第十七話 あなたはいったい何者なんですか?
「ええと……バネットは……もういいや」
「うん!!」
頭を撫でてやると目を細めてごろごろ始めるバネット。どうも相当気持ち良い様だが、奥のピート君の涙がなんだか赤くなっている気がしたので、その辺でやめておいた。
というか、つっこみどころ満載な告白だったわけで、なにお前? 国王陛下と恋人って? それ相当なスキャンダルなんじゃないの!? よくもまあ無事に盗賊だ娼婦だやってられたな!? 俺たちの世界じゃ、すぐにフラ○デーだ、フォ○カスだ、文○砲だで社会的に抹殺必至だってのに!!
それになに? 今日セ○クスしに行ってたの!? じゃなくて、国王死んじゃうの!? ええと、ええと、お前本当になんなの!?
うん、マジで色々ツッコミたいのだけど基本嘘は吐いて無さそうだし、それ以外のことも重要だからそっち優先だ。
そう決めてオルガナを見やれば、彼女はゴクリと唾を飲んで口を開いた。
『あ、え……ええと……その、私は所謂あれです、ごにょごにょ』
「はい?」
もはや消え入りそうなくらいに小声な彼女に声高に聞き返してみれば、またもや真っ赤になってびくんと跳ねた。
こいつまさか、テンパってるのか!?
ったく、ならもういいや。
「あーじゃあ俺が代わりに言ってやる! お前の名前はオルガナ。元女神で、5000年前から世界が滅ばないように、ワルプルギスの魔女の報告をなぞらえる様にこの世界に干渉して、今の状況を整えた。で、いよいよ世界の滅亡が間近になって、世界滅亡の最後の障害、『魔王』の誕生を阻止しようとあっちやこっちやで色々やっていたって感じか? で、今この王都にいるのは魔王を倒すべき存在、『勇者』を探してたとかってとこか……どうだ?」
そう言い切ってやると、オルガナは再び顔を真っ赤にして口をパクパクと開閉してしまっていた。
なんだよ、なにか間違ったかよ? 違うなら違うとさっさと言えよ、話が進まねえから。
だが、オルガナはなにも言わない。ただ、額に指を当てて黙りコクっているだけ。
つまりこれは了解したということでいいよな? と、俺はそう解釈して次へと移行した。
「……でだ。それを踏まえた上でお前に聞きたいことが4つある。
一つ目は死者の回廊にいたマネキンみたいな使徒ってやつのことだ。どうやら7体いるらしいが、いったいあれはなんだ? とりあえずドレイクとかって奴は俺が粉微塵にしておいたけどな。
二つ目は金獣……この世界じゃあ終末の獣だったか? あれがなんでこの世界にいるんだよ? なんとかでき損ないのヘカトンケイルと八首のキング・ヒュドラは始末できたけど、まさかあれがまだたくさんいるとかねえよな?
三つ目だ。そいつらの背後でこそこそやってたべリトルとかいう魔族。あれの正体も教えろよ。精霊体に近い身体だったから、なかなか殺せなかったけど、『族』っていうくらいだから他にもいるんだよな? 本当になんなんだ?
で、四つ目。魔王だよ。そいつがいったい何をどうするっていうんだ? 察するに大量の人間を殺して、どこぞに魔王の国を作ろうとかって筋書きなんだろうけどよ、で、たぶんそれはこのエルタニア王国なんだろうけど、それでいったいどういう筋書きで人間と戦争しようってんだ? その変分かってるならいくらでも対策とれるだろう? 例えば奇襲をしかけて魔王を先にころしちゃうとか、軍勢がいるってんなら、無力化させちゃうとかな。要は全面戦争状態にしなきゃいいわけだろ? なら、経済戦争くらいの規模で収まるように外交を徹底しておいてだな……ん?」
いろいろ聞きたいのをグッと我慢して4つに絞って聞いてやっていたというのに、なぜかオルガナは目をぐるんぐるん回しつつフラフラになっていた。
いや、お前がそんなんでどうするんだよ?
歴史を影から動かす黒幕なんだろう?
だったら俺の質問くらいちゃきちゃきと答えろってんだよ!
「あのあのご主人? そんな国連会議の質疑みたいに重ねてがんがん聞いたって普通はすぐには答えられませんよ? 答弁書だって用意してないですし、これじゃあただの虐めですよ。せめて『ハイかイイエでお答えください』くらいにしておいて、『記憶に御座いません』ってテンプレ発動してもらうがお笑いの鉄則です!!」
「いや、全然お笑い期待してるわけじゃねえんだけど」
まあ、確かに重ねて言いすぎたかもだが、オルガナはふうふうと荒く息をしながらも、なんとか椅子にはしがみつくことが出来ていたようで、がっしと肘掛けをつかみつつ返答した。
「あ、あのっ!! 聞いていただいたのに恐縮なんですけど! あ、あなたは今、『使徒』と『終末の獣』と『魔族べリトル』を倒されたと言ったのですか?」
そう目を血走らせて聞いてきたので当然即答。
「倒したというか、完全に『殺し』たよ。放っておいたら何人死んだかわからなかったしな。まさかてめえもノルヴァニアと同じことをいうつもりか? あの怪物どもを放置して南部の人たちは見捨てるつもりだとか」
「うっ……!」
オルガナは息を飲んで俺たちへと戸惑った様子の視線を送ってきた。そしてその視線を泳がせつつ答えた。
「そ、そうです。その通りです! もはや南部地域は全滅が決定されていたのです……。あの地の人々の命は全て魔族に喰らい尽くされ、そしてあの地にて最強にして最後の魔王、『終焉の魔王』が誕生するはずだったのですから」
そう語りつつ、ぎりりっと唇を噛むオルガナに俺は言った。
「でも、みんな結構生きてるぜ?」
「!?」
俺の言葉にオルガナがピクンと反応する。
「町の連中も、山とかに住んでる連中も。間に合わなくて死んじまったのもたくさんいたけどな、助けられる奴はみんな助けたし、壊された町とかもみんなで今直してる最中だろうよ」
そう、教えてやった。
確かにあのままあの化け物どもを放置していたら、それこそ今オルガナが言った様に間違いなく全滅していたことだろう。そしてそのなんたらの魔王が魔族関係だとしたなら、大量の人間を殺して奪ったマナによって精霊体の身体を強化したりすることも出来そうか……そもそもアルドバルディンの町は、精霊の数も異様に多かったからな。もし、あの精霊たちをも取り込めますよー的な存在なのだとしたら、そりゃあ最強の魔王にもなれるだろうよ。
ま、今のところ大丈夫そうではあるのだけど。
「あのなあ、いまいち信じてねえみてえだけど、間違いなく使徒だとか、魔族だとか、金獣だとかも倒したからな。信じられねえってんなら、あとでノルヴァニアにでも聞いてみろよ。今あいつほぼ俺たちと同行してるから」
「え、ええっ!? の、ノルヴァニアはまだ生きてるのですか? ま、まさかっ!? そ、それに同行してるって……」
いったい何度目の驚愕だよ、目を見開くオルガナだが、お前ノルヴァニアがもう死んだことを前提に話してやがったのかよ! いや、まあ、友達らしいし心配はしてそうだからそれでいいんだけど、女神って死ぬのか? あれか? 魔王は相手の命と力を奪うスキルがあるとかか?よくわからんが、本当に後で対面させてやろう。直接会話が出来ないにしても、ヴィエッタが通訳できるしな。あれ見ているとかなり怪しい感じになるんだけれども。
ひとしきり驚いたオルガナは、ドッスと椅子にもたれ掛かるように沈みこんだ。もう疲労困憊といった具合だ。
そしてポソリと言った。
「信じられません。そんなことがあるわけ……『使徒』を倒す役目は『聖戦士』であったはず……『終末の獣』は『救世主』が……そして魔族……魔族の王、『終焉の魔王』は『勇者』によって滅ぼされるはず……それなのに……」
がくがく震えつつオルガナは俺を見た。いや、なんでそんな目をしてんだよ? 俺なにか悪いことしたかな? ま、まあ、いろいろ殺したりはしてるんだけれども。
そんな風に怯えていたら、彼女の掠れるようあ声がはっきりと耳に届いた。
「あなたはいったい何者なんですか?」
「ご主人は『童貞賢者』っすよ!」
得意満面な顔で、ニムがそう断言した。
っておい!!
もう少しお付き合いください。
次話で物語が動き始めます。