異世界より愛をこめて
「『ホーネット』? それって……」
「あぁ、俺達の呼び名だ。ラウジカではサークルの戦火から逃れてきた人達がいる。その人達のまとめ役みたいな感じの組織だ」
「なるほど」
つまりラウジカの人々がホーネットではなく、ラウジカの人々の中にホーネットのメンバーがいるという事か。
という事はルゲルカも同じ感じだろう。
「ん? て事は普通に人はいるのか。てっきり誰もいないと」
「当たり前だ。サークルに住むなんて命知らず、お前ぐらいだ」
「いや、住んでたわけじゃ……」
「まぁいい。これで一通りこの辺りの情勢は説明した」
「え、終わり?」
「なんだ、まだ他にあるのか?」
「うーむ……」
この世界の情勢は分かった。しかし、まだ剣も魔法も話に出ていない。
異世界転生と言ったら剣と魔法。そして転生した者に与えられるチート能力。
だっていうのに、全くその内容が出てこない。もしかすると当たり前過ぎて説明しなかったのだろうか。
「なぁリーダー。あんた達はどうやって戦ってるんだ?」
「ん? 銃に決まってるだろ。まさかお前、素手で戦うのか?」
「いや、そうじゃなくてさ。あるだろ、魔法とか超能力とかさ」
「はは、面白い冗談だな。そんなもんあったらさぞ便利だろうな」
リーダーは愉快そうに笑う。だが、一方の俺は笑える状況ではない。
魔法が無い? 武器は銃?
そういえばリーダーも、何の変哲もない普通の銃を使っていた。
「……」
「どうした沙雅、顔色が悪いぞ。気分でも悪いのか?」
「いや、大丈夫……多分」
頭が痛い。背中から冷や汗が出てくる。
どうしよう、チートなしで異世界転生とか死ぬしかない。しかも、街中では戦いが起きている。
「これからどうやって生きていけばいいんだ……」
発狂したくなる気持ちを抑え、空を見上げる。空には赤い宝石の様な円─おそらく元いた世界での太陽のような物─が昇っており、ここが元いた世界ではないという現実を突き付けられる。
ちくしょう、こうなったらいっそのこと死ぬか──
「なぁ、沙雅。お前、行く先はあるのか?」
絶望に浸っていると、リーダーがそんな事を質問してきた。
「行くあてもないし、このままだと野垂れ死にだ。てか、どうあがいても死ぬしかなさそうだ……ははは……」
俺は自嘲する。あまりにも絶望的な状況すぎて、逆に諦めがついたような気持ちだ。
「ちくしょう、短い人生だった……」
「おい、何勝手に諦めてやがる。俺の話を聞け」
「なんだ? いい死に場所でも教えてくれるのか?」
「違う。───お前、ホーネットに入れ。ただ死ぬよりはマシに生きれる」
「……は?」
それは、絶望的な状況に射した光のような提案だった。