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「どうして…どうして私の名前を知っているの?」

それは、息が漏れただけのようで、私の声のようには、聞こえなかった。


私のその声をどう思って聞いたのか、男の手はポンポンと二度ほど叩くと…

「悪いが…その前に恋人の話を聞きたい。」


「で、でも…」


「あんたの恋人が…まだ人間か確かめておきたいんだ。頼む。」


「……あぁ、い、いや…あぁ…」


【まだ人間か確かめておきたいんだ。】

それは私に、言葉より悲鳴を上げさせようとした。だが、突然、口を押さえられ、アンバーの瞳が…力強く言った。


「悪かった。こんな言い方をすれば、そりゃ悲鳴のひとつは出るようなぁ。だが…あいつが力を得たのか、知りたいんだ。……手を離しても…もう大丈夫か?」


頷くしかなかった…


*****


6年前、大学で入ったサークルは、どこにもある映画研究会と言う名の飲みサークルだった。


サークルに入る前は、映画も、お酒も、それほど私の中では興味を占める割合は大きくはなかったが、それなのに、なぜこのサークルに入ったのかというと、当時サークルの代表だった3年の篠宮先輩…こと、篠宮 真二がいたからだ……ひとめぼれだった。


篠宮先輩に憧れて入ったサークルだったが、同じサークルでも話す機会はなく、たまに話しかけてもらうと、その日一日、ドキドキするこの胸のときめきに酔い、ただ好きな人がいるということだけで、毎日が楽しくて、堪らない日々だった。邪まな気持ちで入ったサークルだったが、先輩に憧れるメンバーと先輩の話をする事で、繋がりは広がり、そして太くなって、いつのまにかサークルは私にとって、先輩の話で盛り上がる、居心地の良い場所になっていった、だが、先輩が卒業してから、先輩に憧れるメンバーとの話題は、徐々に変わってゆき、気が付けば、話題は憧れだった先輩の話から、身近な男性の話題と変わっていって、みんながだんだんと遠くなっていって気が付いた。自分がおかしな事に…


それは先輩が卒業して2年経った頃だった。


憧れていたと言っても、遠くから見ていただけの人を、それも、先輩が卒業して以来、会うこともなく、繋がりは切れたという状態なのに、いつまでも忘れる事が出来ない。いや…年々思いは募っていく自分が恐かった。普通ではない…執念のように、先輩を追い続ける自分の心が恐ろしくて、いろんな人とお付き合いをしたが、それでも私は……忘れる事はできなかった。


どうして、こんなに篠宮 真二に惹かれるのか、自分でも説明できない、恋だからだと友人は言うが、それほど親しく話す事もなかったのに、篠宮先輩が卒業して数年経って、先輩の話を聞く事もなくなったのに…私の気持ちはあのまま変わらずにある。


先輩が卒業して6年、私は25になろうとしていた。


周りの友人たちがひとり、またひとりと結婚していく中、このまま会うことも叶わない相手を、思い続けるのが、だんだん虚しくて、そして恐ろしくて、私は、親戚から勧められるがまま、綺麗に製本された写真を手にしていた。


そこまで決心した4カ月前・・そんな考えを一枚の葉書が、私の心を動かそうとした。


サークルの同窓会のお誘い…

そして主催は……あの篠宮先輩


恋心が、また熱を持ったような気がしたが、何年も虚しい日々を送っていた心は、冷静に、同窓会に行ったとしても、話せるかどうかわからない。話せたとしても、それがどうなるわけでもないと…言って、熱をまた持とうとした心に、溜め息という水を掛け消そうとしたが、だが…それを消させないと、誰かが仕組んだかのように、葉書を貰ってすぐの電話がまた…火を熾していった。


「…戸田さん?覚えてるかなぁ。君が一年の時、3年だった篠宮なんだけど…」


(これじゃぁ…諦められない。)

と心の中で呟き、篠宮先輩からの電話に応えながら、一瞬…脳裏に自分が蜘蛛の糸にグルグルに撒かれた蝶のように見えていた。


*****


あの者は、私の求める方が、ずいぶん前からこんなに側にいらっしゃったと言うのに、餌の分際


で、私の大切な方を見過ごし、己の欲望の為に他の女にうつつを抜かしおって…


あの餌、いずれは…どこぞの妖に、食わせてやろう。


その前に…まずは…あの方を私の元へ…あぁ、早くお会いしたい。


時を渡り、失った力はまだ戻らぬが…必ずや、人の形を取り戻す。


それまで…待っていてくだされ。


この平成の世で、結ばれましょう。





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