地獄篇
熱い。肌が一瞬で炭になりそうな程の熱気が辺り一面に充満している。叫びをあげる喉は既に枯れ、なおも熱気から肺を守るために焼かれ続けている。生きようと必死に呼吸をするも、その呼吸によって死は徐々に俺の背後に迫ってくる。
地獄とはまさにこの事だろう。生きながらにして死にゆく、人が受ける最上の罰。
ふと、何かに躓く。もう炭化して原型も分からない『ソレ』を踏み越えて、必死に何処かへと歩いて行く。死にたくない、その声だけを頼りに。
「⋯⋯⋯⋯!」
「うる、さい⋯⋯」
何かが音を発した。耳障りなその音は、何かを訴えるように繰り返し音を発する。うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい。
耳を塞いだ。目を瞑った。焼け落ちた風景も、耳障りな音も聞こえない。喉が裂けそうな程乾いた。何でもいい、水気のある者が欲しい。
「ぁ⋯⋯」
思わず別の『ソレ』を引きちぎる。蛇口をひねるように捻じると、なんと液体が滴り落ちた。貪るように『ソレ』に喰らいつき、液体を喉に流し込む。味は、舌がイカレれて感じられなかった。
だが、この乾きは潤った。後はまた────
「────」
ノイズが五感を塗りつぶす。嫌だ、死にたくない。その一心で、必死に足を運ぶ。何もわからない。ただ、何故か。
何故か、生きる時間分、死は俺の周りを隙間なく埋め尽くしていった。




