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第二十三話 帰還

「お兄様、予定通りピート様がお城へと入られましたわ」


「そうかよ、ならこれで一安心だな」


 俺がそう言うと、化粧を落としていたシオンとマコの二人がおかしそうに笑い出した。


「いやぁお兄さん、あのピートさんが行ったんだよ? それで本当に安心なの?」


「でもでもでも、ピート君ちょーっと気合入ってたもんね!! あれきっとなんかやらかしちゃうよ?」


「はあ? 何言ってんのお前ら。ただベッドで寝てるだけだぞ? そんなの誰でも出来るだろうが」


 その俺の言葉にやはり同じように化粧を落として着替えを始めていたヴィエッタが、小首をかしげてニムに『誰でも出来る?』とか聞いて、ニムが『無理だとおもいますけどねぇ』とかケラケラ笑っているのだった。

 というか、目の前で着替えるんじゃねえよ!!


「いいったらいいんだよ!! バレたらバレたでそん時はあいつも男だ、なんとかすんだろうよ」


「うっわー、ピートさんお兄さんに見捨てられちゃった感じだ。後で怒るんじゃない?」


「シオンちゃん!! それ多分大丈夫だよ!! だってピート君バネット(ねえ)大好きだもん!! 一晩ヤれば全部忘れちゃうよ!!」


「だよねー、あはははは」


 こいつらこそ『うっわー』だよ。いったいピート君をなんだと思ってるんだ、かわいそうに。

 仕方ねえ、無事に帰ってきたら酒のいっぱいでもごちそうしてやるか。まあ、どうせバネット愛しさにすぐ帰ってきそうではあるんだけれども。


「あ、そうだ。バネットの奴はどうしてる?」


 俺がそう聞けば、すでに着替えを終えたオーユゥーンが荷物の片づけをしつつ俺へと答えた。


「国王陛下のおそばにおいでですわ。どうもかなりお加減がお悪いご様子で、今は横になられているようですので」


「そうか……、そんなに悪いのかよ。さっきはあんなに元気だったのにな」


 俺がそう言えば、すかさずオーユゥーン。


「相当ご無理を為されていたようですわね。一応治癒の魔法は試しましたけれど、まったく効果がないご様子で」


「まあ、しかたないが、このまま寝かせておくわけにもいかねえからな。とりあえず全員着替えたら王様のところにいくぞ」


「はいですわ」


 俺の言葉を合図に、みんなその場で服を脱ぎ散らかしながら、大慌てで着替えを始めた。

 って、だから人の目の前で着替えてんじゃねえよ!!


 こんな風に気楽に会話をしてはいる俺たちは、今例の盗賊組合(シーブズギルド)の地下の部屋にいる。

 そしてつい先ほどまでの変装をようやく今しがた解いたところだった。


 ドムス王女ご一行様に扮していた俺たちは、国王を竜車に乗せた後、変装したままで再びあのアマルカン修道院へと訪れた。

 おっと、この豪華な竜車だが、これは街で借りたただの荷物運搬用の竜車だ。

 だがそんなボロボロの竜車で王女一行なんてとてもじゃないけど名乗れないので、俺が土魔法で金やら銀やら鉄やらを適当に張り付けて、一見超豪華そうな見た目に装飾し、二匹の竜にもユニコーンの角のような飾りのある兜と鈍色の薄い鎧を纏わせて、それこそ『戦車』的なイメージを醸してみたりなんかしたわけで……

 まあ、要するにただの張りぼてだわな。

 その張りぼてに乗って俺たちはアマルカン修道院の巨大な正門をくぐり、その奥の教皇庁へと向かった。

 とはいえ、別にこの建物に用があるわけではなくて、目的地はその更に奥。

 教皇庁の建物の中庭とでも言えば良いのか、巨大な建物によって一周をぐるりと囲われたその内側に存在していた『池』がその目的地であった。

 『聖墳墓』とよばれるこの場所は、神がその身を犠牲にしてこの地を創造したいわば始まりの場所であるとされ、そして神は肉体から解き放たれ真なる神へと昇華された(神教黙示録より)とされているらしい。

 つまり、この言葉を借りれば、この大地全体はもともとは神様の身体で、今空にいる神は魂のようなもの。つまりこの場所がお墓であると。まあ、聖墳墓というくらいだから、ここが神様のお墓であるとみんな信じているということなんだろうけども、そんな仏様みたいな扱いの神様で本当にいいのかね? うーむ。

 実際はノルヴァニア達7人の女神が作ったらしいしな、こういう宗教があるってことは、要は女神の存在を否定した上で人々の関心の目をそらしたいと考えた輩がいるということなのかもしれないな。

 だって、実際いるわけだし、女神を信じる方が楽だ。いるんだから。

 よほど女神が嫌いなのか、あるいは邪魔か……

 おっと、今はどうでも良かったな。

 つまりその神様のお墓であるここで、信徒は禊の儀を執り行うことになるわけで……

 今回は当然王女のふりをしているヴィエッタがその役目だ。

 そしてやることは簡単。

 裸になって、その池の中で祈りをささげること。ただそれだけ。

 正直ヴィエッタは先日アマルカン修道院に来たばかりだから顔バレの心配もあったのだが、あのイケメン枢機卿ヒューリウスは王女ということもあってか、まったく目を合わせようとしなかったらしい。

 というか、後で聞いた話だが、ヒューリウスとヴィエッタ、それと巫女の数人のみでの儀式であったらしく、それだけ近くにいたくせに気が付かないとか、いったいどれだけ鈍感なんだって話だが、まあ、相当化粧もしていたからな、分からなくて当然と言えば当然なのかもな。うん、女はやっぱりすごい。

 あ、俺は当然竜車で待機だ。

 顔バレしてるし、油断すると糞尿塗れのあの連中の悶絶した悲鳴が清廉な教皇庁に響き渡っちまうからな。

 ということで、禊自体はあっというまに終了。

 ヴィエッタもすぐに戻ってきて、後はその場でサヨナラ……

 となるから、俺は急いでピート君の顔を土魔法で国王そっくりに作り変え……というか、粘土で作ったデスマスクなんだが、俺が土を繊維状にして特殊な編み込みを施したから多少は口や目元を動かすことも可能で、一見してそれが土製のマスクだとは気が付かれることはないだろう。それこそ舐めたりでもしない限りは。

 

 ということで、その場に王様のふりをしたピート君を放り出して、俺たちは全員すたこら街を出た。

 出てそして、重装歩兵な盗賊たちを解放してやり、竜車に施した張りぼてを全て落としてUターンしたわけだが、盗賊どもの大半は閉所恐怖症で発狂してやがった。

 おいおい、あんまりおかしな行動をすると目立つからやめろって。

 あんまりにも煩いもんだからその場の全員にむりやり上位治癒(ミ・ハイヒール)。多少効果はあったのか、ぜはぜは言いながら俺を睨んでいるやつもいたな。やめろよお前ら顔怖いんだから。

 どうでもいいんだが、結局俺が魔法で操ってたんだから、中身のこいつらいらなかったな? とかふと思ったが、俺は気にしないことにした。

 とりあえず俺たち先に帰るから、目立たないように散り散りで戻ってこいよと指示だけして、作った鎧とか武器とかは勿体ないので適当に地面に埋めて、こうしてここに戻ってきたというわけだ。


 さて、では王様と正式なご対面と行きましょうかね。

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