帰るべき家
外に出ると、雨は止み、雲間からこの世界の太陽が顔を出していた。
「帰るの?」
背後から声がする。振り向くと、あの少女が柔らかな笑みを浮かべながら立っていた。
「あぁ」
「そう。じゃあ、また今度だね」
「また」
再会の約束を交えて、俺は教会を後にする。遅くなってしまった。早く戻ってリーダー達に謝らなければ。
僅かに残った記憶と、勘を頼りに帰路を歩く。
「多分、こっち」
ずんずんと、あちこち割れている石畳の道を歩いて行く。しばらくすると、あの店が見えてきた。
勘という物は馬鹿には出来ない。人間が無意識に溜め込んだ情報、知識、景色。それらを無意識下で演算、予測した結果が勘なのだ。
「あれは⋯⋯」
ふと、扉の前に誰かが立っている。遠目から見ても目立つ銀髪は、リーダーに違いない。もしかしてずっと待っていたのだろうか。
「ん、ちゃんと帰ってきたな」
俺を見るなり、リーダーは安堵の表情を浮べながらそう言った。
「わざわざ待ってたのか」
「主役が来なきゃ、歓迎会は開けんだろう」
「⋯⋯別に、歓迎されるような事はしてねぇ」
「そうか。だが、生憎準備は終わってるからな」
「⋯⋯⋯⋯」
「そう自分を卑下するな。お前が思ってるほど、お前は小さいヤツじゃないさ」
そう言ってリーダーは俺の方へ少しだけ近づく。そして、俺に向かって手を差し出した。
「言っただろ? もうお前は仲間だって。仲間を認めてやるのは、仲間として当然だろ」
「はは⋯⋯仲間か⋯⋯」
仲間。その言葉が、じんわりと俺の心に浸透していく。こんな感覚になったのはいつ以来だろうか。────いや、もしかしたら初めてかもしれない。
そう言えば、あの少女の手を握った時も心に温かさを感じた。
「なぁリーダー。俺、守りたい人がいるんだ。弱そうなクセに、見ず知らずの俺を助けようとしてくれた」
リーダーの手に向かって、俺も手を差し出す。
「だけど俺は、力も知恵も技術も無い。だから、力を貸してくれ。俺も、足を引っ張ら無いように頑張るからさ」
リーダーの目を真っ直ぐに見返して、俺はリーダーの手を取った。がっちりと交わされた手。初めての仲間の温かさは、空っぽだった俺の心には十分過ぎるほど注がれた。
「よし、じゃあ行くか。これ以上待たせると、クローズがつまみ食いと称して料理を平らげちまいそうだからな」
「そいつは困るな」
「だろ?」
互いに笑みを浮かべ、店の扉を開く。なんと言って入ればいいだろう。遅れてごめんと謝るべきだろう。帰ったと報告するべきだろうか。何にせよ、俺はこれからここに帰ってくるのだろう。だとすれば、言う事は決まっている。
「ただいま、皆」
────この日から、この店は俺の帰るべき『家』になった。




