銃口の方向
リーダーを追い、倉庫へと足を踏み入れる。倉庫の中は、鉄臭いような油くさいような、鼻につくにおいが充満している、
「うわ、暗い」
部屋の壁に手をつきながら呟く。倉庫の中には灯りはなく、奥の方は真っ暗だ。
「クソ、見えねぇ」
「悪いな、火が使えないんだ。引火したら大惨事だからな」
物騒な事を言う。もしかして、油でも置いてあるんだろうか。においの正体を確かめようにも、暗くて全くわからない。
「あぁ、そう言えば」
そう言うと俺は持っていたスマホを点け、ライト機能を作動させる。電波は相変わらず通じないが、ライトだけなら普通に使える。
出かける前に充電してきたから、バッテリーはほぼ満タンだった。
「なんだそれは?」
「え、スマホのライトだけど」
リーダーは俺のスマホを物珍しそうに見つめてくる。なぜだろう、別に何の変哲もない白のスマートフォンなのに。
「……まさか!」
そこでようやく気づく。この世界には、スマホがない。いや、それどころか電気が無かった。灯りは火を使ったランプだ。
「不思議な物を持ってるんだな」
「まぁ、な」
元の世界との違いに驚きながら、俺はもう一度スマホの画面を見る。
タッチパネルの仄かな灯りが、元の世界との微かな繋がりを感じることが出来た。
本当に、異世界に来てしまったと言う実感が少しだけ強くなる。
「…………」
「どうした? 気分でも悪いのか?」
「あーいや、何でもない。ちょいと考え事してた」
「そうか。すまんが、ちょっとそいつを貸してくれ」
「はいよ」
リーダーにスマホを預ける。リーダーはそれで棚の様なものを照らし、何かを探し始めた。
棚の中はここからでは見えないが、何かガチャガチャと金属がぶつかり合うような音が聞こえる。
「ったくクローズめ……もっとちゃんと入れろよ……」
ぶつぶつと文句を言いながら、リーダーは棚の引き出しを次々と開けていく。
ある引き出しはゴロゴロと何かが転がる音、ある引き出しは何か小さな物が散らばる音がした。どうやら、なかなか目当てのものは見つからないらしい。
「あー、リーダー? 大丈夫か?」
「多分な」
「多分かよ」
「そう焦るな……お、あったぞ」
何かゴチャゴチャしたモノの中から引っ張り出した『それ』を、リーダーは俺に投げて寄越す。
「うわっとと。なんだこれ……?」
慌ててキャッチした『それ』をペタペタと触る。暗くてよく見えないが、ひんやりとした感触から何か金属の塊である事は分かった。
「コイツも返すぞ」
「お、すまん。サンキュー」
片方の手で『それ』を持ちながら、もう片方の手でスマホを持ち、『それ』を照らし出す。
光を受け、黒光りしている『それ』は、とても重い威圧感を放っていた。
「なんだよ……これ……」
『それ』の正体を理解した俺は、その非現実的な光景に思わず呆然とする。
──リボルバー、そう言ってすぐに思いつくようなあのデザイン。
表面は黒くメッキ加工されており、より一層重厚感がある。シリンダーの穴は6つ。穴の状態からするにまだ新品同然の様だ。
「今のところ、あるのはそいつ1丁だ。お前にやるから、壊すなよ?」
「こいつを……俺に……?」
理解が追いつかない。なんで俺は、こんな物を貰う必要があるのだろうか。
一体何に使うのだろう。
「なぁ、この銃ってリーダー達の『仕事』と関係あるのか?」
「関係あるも、そいつは大事な商売道具だ。そいつがなきゃ、俺達は何も出来ない」
「……あぁ」
理解した。先程、リーダーがやっていた事を思い出す。ちくしょう、なんでこんな世界に転生してしまったんだよ。
自分の運命に恨み言を吐き捨てる。どういう事かって言うと、つまり──
「この銃で、人を殺せって言う事だろ?」
「あぁ、そうだ。そいつで、キュベレーの奴らと戦うんだ」
それを聞いた途端、元の世界には無い何かが、俺の体に入り込んできたような錯覚に陥った。