突然の出来事
次の日。
ユウくんがとってくれたクマのぬいぐるみを見て、昨日のことを思い出しては、自然と口元が緩むのを感じていた。
「夏菜ー、宿題しているのー?」
「う、今休憩中……」
「やってないんなら、お皿洗いのお手伝い、やっちゃったら?」
「……はーい、やるよ」
私が夏休みのお手伝いに選んだのは、お皿洗い。
特に理由はないけど、毎日やるって言ったのは正直失敗したなー。
私は自分の部屋から出て、一階のキッチンへ降りて行った。
トゥルルルル……トゥルルルル……
「お母さん電話ー」
「はいはい、分かっているよ」
それからお母さんはしばらく話し込んでいた。
「お母さん、洗い物終わったよ? なんの電話だった?」
振り向いて私をまっすぐに見据えたお母さんの顔は、今まで見たことのないような顔をしていた。驚きの入り混ざった、悲しい顔だった。
しばし迷うような素振りをしてから、お母さんは口を開いた。
「夏菜。落ち着いて、よく聞いて」
えっ、なに? よくないこと……?
後に冷静になってから、このとき私は、洗い物が終わっていてよかったと思った。
もしも途中だったら、私は手に持っていたお皿を落として、大惨事になっていたかもしれないから。
実際に私が手から落としたのは手拭きのタオルだった。
少しの間のあと、意を決したように、お母さんはこう告げたのだ。
「今朝、病院で、有一くんが……亡くなったって」
え?
私は耳を疑った。
しごく当然の反応だろう。
突然私の周りが、私の世界が傾いて、暗闇の中に放り込まれたようだった。
そのあともお母さんは言葉を続けていた気がするが、私にその声は聞こえなかった。
どことも定まらない中空に視線を漂わせ、止まりそうになる思考を必死に働かせた。
だが、どこかで、それよりも分かりたくない気持ちの方が勝っていた。
考えが、自分の思いがまとまらない。
とにかく一人になりたかった。
「夏菜?!」
お母さんの呼ぶ声がしたが、私は構わず二階の自分の部屋に駆け込み、ドアをバタンと閉め、そのままドアの前でうずくまった。自然と涙が溢れていた。
うそ、でしょ?
昨日も、あんなに元気に笑っていたのに?
宿題、一緒にやろうって約束だってしたのに?
またね、って言ったら、うん、と答えていたのに?
……なんで。
何が原因で、どうしてこんなことが起こったのか、私には分からない。
ただ、悲しいということだけを感じていた。
「夏菜……?」
「……」
お母さんがドアの向こうで、優しく話しかけてくれている。
大丈夫だよ、いつもの夏菜だよって振る舞えたら、どんなによかったか。
だけど実際は、何か言葉を発しようとするだけで、すぐにも声が震えそうだった。
こみ上げるものを抑えるので精いっぱいだった。
このときから私は、何をする気力もなくなってしまったようだった。
ドアの前に座り込み、ベッドから引っ張ってきた毛布を頭の上からかぶって、ただひたすらに時間を消費していた。
「夏菜? 夕ご飯できているわよ。食べない?」
「……いらない」
「でも、少しは食べないと」
「いいから、放っておいてよ!!」
「夏菜……」
「ごめん、一人にして……」
「……欲しくなったらいつでも言いなさいね」
食欲なんて、あるわけがなかった。
今までのいつも通りがどんなだったのか、全く思い出せなくなっていた。
動く気力は、依然としてないままだ。
もしかしたら……。
ヘンな考えが頭をよぎった。
もしかしたら、私はただの入れ物で、私を動かすエンジンが、ユウくんだったのかな……。
ユウくん、という言葉を思うだけで、胸が締め付けられるようだった。
からっぽの私は、ドアの前からほとんど動くことなく眠りについた。
その次の日は、何時だか分からないまま目を覚ましたり、目を瞑っていたりを繰り返した。
お母さんはめげずに何度も、私に話しかけに来てくれた。
いい加減、それに応えない私は最低だ。
分かってるよ。
……分かっているけど。
ダメなんだよ。
ユウくんがもういないなんて。
今までのいつもは、もう、ありえないなんて。
両腕で膝を抱え、ぼうっとしたまま、これからのことを考えた。
このまま何もせず、誰とも話さず、何も食べずにいたら、私はきっと死ぬなあ。
……それでもいっか。
そう思ってまた眠りについた。
次に目を覚ましたとき――かけた覚えのない目覚まし時計に起こされたとき、私はちゃんとベッドの上にいて、
そして、
目覚まし時計の日付は、八月二十日を――お祭り当日を指していた。
連日の疲れでやる気と集中力が足りてません…
3月中に終わらせるのは厳しいかもです。