 茶髪を短く刈り上げた短髪のナツと、金髪を少し長めに伸ばして前髪で目が隠れてしまっていそうな風貌のウーゴ、その二人を前に俺は言った。


「気にするな、さっきちょうど『客』がいたからな、タイミングばっちりだ」


「客~?」


 俺が天井に空いた穴へと視線を向ければ、ナツとウーゴも不思議そうにその穴を見ていたのだが……

 そんな俺達にオーユゥーンは聞いてきた。


「お兄様? この子達はあのアレックス殿下のお友達の……彼らにいったい何をさせるおつもりですの?」


「ああ、まだ言ってなかったな。俺はこの二人に、レジスタンスの誰かを紹介してくれって頼んだんだよ。アレックス君は親父さんと対面中だしな、親子水入らずでいられるのに邪魔はしたくねえじゃねえか」


「へへー、おにいさんがまさか本当に国王様を連れてくるとは思わなかったからな。でも約束は約束だ、お兄さんたちが仲間になるってんなら、俺達だって当然協力するぜ」


「な、ナツ……でもだめだよぅ、勝手にこんなこと決めたら。またアレックスに怒られちゃおうよ?」


「だーいじょうぶだよウーゴ。ほら忘れたのか? 『将軍』だって強い仲間が必要なんだって言ってたじゃないか。おにいさん達はめちゃくちゃ強いんだから平気だよ」


「でも……」


 なにやら子供たち二人でそんな話になってはいるが、オーユゥーンはこれで一応は納得できた様子。俺は改めてここにいる全員……オーユゥーン、ヴィエッタ、シオン、マコ、バネットへと言った。


「今からこの子達の案内でレジスタンスのアジトへ向かう。そこでそいつらの頭と交渉するからな」


「交渉って……何をする気なの? 紋次郎?」


「そんなの決まってるだろ」


 俺は尋ねてきたヴィエッタを見ながら答えた。


「この国を助けるための相談だ」




   ×   ×   ×



 俺達はごく普通に彼らの先導にしたがって列をなして進んだ。特に変装も何もしていないが、全員武装しているから冒険者というふうに道行く人からは見えていることだろう。

 周囲の無気力な浮浪者たちを見つつ進んだその先にあったのは、どう見ても人の住んでいなさそうな朽ちかけの一軒家。そこにナツとウーゴは先に入って行ったのだが……まあ、その様子は秘密基地で子供が遊んでいるようにしか見えないだろうけどな。

 俺は一応剣を鞘から抜き放ってゆっくりと入口へと歩を進めようとした。すると、オーユゥーンとシオンが俺の前に出て、周囲を警戒しつつ先に立って歩き始めた。

 こいつら俺を守ろうとしてくれてるんだよな。ま、まあ、俺のレベルは1だし? 先に突入したところで返り討ち100%だし? 役立たずってことは理解しているし? うう、な、情けなさすぎる。


 と、一人で打ちひしがれたいたところに、建物内の暗がりから声が掛けられた。


「どなたかな?」


 それはしわがれた老人の声。

 そして、そこに現れたのは真っ白い髭を蓄えた、見るからによれよれした仙人のような爺だった。

 俺はその爺に向かって言った。


「えーと、『夏のアプルを買いに来ました』で良かったのかな?」


 そうたどたどしく言ってみれば、老人はほっほっほと愉快そうに笑って俺達を覗き見た。

 今のセリフは、ナツに案内させるまえに聞いた合言葉だ。連れて来られたのに本当にこの合言葉いるのか? っていうか、一緒に来ているのに合言葉言わせるとか……あいつらマジで楽しんでやがるな。

 さあ、あのガキどもは何処だと探そうと思っていたところに、老人の声。


「何もないところだが、ゆっくりしていきなされ、もっとも……『アプルはもう売れてしまいました』がの。ほっほっほ」


 おっと、ここで合言葉の後半部分か。一応はこれで合っていたようだ。

 なら安心か? 

 俺はそこで爺の背後に居る二人の男の子を見付けた。ナツは愉快そうにニヤリと笑い、ウーゴの方は心配そうに眼をキョトキョトと動かしていた。

 そして俺達は爺の後について朽ちた家の内部を歩んだ。

 壁や天井、それこそ屋根にも穴が空いていて陽の光が直接室内を照らしてしまっていた。

 俺はそんな様子を見つつ老人が入った小さな部屋へと視線を戻したのだが、そのもとは書斎かなにかだったのだろうそのボロボロの部屋へと入り、そこが終着点なのかと勝手に想像していたのだが、爺は書棚の一角の本に手を伸ばすと、それを『押し込んだ』。カチリと何かが嵌るような音が辺りに響き、そしてゆっくりと本棚が横へとスライドして行った。

 そこにあったのは小さな扉。爺はその扉を開けて中へと入った。

 俺達もそこへと続いて入るとドアが勝手にしまり、また何かずりずりと床を擦るような音が響く。

 どうもこれは自動ドアらしい。

 俺はその真っ暗闇の中で黙って待っていたのだが、突然室内に明かりが灯った。

 

 淡い光なのだが、暗がりだったせいもあり、かなり眩しく感じてしまう。


 そんな俺達の前には人影が。


 さっきの老人かと思って徐々に明かりに慣れてきた目で見つめると、そこには複数の男性が立っていた。

 それも全員重武装のフルプレートメイルを装着した騎士のスタイルである。

 彼らはフェースガードまでしているのでその表情までは読み取ることは出来ないが、明らかに俺達を警戒していた。武器こそ構えていないがいつでも飛び掛かれるような体勢をとっていた。


「この人達は問題ないだろう。アレックス殿下の『仲間』だそうだからな」


 その声に周囲の鎧男どもはちらりと振り向て構えを解く。

 いったい誰が今の言葉を言ったんだ? そう思い視線を向ければ、そこにはさっきのよぼよぼの老人の姿……ヨボヨボ? いや、そこに居たのは老人の格好ではあるが、背筋をピンと伸ばしこちらへと精悍な眼差しを向けてくる髭の男性……彼はその髭に手を添えると、べリリっとそれをはぎ取った。

 そして俺の前に歩み出る。

 年のころはそれでも結構いい歳なのか? 王様と同様の渋みも感じるので、それこそ50くらいなのか……? 彼は剥がした後の顎をさすりつつ、微笑みながら俺達へと言った。


「私の名前は【ハシュマル・グリーンヒル】。今はみんなに【将軍】なんて大層な肩書で呼ばれてはいるがね、今は亡き西方『カーゴロード伯爵領』の元騎士団長だった。ま、よろしく頼む」


 こうして俺達はレジスタンスの頭目との邂逅を果たすこととなった。

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