回る世界
「よし、各自飲み物は持ったな? それじゃあ、新しい仲間の参加を祝って───」
カンパーイ! とフライング気味にクローズが叫ぶのを合図に、後に続いてミーヤ達が乾杯と声を上げる。
グラスのぶつかる音が響き渡り、夏月沙雅の歓迎会は始まった。
「沙雅君、困った事があれば何でも聞いて。教えてあげるから」
「お、おう⋯⋯頼むかも。あと君は要らないから⋯⋯」
優しく微笑むミーヤ。彼女は善意で言ってくれてるのだろうが、いかんせん手に持ったグラスと何でもと言う単語によって色々と魅力的に感じてしまう。ここはそう言ったいかがわしい店では無いし、ミーヤはそういう人では無い。ハズ。
「にしても美味いな。これ」
「そいつはよかった! お前が普段何を食ってるのか分からんかったから何を作ろうか迷ったんだが、気に入ってくれたなら良かったぜ!」
ミーヤの魅力から気を紛らわせようと、せっせと並んだ料理を口に運ぶ。ガルムが作った料理は、作る本人の雰囲気とは打って変わって繊細な味わいと見た目だった。異世界の食事と聞いて少し不安だったが、これならば平気そうだ。
「この肉のヤツなんか最高だ。お世辞とか誇張抜きで、今まで食った料理の中で一番美味ぇ」
「沙雅って、普段何食ってるの⋯⋯」
「おいおいクローズ、俺の料理は実際美味いだろ?!」
「ま、そうだけどさ」
そう言って、クローズはパクパクとピザの様な物を1枚丸ごと平らげる。
「クローズ、お前1枚丸ごとは無いだろ⋯⋯1切れくらい食わせろ」
「獲物は早い者勝ちだって言ったのはリーダーだよー」
「じゃあこの特製パスタはアーガスのだな」
「あー!!」
「美味しい」
いつのまにやらアーガスの前には美味しそうなパスタの皿が置いてあり、それをアーガスは黙々と食べている。相変わらず無表情だが、どことなく幸せそうなオーラを感じる。
「賑やかだな」
「あぁ。良いもんだろ?」
「分かんね。こういうのは初めてだからな」
「お前は本当にどんな生活をしていたんだ⋯⋯」
リーダーが怪訝な顔になる。
「簡単に言うと、人と逆の生活をしてた」
普通である人達が寝る時間に起きて、普通の人達が起きている時間に寝る。そんな生活をもう何年も送ってきていた。学校も進級ギリギリ、下手すればピッタリ程の出席日数しか行ってなかった。
「ふーん⋯⋯」
「興味なさそうだな、クローズ」
「まぁね。だって沙雅、すっげえ変な事言ってんだもん」
「変な事?」
「うん、変な事。なんかまるで、わざと普通じゃないようなことばっかしてる感じなんだもん」
「よく分かんねぇな」
確かに自分からこういう生活にしてしまったのは事実だが、わざとしたなんて自覚は皆無だ。
「まぁいいや。沙雅が変でも、ちゃんもお世話してあげるから」
「男に世話されたって嬉しくねーよ」
「えー」
「下らねぇこと言ってるとそのステーキ食うぞ」
「させるか!」
クローズの前にあった美味しそうなステーキを食おうとフォークを伸ばすと、目にも止まらぬ早さで皿が逃げた。本当に食うつもりは無かったが、クローズは本気でビビったらしい。
「てか沙雅、乾杯したのに飲み物のんでないけど。飲んだら」
「あ」
喉の乾きよりも空腹感が強かったせいか、コップになみなみと注がれた液体はまだ一口も付けられていない。
「ったく、俺が飲んでる内に好きな物キープしとこうって算段か」
「うるせー、はよ飲めってんだよー!」
「はいはい」
「じゃあ俺このチーズソーセージ貰うから」
「はいはい」
いかにも子供が好きそうな物ばかり取っていく。見た目と違わず中身も子供だなと俺は心の中で密かに笑ってやる。
「んじゃ、頂きます」
コップに入った液体を一気に飲み干す。ほのかな果実の香りが漂うその飲み物は、普段飲んでる飲み物とは違った不思議な味わいだった。
「飲み干しておいてなんなんだけど、これ何? お茶にしては甘いし、ジュースにしては苦いし」
「あぁ、酒だ」
「へ?」
「酒。ちょうど良いのを貰ったからな」
「⋯⋯やべぇ」
気づいた時にはもう遅かった。何やら貰った酒について意気揚々と語るガルムの顔がぐにゃりと歪み始める。
「さけは⋯⋯らめらろ⋯⋯」
回らない呂律と、ぐるぐると回る視界。堪らず倒れると、何やら柔らかい感触が頬に当たる。暖かく、優しい柔らかさ。俺はその柔らかさに包まれながらゆっくりと意識を落として行った。




