フラッシュバック
「はぁッ⋯⋯はハ、あぁ⋯⋯っ!」
汗だくの体を起こし、なんとか呼吸を整える。大丈夫、ここの空気は吸っても何も無い。胸が弾けそうになるほど吸い込んでは、これでもかと息を吐き出す。そうして暫く深呼吸を繰り返す内に、呼吸はいつもと同じように戻った。
今のは何だ。生きてるだけで死ぬ様な、地獄としか例えようの無い物。合わない焦点の代わりに、その景色はハッキリと焼き付いていた。だがそれも、すぐに霧のように薄れてしまった。
「思い出せない⋯⋯クソ、何なんだ⋯⋯」
いくらあの光景を思い出そうとしても、脳がそれを拒否してしまっている。思い出してはいけないと警鐘を鳴らし、分厚い記憶の海の底に沈めてしまう。
こんな夢は初めてだ。永遠のような時間をかけて焼かれ、理不尽に死ぬ。あれは、本当に地獄としか形容のしようがなかった。なのに、何故。
「知っている⋯⋯俺が⋯⋯。あの地獄は、夢じゃない」
あの苦しみも、痛みも、熱さも、全ては俺が知っている事だ。記憶は無い。だが、この体がそれを証明していた。
置いてきた過去も、霞んだ昔話も、決して無かったことにはならない。零れ落ちてなお、この手の中に残り続ける。
「⋯⋯吐きそ」
とりあえず水を飲んでこみ上げてくる溜飲を抑える。額の汗を拭い、体の調子を確かめる。特に体に異常はない。となれば、あの記憶が見えた原因は精神的な面か。
思えば昨日は色んな事がありすぎた。なにせ環境どころか世界が変わってしまったのだから。
「何かがトリガーで、記憶がフラッシュバックするのか? だとしたら⋯⋯」
だとしたら、どうするべきか。記憶を取り戻した所で、何も変わりやしない。そもそも、無くした記憶が何であれ、もう俺は取り返しがつくとは思えない。やはりここは、元の世界に戻る方法を探すのが優先だ。
リーダーは街を案内すると言っていたが、もしかすると街に手がかりがあるかもしれない。
「まだリーダーは起きてないか。仕方ねえ」
夢のせいで起きてしまったが、まだ寝足りない。俺はもう一度ソファーに横になると、眠気に逆らう事なく眠りに落ちる。
どうか今度こそ、いい夢を見れるように願って。




