死に至る病
ざあざあと降る雨の中、俺はふらふらと街を彷徨っていた。
申し訳程度にパーカーのフードを被っているが、全身びしょ濡れだ。
「異世界でも雨は降るんだな……」
そんな的外れな事を呟きながら、意味も無くただふらふらと歩き続ける。相変わらず人は1人もいない。
帰り道は、もうわからなくなってきた。あれほど死にたくなかったはずなのに、今はもう何とも思わない。
「馬鹿な話だ。相手の命と自分の命、どっちが大切なのかなんてわかるはずなのに」
分かっている。そんな事、俺だって分かっている。人間、最後には自分の命が一番大事だって。
それなのに、俺は自分より他人の命が大事だった。まだ殺してもいないし、知ってすらいない。それでも、天秤は相手に傾いていた。なぜ、俺はこんなにも他人が大事なのか。
「──ぁう」
ひどく頭が痛む。その理由を思い出そうとすると、何時も何かに阻まれる。
───俺は記憶が欠落している。と言ってもちゃんと昔のことも覚えているし、日常生活に支障はない。問題があるのは、『家族』についてだ。
俺は何かの理由で親が死んでしまい、そのトラウマで家族の記憶が欠落してしまったらしい。そのあたりの記憶はもう全くと言っていいほど無く、後から聞いた様々な情報を繋ぎ合わせた『記録』になっている。
おそらく、その記録には無い記憶に、この天秤のズレの原因がある。
「いつか思い出せる日が来る」
俺の事を引き取ってくれた祖父と祖母はそんな事を言っていたが、俺は未だに全く思い出せない。思い出そうとすると、頭が拒絶する。
「やめよう、もうどうせ無駄だし」
なので結局、こうやって放棄してしまう。
「………ちくしょう」
道端にへたり込む。もう、歩く気力すらわかなかった。だらしなく地面に寝転がり、空を見上げる。
このまま眠りについたら、目覚めること無く終われる気がした。
「結局、何がしたかったんだろう、俺」
何も感じなくなってきた。だるさだけが全身を覆い、俺は目を瞑って───
「大丈夫? 眠いの?」
───天使の様な声にすぐさま起こされた。




