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ジョーカー・ガン  作者: 唄海
1章 撃鉄を起こせ
20/32

暗闇は囁く

「気分はどうだ?」

「⋯⋯あんまし良くねぇ」


 まだガンガンと痛む頭を抑え、少し煤けた天井を睨みつける。


「いやーすまん! まさかお前がここまで酒に弱いとは思わなんだ」

「大丈夫だ。俺自身、こんな弱いとは知らなかった。次から俺は別のものを頼む。うぇ⋯⋯気持ち悪ぃ⋯⋯」

「大丈夫? もう少し寝ていいのよ?」

「すまん、そうさせてもらう⋯⋯」


 ミーヤの膝に頭を預けて、ゆっくりと瞼を閉じる。クセになりそうな程柔らかな膝だ。


「アーガスとクローズは食ってすぐに寝たか⋯⋯平和な奴らだ⋯⋯」


 呆れたようなリーダーの声が聞こえる。その声には、どこか嬉しそうな色が混じっているのを感じた。

 人と食事をするのがこんなに楽しいなんて思ってもみなかった。それどころか、マトモな食事をしたのさえ久しぶりに感じる。


「あぁ⋯⋯⋯⋯」


 暗い部屋で、食べ飽きたインスタント食品を胃にぶち込むだけの食事。だが、そんな生活も既に懐かしくすら感じてしまう。早く帰りたい。帰った所で、俺の居場所なぞ有りもしないのに。


「⋯⋯悪い、散歩してくる」


 思い出しただけで胃の中がごった返しそうになる。たまらず体を起こし、名残惜しさを感じながらもミーヤの膝から離れる。


「付き合うぞ、沙雅」

「別に面白い事はねーぞ?」


 ガチャリと扉を閉め、リーダーの少し前を歩く。さすがに夜風は少し寒い。フードを被ろうと背中に手を伸ばし、そういえば着替えたのだと思い出す。


「なぁ沙雅。上手くやっていけそうか?」

「あ?」


 リーダーの問に、歩みを止めて振り返る。


「さあな。俺は人と長く一緒にいた事がないから、上手くやっていけそうかは分からねーんだ」

「⋯⋯色々とあったんだな、お前も」

「別に。他人に心配されてどうこうなるもんじゃねーよ」


 同情されたのだろうかと思うと、少しだけ不機嫌になってしまう。お前に何がわかるものか。俺自身すら分からないのだからと、悪態の一つでもついてやろうかと考えたが止めた。

 こんな所で当り散らしても、軋轢を生むだけだ。それよりも今は、少しでも元の世界に戻る方法を探さなければ。


「一つ聞きたいんだが、俺みたいに突然ここに来た奴はいるか?」

「いや、こんな事はお前が初めてだ。力になれなくてすまない」

「手がかりは無しか。気にしないでくれリーダー、これは俺だけでも何とかする」

「だがお前は帰りたいんだろ?」

「帰る⋯⋯ね」


 戻ると帰る。似たようだが、その言葉に込められた意味は大きな違いがある。俺は果たして本当に帰りたいのだろうか。考えれば考えるほど、頭痛が思考を邪魔して来る。

 気を紛らわそうと空を見上げると、青色の月が煌々と輝いていた。


「月は有るのか⋯⋯この世界でも」

「ツキ?」

「あのデカイ青丸の事だ」


 空を真っ直ぐに指さす。リーダーはその指先に連れられて真上に視線を向ける。


「月か。お前が居た場所でも、月は見えたんだな」

「そりゃあ見える」

「じゃあ、帰れるさ。きっとな」

「⋯⋯あぁ、そうだな」


 俺の見てる月は違う、そんな事は言わなかった。誰が満面の笑顔の男にそんな野暮な事が言えようか。

 リーダーを見ていて、てっきり俺はもっと冷徹な人物だと勝手に勘違いしていた。だが本当は、仲間と認めた者には敬意を払って接し、決して貶しはしないような人だった。


「気分は落ち着いたか?」

「少しな。相変わらず吐き気がする」

「今日はもう寝た方がいい。明日、街を案内してやる」

「おう、頼むぜ。リーダー」


 明日が楽しみ、そう感じられたのはいつ以来だろうか。初めてにも近い感覚を抱き、少しだけ戸惑う。

 来た道を戻り、俺は戻るべき場所へと戻った。


「あ、リーダー」


 そういえば、大切なことを忘れていた。


「俺、部屋片付けてねぇ」

「あ⋯⋯」


 埃まみれの部屋。あそこで一夜を過ごそうとなれば、呼吸器官の損傷は免れないだろう。


「仕方ねえ、今日は一階のソファーを使ってくれ」

「⋯⋯分かった」


 なんと俺の異世界初の睡眠は、ソファーの上になるようだ。土の上でないだけマシだと自分に言い聞かせて、俺はしぶしぶと毛布を被る。

 瞼を閉じると、闇がゆっくり体を染め上げてゆく。気づいていなかったが、体は相当疲れていたようだ。そのまま俺の意識は、電源を切ったテレビのようにぱったりと落ちた。

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