愚者に花束を
「なになに! 新メンバー?!」
俺達の会話を聞いてたのか、店の中からクローズが飛び出してきた。
「お前がいると話がややこしくなるから戻ってろ」
「はーい」
リーダーはしっしとクローズを店の中へと追い返す。クローズはしぶしぶと戻っていったが、多分また盗み聞きしてるだろう。
そんな事よりも──
「俺がアンタ達ホーネットに入るって言ったか?」
「あぁ、そうだ。行く宛も無さそうだし、ラウジカに知り合いもいないんだろ?」
「いないな。と言うかこの世界だとどこにも知り合いはいない」
「この世界?」
「いや、何でもないんだ。実際、知り合いはいねー」
「だろうな」
元々知り合いは少ない。親戚はいないし、親だって───
「…………」
「どうした?」
「あぁ! いや、なんでもねーよ。それより、知り合いがいたらどうだったんだ?」
心にある『傷跡』から目を背ける。まだ、心の整理はついていない。それよりも今は目の前の事について決めなければ。
「よく考えてみろ。素性不明の奴を素直に受け入れる人間なんていない。いたとしたらそいつは命知らずの馬鹿だ」
「そいつは……まぁ……なんというかな……」
言葉に詰まる。実際いきなり知らない人を住ませろ、なんて言われても素直に聞けないだろう。
「だから、俺達ホーネットはそいつに居場所を提供する。んで、代わりにそいつには俺達の仕事をやってもらうって訳だ」
「へー、まぁあれか。素性不明でも雇う怪しい職場みたいな感じか。ブラックか」
「いや、そこまで酷くはない。飯は出るし、一応給料だって出るぞ。それに、あの店にならいつでも入っていい」
リーダーは自分の職場を馬鹿にされた事に腹を立てたのか、少しムッとしながら言い返す。
俺はそんなリーダーを見て、見た目よりも感情豊かなのかもしれないと思った。
「どうする?」
リーダーは強制はしない、と俺に選ぶ余地を与えてくれた。
正直、俺1人でこの世界で生き延びるのは無理に近い。戦いが勃発し、人は少なく、元の世界への帰り方もわからない。しかも異世界転生にありがちなチート能力もない。
この状況なら、選ぶのはもう決まっている。
「……本当にいいのか。怪しい奴等だぞ」
「でも、悪いヤツらじゃない。それはさっきのでもうわかった」
「危険かもしれないぞ」
「この状況なら、どこだって危険だろ。右も左もわかんねぇ、下手したら迷って野垂れ死にだ」
「…………?」
「…………!」
自分自身と話し合う。ホーネットへの参加に賛成と反対の俺だ。どちらが普段の俺かは俺自身もわからない。だが、その問答は賛成へと傾いている。
「とりあえずこの世界を知りたい。それに、みすみす死ぬなら生き延びた方がいいこともありそうだしな」
心の天秤はどうやら測り終えたようだ。俺はリーダーの目を見て、口を開くと──
「わかった。ホーネットに入らせてもらう。これから頼むよ、リーダー」
そう、しっかりと言い切った。