異世界に囚われた男
──思考が凍結する。
何を言ってるんだリーダーは。日本を知らないだと?
「な、なぁ……リーダー、今知らないって言ったか?」
「あぁ、何処にあるか聞いたこともない」
「嘘だろ……?」
「どうして嘘をつく必要がある」
「マジかよ……はは……」
実際、リーダーは嘘をついてる様に見えない。クローズ達も同じように不思議そうな顔で俺を見ている。
それが答えだった。
「なぁ、聞いていいか? ここってなんて場所だ?」
答えなど既に出てしまっている。それでも、頭はまだこの現実を受け入れずに、足掻き続けている。
そんな馬鹿なことなどあるものかと。
「さっきからおかしい事を言うな。ラウジカしかないだろ」
「……やっぱりな」
だが、そんな足掻きはやはり足掻きでしか無く、現実は現実のままだった。
聞いたことも無い場所。もしかしたら、探せば世界にはそんな場所もあるかもしれないけど、そんな場所は歩いて行けるような距離ではない。
ならば、考えられる原因は一つだけ───
「どうやら最近流行りの、異世界転生ってヤツみたいだな」
そう、俺は確信した。
・・・・・・・・・・
「リーダー、話がある」
異世界転生。このご時世、男ならその手の妄想に浸る事は少なくは無いハズだ。
剣や魔法、美少女達とのハーレムや与えられたチート能力。そんな感じの主人公的補正が俺にも何かしらあると思う。そうでなければ、この世界には何の為に来たのかわからない。
それを知るためにも、今は情報が必要だ。
「なら、少し外に出るぞ」
リーダーに連れられ、外に出る。店の外は、相変わらず閑散としていた。
異世界と言えども、風景は元の世界にもあるような風景だ。
「話の前に、こちらから質問していいか?」
リーダーの方から切り出してくる。
「なんだ?」
「お前、もしかして迷子か?」
「……そんな感じっぽい」
「やっぱりな。ここの情勢を知ってちゃ、サークル内をうろうろしてたりはしない」
確信めいた頷きをしながら、リーダーは話を続ける。
「リーダー、俺が話したいのはその事なんだ。俺はちょっとここが分からない。だから、ここの情勢について教えて欲しい」
「そうか、なら順を追って説明してやる」
そう言ってリーダーは店先にあった黒板の様な物に図を書き始めた。黒板の様な物とは、よくメニューなんかが書いてあるアレだ。
書きあがった図は、どうやら地図のようだ。中心の丸い地区を境界に、二つの地域に分かれていた。
「この真ん中の場所が『サークル』だ。先程お前はここにいた」
「はぁ、丸い地区で『サークル』か」
「そうだ。それで、サークルを挟んでこちら側にあるのが俺達のいる『ラウジカ』」
リーダーは円から左側を指指す。どうやらこの世界においても、方角と地図の読み方は変わらないらしい。
上を北として右を東、左を西、下を南としている。
「そしてラウジカの反対にある地区、これが奴ら『キュベレー』の地域、『ルゲルカ』だ。ラウジカとルゲルカの通りはこのサークルしか無い」
「他の所は?」
「全て渓谷で分断されている。しかもこの谷、底が知れない。人の手でどうにか出来る様なもんじゃあない」
「成程、つまりサークルってのは唯一の繋がりなんだな」
「そうだ。そしてサークルには様々な資源が有る。広いから、まだ知らない場所もあるだろう」
つまり要約すると、サークルを中心に東西でラウジカとルゲルカと言う地区に分かれていて、壁のせいでサークルからしか行き来出来ない。
そしてサークルは未開拓であり、様々な物資が眠っているという。
「成程、じゃああんた達はキュベレーの奴らとサークルの取り合いをしているのか」
「簡単に言うとすればそうなる。これで、ここら辺の情勢は説明し終わったが」
「あぁ、ありがとう。よく分かった」
「そうか、ならいい。それじゃあ次は俺達『ホーネット』について話そう」