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辛く、そして切ない思いで、夜毎、枕を濡らすあなた。
不安で、愛する人を疑ってしまうあなた。
お任せください。あなたの恋の悩み…解決いたします。 安倍探偵事務所
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Webサイトで、この謳い文句と、堅実そうに見えた事務所名で選んだ安倍探偵事務所。
だが……
これ一本で、つるりたまご肌!乾燥肌とバイバイ~!
運動苦手?大丈夫!このサプリさえ飲めば、一ヶ月になんと9キロ減!!
前に…こんな謳い文句で、失敗した事を思い出し…
私は、福岡市東区のJR香椎駅近くにあるビルの2階で、現在固まっている。
ゴクンと唾を飲み、え、えっと…探偵事務所の建物がおしゃれだから良いってもんじゃない!
そう、そうよ、ドラマの見すぎだわ。探偵事務所がガラス張りで、まるでカフェ?なんて事のほうがおかしいんだ。質実剛健!これよ。(中身が充実して飾り気がなく、心身ともに強くたくましいさま)と四文字熟語にも書いてあったわ。探偵事務所は…探偵さんはこれよ。
例え…ドアが少し、ほんの少し傾いていても、探偵の腕には支障はないはず!ないはず…ないはず…
そう、ないはずだと……思う。
ま、迷ってる時間はないわ…ここまできたんだもの。女は度胸!!
コン・・コン・・
と叩いて入った探偵事務所は、13畳ほどの広さで、小さなテーブルと破けた黒いビニールのソファ、そして奥には、デスク、チェスト、ラックのパソコンデスク 3点セットがあり、そのデスクの上に座る、上下真っ黒なスーツの男性一人。
デスクは私の腰ぐらいあるから、高さが80cmぐらいあるだろうが、そこに腰かけても足が届いていた。背も高そうだが…どうやら足も長いみたいだ。
いや・・そうじゃない!わ、若い…10代後半?いや、まさか20代前半だろうか?
いやいや…そうじゃない。日本人?
だって髪は栗色で、瞳はアンバーだ……その眼と視線があった。
だけど…何にも言わないよ、この人。
何か言ってよと訴えるように見つめたけど…沈黙。
まさか…日本語が出来ないとか…
ふぅ~と息を吐き、頑張れ!英検3級…
「えっくす、きゅーず みぃー」
プッと笑うとそいつは
「いらっしゃいませ」と……のたまった。
な、なによ。あの笑いは…人を小馬鹿にして、こっちは客だよ。ここはビシッと…
「あ…あの…ここのホームページを見て、やってきたのですが。こちらで良いでしょうか?」
「…ホームページ?」
「えっと…恋の悩みを解決してくださる…と」
「あぁ…あれか…」
です!…ます!ぐらい使えよ。こっちは客よ。なんなのよ…こいつ!
ほんのちょっといい男に見えたけど…ダメだ……こいつじゃ話にならない。
「あの…そう、そうだ。この広告を書かれた方に…」
「多分…俺。」
「…多分?って…どういう意味…?」
あっけに取られた私に…満面の笑みを浮かべ
「俺がこの探偵事務所の所長。ご依頼……ありがとうございます。」と言って差し出された名刺には、
安倍 清明(探偵、陰陽師)
・・・・・・・・・今回も謳い文句に失敗したような気がする。