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救世ノラヴドール~俺とセクサロイドの気ままな旅~  作者: こもれび
第一章 聖戦士と漆黒の妖精
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第九話 手品師二ム

「あ、腕投げたのは嘘っすよ。手品(トリック)っす、手品(トリック)


 とか言いながら後ろ手に隠していたおっさんの腕を取り出したニムさん。

 ニムはあの投げると見せかけた瞬間、腕を背後に隠しながら同時に同じくらいの大きさの煉瓦を掴んで、そのまま目にも止まらぬ速さでぶち投げたらしい。

 何がマジックだよ、マジで笑えねえよ。

 差し出されたその腕を、ガクガクと震えながら受け取ったおっさんを治療してくっつけてやると、連中はそのまま這々の体で逃げ出して行った。

 逃がしたのは、ニム嘘発見器が嘘を吐いてないと断定したからで、本当にただ金で雇われただけの下っぱだったことが判明したからなのだが、やはりというか奴等を雇ったのはスルカンの関係者だった。


「ふう、もう真っ黒黒じゃねえか。スルカンの野郎が何かやってんのは確定だな。それにしても、いきなり俺達を始末しようとするとか、いったいどういう了見だよ」


 ほんと、とんでもない連中に俺たちを襲わせやがった。

 一応、逃がす前に5人のステータスカードは没収したのだけど、見てビックリ、全員レベル30オーバーの殺し屋だった。中には【暗殺者】【即死剣】【死の誘い】なんておどろおどろしいスキル持ってる奴もいて、殺す気まんまんだったことが窺えた。

 人畜無害で善良な俺を殺そうとする時点で頭おかしいとしか思えないけど、今回うちらを襲ったおっさん達だって暗殺特化の傭兵崩れのそこそこ高レベルの無頼漢だったしな。いくらなんでもそんな連中をいきなりけしかけねえだろうが、普通は。

 

「状況から考えるに、ワッチらが色々調べ始めたのが原因っぽいっすよね」


「ま、そうだな。知られたくないことがあるからこうやって殺しに来たんだろうしな。それにしてもこんなにレベルの高い奴等寄越しやがって、俺なんてたったレベル1の役立たずだぞ?」


「自分で自覚しちゃったんすか?」


「仕方ねえだろ? ギルドじゃそう呼ばれてるんだからよ」

 

「なら今度はワッチが行ってみんなしばいて……」


「いや、やめて! お願いだから!」


「そっすか? ご主人がそう言うならワッチはなにもしやせんけど」


「頼むぜ、おい」


 恐ろしいなこいつは。

 気が付いたら辺り一面血の池地獄だったとかそんなの本当に洒落にならん。こりゃいよいよ目が離せないぞ。


「ま、あれだ、一つ確かなことは、高い金を払ってでも俺達を殺したいって明確な動機が相手に出来ちまったってことだ。十中八九スルカンが黒幕だとして、このままフィアンナの依頼を進めていいものかどうか……」


 フィアンナの依頼は父親の死の真相を知り、更に殺人者への復讐をしたいというもの。

 その依頼の過程にあって襲われたのだから、このまま進めば再び襲われる恐れが高いのは間違いなかった。

 二ムは悩む俺とは正反対にあっけらかんと答えた。


「気にしなくていいと思いやす。ここで辞退したところで、相手が知って欲しくない何かをワッチらが知ったと思い込んででもいれば、一生追いかけられるだけでやすし、どうせ襲われるなら先に進んだ方が解決に近づけやすからそっちの方がお得です」


「お得って……まあ、確かにそうか。もう前金も貰っちまってるし、依頼はこなさねえとならねえからな」


 俺の言葉に二ムがうんうんと頷く。

 

「さて、そうとなれば調査を進めるわけだけど、奴らが知られたくないことってのはいったい何なんだろうな?」


 二ムは首をかくんと横に傾げてうーんと唸った。


「なんでしょうね? 普通に考えれば、汚職、背信、犯罪の証拠をワッチらが握ったから殺し屋を雇ったとか、そういうことになるんでしょうけど、ここは異世界でやすしね。何かしらファンタジーな理由があるような気もしやすけど」


「よし決めた」


「どうするんです?」


 顔を上げる二ムはどこか呆けた感じで俺を見ていた。その少し穏やかになった顔を見ながら、本当にさっきの悪鬼羅刹みたいなことしやがった奴と一緒なのかよ、と、我ながらそれが信じられなかった。

 俺が口にしたこと、それは……


「このまま、『死者の回廊』に行こう。仮にこのステータスカードを持ってスルカンのとこへ行ったとしても、奴は本当のことは話はしないだろうしな。それに二ムの言うとおりなら、どこに行ったって襲われるわけだからな、さっさと全部調べて、スルカン殴って終わりにしようぜ」


「了解っす! ワッチはご主人とどこまでも一緒に行っちゃいますぜ!」


 と、二人で移動しようと思ったら、周囲から何やら視線を感じてしまい、なんとはなしに首を向けてみると、建物の影や家々の窓からたくさんの人の顔がこちらを覗いていた。というか、みんな遠巻きにこっちを見てるし。


「あれぇ、みなさん怯えてしまったようっすね」


 二ムが頬を搔きながらそんなことを言う。そりゃ怯えるだろうよあんなシーンを見れば……

 えーと、一人の腕を素手でちょん切って、4人を一瞬でふっ飛ばして、しまいには切った手を空の彼方に放り投げた……ふりをしたと……

 うん、良く分からんな。少なくとも理解は無理。


「こんな街中だしな、この反応もしかたねえだろ」


「そっすね」


 どことなく声に力のない二ム。意外と気にしてんのかな。俺はポンと二ムの頭に手をおいてわしゃわしゃ撫でてやった。

 

「わ、わ、わ、なんすか? セクハラっすか? 微妙なんすけど、けっこう気持ちいいっすけど、いよいよ我慢の限界?」


「アホか、そんなんじゃねえよ。ただ、まあ、お前のおかげで助かったからな。ありがとう……ってな」


 一瞬きょとんとしてしまった二ムが、にまーっと笑顔になって変な声を漏らし始めた。


「ん、んふふ……んふふふふ」


「んだよ、気持ちわりいな」


「これだから、ご主人の事大好きなんす」


「へいへい」


 抱き着いてきた二ムをそのままにして、まあ、こんな日もあるかとかそんなことを考えていたら、遠巻きに見ていた群衆の中から、二人の子供が駆け寄ってきた。

 さっき二ムが遊んであげていたエルフの女の子と、犬耳の男の子の二人組だ。いったいなんの用だ? と眺めていたら、二人はキラキラした大きな瞳で二ムを見上げて矢継ぎ早に話し始めた。


「おねえちゃん今のなにー?」

「バンって切って、ダンって飛ばして、びゅんって飛んでった」

「すごいすごーい」

「あれなにやったの? どうやったの?」

「ね、おしえておしえてー?」

「見たい。もっかい見たい―!」


「ちょ、ちょっと待つっす」


 なぜか二ムが慌てとる。くくく……今日はなんとまあ色んな二ムの顔が見れるもんだな。

 二ムはぴょんぴょん跳ねながら抱き着いて来る子供たちの剣幕に押され気味で困った様に俺に視線を向けて来てたから、俺は頷いてやった。


「見せてやれば? 手品」


「あ、いいんですかい?」


 二ムはぱぁっと明るい顔で頷くと、今度は子供たちの頭を撫でつつ、じゃあ見せてあげるっすと、徐に自分の胸の谷間にずぼっと手を突っ込んだ。

 子供ら二人とも目が点になっちまってるし。

 そして取り出したのはトランプだ。

 お前な……教育上宜しくない絵面を再現するのやめなさいっての。てか、お前の胸の間は一体どうなってんだよ? 四次元ポケットか? すでにいろいろマジックだよ。

 ニムは器用にトランプを空中で切ったあと、それをまっすぐ右手から左手にマシンガンの様に飛ばしてみせた。しぱぱぱぱぱぱと手に収まっていくトランプを見て、すでに子供たちも大興奮状態だ。


「なんだ? なんだ?」

「何がはじまるんだ?」


 周囲がガヤガヤ始まったかと思えば、大人たちもみんな近くに寄ってきてるし。

 先程まで離れていた人達がかなりの数集まって器用にトランプを操るニムを期待を込めた目で見始めた。

 ニムはたくさんの観客に気分を良くしたのか声を張り上げた。


「さあさあお集まりの皆さん、取りだしたるこのトランプ、種も仕掛けもございやせん! これからお目にかけるのは世紀の大マジックでござんす~」


 とかなんとか言ってトランプ手品を始めるニム。非常に原始的なカードマジックではあったけど、見ていた周囲の観客達は一斉にどよめいた!


「な、なんであのカードがここにあるんだ?」

「信じられない、このカードさっき破いたはずなのに、復元しちゃってる」

「絶対一番下にあったはずなんだ! ずっと見てたんだよ、僕は!」

「わ、わからない。どんな技か魔法なのかも全然分からない~」


 やんややんやと群がる群衆がニムの手さばきに翻弄されて瞠目しちゃってるし。まさかここまで人気出ちゃうとは思いもしなかった。もう、人間も、獣人も、エルフもドワーフも関係なくみんな喜んでる。


「な、なあお姉さん。もう一回! もう一回だけ今の見せてくれよ」


「えへへ~、ダメっすよ、マジックは一度しか見せないって約束があるんすから~。見破れない時点でワッチの勝ちっすよ」


 食い下がる観客をニムがにこにことあしらいつつ、どんどん別の手品を披露している。

 やっぱりこういう技で見せるマジックが一番だな。

 最近じゃ、やれ立体映像装置がとか、やれ粒子化変換器だとか、そんなのを使った似非マジシャンだらけになっちまったけど、本当のマジックはテクニックのみのまさに幻想イリュージョンマジックじゃなきゃダメだ。

 こいつだけはどうしても再現したくてニムには森羅万象古今東西のマジックをインストールしたからな。まさに手品師の中の手品師マジシャン・オブ・マジシャンだ!

 俺がそんな脇で、最初に俺たちにお願いにきた二人の子供が、今度は俺の前に立って袖をひっぱった。


「ねえねえお兄さんもなんかやってよ」

「うん、見たい見たい」


「そ、そうだな……じゃあ、こんな奴はどうだ? なんとお兄さんの親指は……なんと離れます」


「「うおおおおおおおおおおお」」


 思わずびくりとのけぞっちまうくらいの凄い反応。いや、何もそこまで驚かなくとも……


「えと……こうして戻して擦ってやると……指がもとに戻りましたー!」


「「うあああああああああああああああ、く、くっついたぁ!ま、魔法だ! すげえ魔法だ!」」


 反応が良すぎて却って困っちゃう件。

 いや、単に親指曲げて隠してただけの当たり前の奴なんだけどね。

 大学追い出されてから最初に就職した会社の歓迎会の時にこれをやってめっちゃ失笑買ったのは最悪の思い出だ。あれで会社行けなくなったまであるし。くっ、あの時これくらいの反応が欲しかった。

 子供達が目をキラキラさせながら、なにか見よう見まねで俺の真似をしているし。

 うんうん、そうそう、初めて見た時は感動しちゃって何度も俺も真似したよー。全然出来なかったけどね。


「あ、出来た」


「なーんだ、指曲げてただけじゃん、インチキだ。チェー」


 うん、出来ちゃったねすごいね。でもマジックは基本ファンタジーない手品トリックだからね。腐ったもの見るような目はやめてね、心に刺さるから。くぅ……


「それにしてもあんたら、スゲェ怖い人達かと思ったら優しかったんだな」


「え? そ、そうだよ。怖いことなんてしないよ」


 等と、答えようとして思わず声が上擦ってしまった。街の人達は次々に話しかけてくる。


「ここいらにあんな無頼の酔っぱらいが来ることなんて今まで無かったから、子供達を避難させたんだが、本当にあんたらのお陰で助かったよ」

「ほんとほんと、この街は今までずっと治安良かったから、あたしらみたいな亜人も安心して暮らせてたんだけどここのところ本当に物騒でね」

「なあ、あんあたギルドの冒険者だろ? 本当にいつも俺達を守ってくれてありがとうな」

 

 みんなに口早にそう言われて俺ももうたじたじなんだが、俺はとにかく一生懸命に愛想笑いした。うん、今までしたことがないってくらい、しまくった。

 なるほど、みんな結構冒険者に感謝してるもんなんだな。他の街は知らないけど、確かにここではギルドの冒険者が警察兼、護衛兼、街の守備隊って感じだし。

 でも、なんかそれを俺に言われてもむず痒いだけだー、だって俺まだろくにここの仕事こなしてねえし。

 居心地悪くなって、ニムはなんで助けてくれねえんだ? とかそっちを確認したら、今度は子供達にトランプを渡してマジックの手解きを初めてやがるし!

 いつまでやるつもりだよ! というか、その大量のトランプどこに仕舞ってやがったんだ!


 そんなこんなで俺たちが解放されたのは小一時間くらいあとの事だった。さんざん芸をさせられたニムと俺。観客は増える一方で、最後は拍手喝采アンコールの大合唱になってしまったが、とにかくそこで終わりにした。

 何故かニムが大きな帽子を逆さにして持ってたもんで、そこに街の皆さんがお金を入れてくれて、ニムはもうニマニマのウハウハの状態。完全に大道芸人だよ。

 お金山盛りのその帽子を大事に抱えて、今日は美味しいもの食べましょうね! なんて言ってやがるし。


「その前にやることあんだからな? 気を抜くなよ」


「分かってやすよー」


 と明るい表情で答えるし。

 そんなニムを見て、俺も何故か気持ちがホッとするのを感じていたのだけども。


「さあて、行くか」


「ラジャっす!」


 二ムの同意を得たことで俺達は街の門をくぐった。

 目指すはアルドバルディンの街から北へ1kmほどの、謎の墳墓群、『死者の回廊』。

 俺達がこの世界に転移してきた先でもあり、フィアンナの親父さんが亡くなった現場でもあり、たくさんのアンデッドの巣でもある。

 まさか襲われた直後にここに行くなんて普通は考えないだろうから、今回スルカンの手の者に襲われる心配は微塵もしていない。

 ただ、ここは異世界。当然普通の感覚では対応しきれない。

 『幽霊の正体見たり枯れ尾花』

 とかなればいいけど、実際に骸骨出るからな。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……骨は出ちゃうからまずは心を強く持って進むとしよう。

 鼻歌歌ってるピクニック気分の二ムのおかげで、シリアス感は台無しだけどもな。

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