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5.豪華な道連れ?

ジントのことわざに関する知識が間違っているのは仕様です。

ジント異世界暮らし15年目

回想部分は5年目


―――――――――――――――――――――――――


結論(オチ)から先に言っちゃうと、武装集団を引き連れて俺を追いかけて来たのが、現ウルヌス大統領ミゲル・マルコス・シルヴァ氏でした。」


  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「さて、どこから行こうかな?」

 子供達の身を案じるシスターの気持ちはわかるが、寄宿学校で待っててもらうことにした。

 シスター一人(ひとり)が置き去りにされていた状況から鑑みても、テロリスト集団も彼女に危害を加えたその後の厄介さは分かっているらしい。

 この南米大陸のみならず、世界中に信者を抱える宗教の修道女(シスター)は、特別な尊敬をもって扱われる存在だ。

 それでも、絶対に連れて行かない。


 ハッキリ言っちゃうと、神様に対する崇高な思いとか使命感とやらだけでは、武器を持ったならず者集団相手に出来ることはあんまりない。

 いつの間にやら只の手伝いの俺が、成り行きでテロリストに立ち向かうことになってしまったが、しょうがない。

 建物中にいる『生き物の中の水』の反応は、大雑把に大が60前後、小が30前後。

 おそらく小さい方がさらわれた子供達、一か所に纏まっていて移動はしていないから、一室に閉じ込められているのだろう。


「こんな時にトタムやサンナ達の手伝(しえん)いがあれば助かるんだけどな。」

 ないものねだりをしても意味はないんだけど、昔はアイツらと一緒に組んで魔獣の群れや、盗賊団の討伐をよくやったものだ、なかなかちょっとした額の報奨金が出るので、アレは良いカモだった


 まだ向こうの世界にいた頃、俺たちの村を支配下に入れようと、野盗が襲撃してきたことがちょくちょくあった。

 俺たちの住んでいた浮民村(スラム)には、実は街の防壁を挟んで内側の貧民街(スラム)に繋がっている抜け道があった。

 もちろん違法だけど、人頭税は取られるのに市民権の無い俺たちの街の出入りには金がかかる。

 一人が街へ入るのに銅貨五枚も取られる、街中の屋台だと串焼き肉二本分だけど、浮民村(おれたち)の家族八人の一日分の食費になる。

 俺が働いていた市場は、市民用の通用門とでも言うべき東門を挟んで内と外両方に無秩序に広がっていて、そこだけはお目こぼしもあったけど。

 食べ物以外を遠くの街から苦労して買い付けて来た時は、入街税より門番共にピンハネされる額がデカかった。

 もちろん荷車で持ち込む程の量の品物に対する、こちらで言う関税に該当する(あたる)物はちゃんと領主様に納めている。

 浮かせていたのは、壁内の中で露店商売をする時の売り子連中の分さ、運び込む時と背後で目を光らせるのはゴツイ男手が必要だが、売り子をさせるなら当然、男女共に愛想の良さげな子達が良いからね。

 まあついでに、ちょっとした小さいアクセサリーとか、塗り薬の入った二枚貝の容器も持たせたりするけど。


 街で暮らせない浮民村(スラム)の連中でも、盗み殺しがやりたい放題ってわけじゃない、長老(としより)や男衆が目を光らせて、それなりに秩序が守られていた。

 それでも結局村の中でも詐欺やら盗みやらをヤラカシて、浮民村(スラム)すら追われた奴らが更に野盗に堕ちて、情報が漏れてしまう。

 そんな裏事情(ぬけあな)を考えれば、野盗の集団が攻めて来ても、街の衛士に助けを求める訳にはいかない、呼んでも来ないけど。

 向こうでは盗賊団とか職業暗殺者は、反撃して結果として殺してしまっても罪に問われない。


(ただし相手が貴族の場合は除く、どんなに相手に非が有っても、面白半分で狩りの獲物として射られても、反撃なんて無礼はもってのほか、正しいのはいつでも貴族、世知辛い話しだけれど、出来ることはひたすら逃げるだけ。)


 助けには来てくれなくても、街の衛士達も壁上の通路から、あからさまに武器を振りかざして押し寄せて来る盗賊団(バカども)の動きを確認している、付け火による延焼とか街に被害の及ぶ余程の事が無い限り、討っ手出た時の衛士の損耗と秤にかけて、大概は黙って見ている、その代わり反撃する俺達の身の潔白は証明される訳だ。

 自分達でヤッちゃえば、口封じ出来る上に報奨金も入る、アレはホントに良いカモだった。


 ☆ ☆


 こちらの世界には俺の故郷に無かったモノがいろいろと有る。


 今どうにかしなきゃいけないのはアジトの外を見張っている監視カメラだ。

 一部の賄賂を受け取っている役人を別にすれば、奴らだって政府軍から一応は(?)逃げ隠れしている反政府ゲリラだ、倉庫っぽい建物を含めて大小四棟のアジトは、鬱蒼とした森の中で見通しは良くない。


日本人(この)高村浩輔()世間体(がいぶん)』を守る為に、自前の銃器は流石に外国とは言え購入していないが、あちこちで各国のボランティア団体と一緒に作業をして、その護衛チームから大っぴらには言えない事もあれやこれや教えて貰った。

 奴らの武器を奪って、などと都合の良い皮算用は勿論考えて無い。


 準備はしている。

 藪を払うとか(ワニ)を仕留めるとか、ちゃんと普段は実用に使っているサバイバルナイフと(ナタ)

 二つ折りにした革に偽装でファスナーを付けて、肩掛けバッグですと言い張っている投石紐。

 武器の主力が剣や弓から、銃や爆発物になっているこの世界だからこそ、出し抜く隙は実はある。


 まあ後は見せられないイロイロ、俺はあくまで一般的な日本人(平和ボケ)観光客。


 ☆ ☆


 逆にこちらの世界には無いものが、俺には使える。


「ここから見えてる4箇所だけで良い、よろしく頼むよ。」

 泥と水で作ったスライムっぽいモノを、何となく激励して送り出す。

 ホントに生きてる訳じゃなし、実際には俺の魔力で操作している『モドキ』だけど気分の問題だ。

 外部から電気を引いているなら、送電線を切ってしまえば手っ取り早いけど、そんなもの(送電線)はない。

 この国全体が普通に送電網(インフラ)が整備されていない。


 敷地内の(トラップ)もせっかく機械式なのに監視機能が建物内に繋がっていないし、対人地雷も原始的(あからさま)な鳴子を()けて進んだ(誘導される)先に設置されていない、爆発した痕跡がそのままなのは侵入者を威嚇してるのか何なのか?


 なんか中途半端(チグハグ)なんだよね。


 ウネウネ進んで建物に辿り着いたスライム君が、カメラの真下で四分の一づつ身体をちぎって、壁を這い上がる。

 四匹(?)全部がカメラを包み込んだところで、水分を抜いて剥がれ落ちないよう(ほど)()く粘りを増す。


「ふうっ」

 攻撃魔法に比べれば大したことじゃない筈の事が、魔素の少ないこちらの世界では大仕事だ。

 遠距離攻撃は当たる前に途中で魔力が霧散してしまう。

 あくまでも体感に過ぎないけど、元の世界と比較して魔素は三千倍から場所によっては一万倍くらい希薄な気がする。

 それを必死に掻き集めて搔き集めて・・・蓄えた魔素を、寝ていても体内から逃がさないようにするのに、3年はかかった。

 他の魔獣や使い手と()りあいにならずに、この地球上で(ただ)一人俺だけが、魔素を独占し放題とか言うと、凄そうに聞こえるけどネ。

 自慢を聞いてくれる相手もいない。

 向こうだと魔獣を仕留めると、その瞬間体内に蓄えられた魔力が放出されて獲得できるから、どっちがマシとも言えないな。

 チョモランマで上の方まで手伝(ボランティア)いに登った時は、加護のお陰で空気(さんそ)が薄くても、ボンベ無しで苦労した事が無かったけど、高地トレーニングってこんな感じなんだろうか?

 魔法はあくまで奥の手、魔素を蓄える魔石(ボンベ)そのものがこっちの世界では手に入らないしね。


 ☆ ☆


 さて、じゃあ行くか、モニターの前に居る奴が真面目に仕事をしているなら、すぐに反応が・・・無いな?


「なんだアレは?日本製品は面白いな」

 ポンッ

 肩を叩かれた。



  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「アジトまで行くには行ったんですけど、『素人は引っ込んでいろ』って、後は全部お任せしちゃいました。」

「いい年をしたオッサンが『しちゃいました』とか言ってるんじゃない!」

 イラッと来たらしい、再び薫子に締め上げられた。

 なんだか二人に、よそでやってくれと言わんばかりに生温かく見守られている。


 もちろん本当は、全部お任せなんてできる筈もなかった。

 子供達の事を、俺が、シスターに責任持って請け負ったんだ。

 しっかり戦力として参加致しました。


  ☆ ☆


 振り向いた瞬間に、真っ向から対立したらいけない相手だと分かった。

 昔からこういう勘働きだけで、生き延びて来た自信はある。

 多少は腕っぷしが立つつもりではいたが、うぬぼれちゃいけない、所詮(しょせん)自分は街のチンピラより、少しマシ程度なレベルと自戒しよう。

 冷や汗ダラダラ垂らしながら、頭の中で絶賛一人高速反省会中。アンド、若干混乱。

 コーワイ コーワイ


 魔法の行使に集中していたとは言え、真後ろに人が来たのを察知出来なかった。

 ありえない大失態だったが、そのまま反射的に相手の(くび)にナイフを突きつけるのは、急ブレーキで思い止まった。


 この人と面識あるよ、俺。


「手慣れているな?素人とは思えない」

 既に抜いちゃったナイフの構えに、目前の男が目を細める。

「あっっ、えっと、ホセさん?」

 俺が味に惚れ込んで、無理を言って働かせてもらっている、食堂の旦那さんだ。

 正確には食堂の経営は奥さんがやっていて、この人は一度しか見ていない。

 てっきり母子家庭かと失礼な事を考えていたけど、向こうは向こうで押し掛けで働き始めた俺の事を、間男みたいな疑いを持っていたらしい。


 大丈夫です、惚れ込んだのは、奥さんじゃなくて『料理』です。

 和食も悪くないけど、この国の料理は俺の個人的に最高です、特に貴方の奥さんの料理は、隣り近所の人達が国で一番って太鼓判を押す位に最高です。

 修行して、俺はこの味を極めて見せます。


  ☆ ☆


「料理の事だけ熱く語るな!」

 薫子さんに怒られた

(だって、小山さんと佐々村さんがいる手前、異世界人だの魔法のことだの、自作の武器の事とかなんて、さし障りが山盛りあるでしょう?

 ヤバい事を省いていくと、話せる事はあんまり無いんですよ。)

 と、視線で訴えてみたけど、更なるお怒りをかっただけだった。

「この時点では、彼は俺にも偽名を使っていたんですけど、ミゲル・マルコス・シルヴァ氏は父親の代から独裁政権と戦っている、由緒正しい(?)反政府ゲリラのリーダーでした。

 政府の秘密警察への偽装対策(目眩まし)で、周囲にも表向きは奥さんと離婚した事になっていたそうです。

 俺も疑われていたのは、浮気じゃなくて政府側のスパイじゃないかって疑いだったそうで、わざわざ見定めに来てたそうです。」

「浮気だどうだと、暢気な事を言ってる場合か!その店が反政府ゲリラの隠れ家として政府側に'も'マークされていたんだろうがっ!そんな所に自分から押し掛けて三ヶ月も働いてたのか!」

「で、でもっ、そのお陰でっ、国内のマフィア(屑共)と孤児達の事を観光客(よそ者)の俺だけに任せておけないって、駆けつけてくれた訳ですし。」


  ☆ ☆


 この国の警察と軍隊が全く()てにならない連中なので、自分達は自警団のような物だと、追いかけて来てくれた彼らは言った。

(後から考えれば、あながち嘘は言っていない。)


 声が聞こえた、と嘘をついて子供達の閉じ込められている場所を説明する。

「どうせですから、俺が表にまわって連中の注意を()きます、その隙に子供達を救出してください。」


 ・・・天使が通りました・・・


「正気か、日本人(ハポネス)

 ホセさんに物凄い冷ややかな声で言われた、


「たった今、ホセさんが『後は任せて帰れ』と言ったのを、聞いて無かったのか?」

「この国の子供達の事は、同国人の俺達が何とかするべき事だ」

 背後の男達も睨んでいる、まあ当然だろう。

「無謀で無責任な観光客の無分別な行動を、わざわざ俺達が止めに来てやったのに、まだ自分の命の危険が分ってないのか?日本人(ハポネス)


 言葉を(もうめっちゃ)尽くして(ボロクソに)諭されました(罵られた)


 俺も根拠無く無謀な提案をしている訳ではない、

 根拠の一つに、俺が日本人であること。

 連中がシスターだけは置き去りにしていったように、俺の存在は誘拐の対象にはしても、殺してしまえば面倒事が発生する。

 嫌な話だけれど、この国の一般人と外国人の俺では、殺した後の警察及び軍隊の'本気度'が違う。

 日本国や、北米に有る大国から抗議と外圧がかかって来るからだ。


 根拠のその二は彼らに説明出来ない。

 俺はどこの国に行っても言葉に困らない加護がある。

 俺の世話をしてくれた兼本さんちの隆之君は、お約束だーとか言語補正スキルとか言って(何故か)喜んでいたけれど。

 これはつまり精神魔法の一種だ、言葉が通じるだけでなくて、俺はどこの国に行っても親近感を持たれやすい。

 杉本の爺ちゃんが、孫にとり憑いた得体の知れない俺を、普通だったら相当気味の悪いことなのに、あっさりと受け入れたのはこのせいだったりする。

 まあ、当時の爺ちゃんが押しつぶされそうな程デカい問題(悩み)を抱えていて、結果論だけど俺のお陰でそれが無くなったのもあるけれど、疑問に思う思考の働きが阻害されていたのだと思う。

 それは兼本社長や夜間中学の教諭達も同様で、当時を思い返せば自分で言うのもなんだけど、毎日でも不審者として通報されても不思議じゃなかった。

 コチラに来たばかりの頃は、自分の意思で使いこなせていなかったので、スキルと言うより『体質』に近いモノだったけれど。

 最近は魔力を注いで増幅(ブースト)出来るようになったので、かなり閉鎖的な団体相手にでも、昔からの知己の様に不自然な程グイグイ入って行ける。

 ぶっちゃけ、一時的な錯覚なんだけれど、今目の前に居る彼らにも、()()効き始めているしね。


 ☆ ☆ ☆


「今回来日して、俺に会いたいと言うのはたぶんですけど、その料理の事です。」

 見れば小山も憮然としている。


「大統領がわざわざ呼んで?」

「彼が大統領だから、なんか話しが大きくなっちゃったんですけど、

 俺に用があるのは、本人ではなくてその長女のマリア・アドリアナさんです。結婚するらしいです、彼女。」

 相手も知っているし、けしかけたのも実は自分である。

 既に十年も前の出来事で、当時は彼女達も普通の(?)一般人(笑)だったのに、今頃になって戻って来るとは・・・


「おめでたい事ではあるんですがね」

 佐々村も苦笑している。


「三年位前かな?新政権が独裁者を打倒するのと、前後して彼の奥さん、マリア・ベアトリス夫人が、ガンで亡くなった筈です。

 あそこら辺のどこの国でもそうですけど、女の子がお嫁入りの時は母親から受け継いだレシピを持って行くものなんですが・・・アドリアナは料理を習ってる暇が無かったんです。」

 父親の部下の一人として、女の肩に銃火器背負って国内を走り回っていたのだ。

「当時は下の男兄弟はまだ小さくて、長女のアドリアナだけがミゲルさんと(反政府ゲリラの作戦)行動を共にしていたそうなんですが、そのせいで国一番の料理名人と言われた奥さんの『味』を受け継ぐ事が出来なくてですね、何故かその『味』を引き継いじゃったのが俺だったんですよネ。」


「男が『よネ』とか言うな!」


  ☆ ☆ ☆


 実際に調理のできる設備の有る場所が必要だろう、と言う事になり。

 警備計画の面からも、()ずは候補地を探して、仮にでも押さえてから後日連絡すると、その日の話し合いは終了した。


「おい、まさかと思うが、(くだん)の独裁者が死んだのに、お前が何か関わっていないだろうな?」

「何を疑っているんですか?その頃は俺、北欧に居たでしょ?アリバイが有りますって。

 いくら友人だからって、殺人迄請け負いませんよ。やれば出来ても。」

 二人が話しているのは、薫子が『夢告げ(神託)』を受けるきっかけになった出来事だ。


「薫子さんが襲われていたから助けに入ったのに、あのハイエナ(本物)の解剖までするんだもんな~」

 緊急事態でやむを得なかったとは言え、心房の内側から力業で筋肉壁を血液中の水分で切り裂いたものだから、痕跡がハッキリ残ってしまった。


「すまない、恩知らずな発言だった。」

「わかってくれるなら良いんです。」








 だが、無双なんて現実世界にいたら迷惑だ。

天使が云々が・・・ね?( ´∀` )い

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