お祭り
ユウくんは生まれつき心臓が悪い。
詳しいことは知らないけれど、お医者さんから、走ったり急な運動をしないように言われているらしい。体育の時間のユウくんは、いつも退屈そうだった。
それに、夏休みが始まる前も、病院へ行くために遅刻や欠席が目立っていた気がする。
心配だなあ……。
ユウくんがいなくなったりしたら、嫌だなあ……。
『次は~菖蒲公園~菖蒲公園です。お忘れ物のないよう……』
「あっ、ナツナちゃん、次だよ!」
「うん、そうだね」
電車のアナウンスでハッと我に返った。
「なんか考え事していたみたいだけど、悩みごと?」
「えっ、いやー、宿題終わるかなーとか……?」
さすがにユウくん本人には言えないや。きっと、私以上に心配だろうし。
私は、あははと笑って誤魔化した。
「あーそっかあ。夏休みもあとちょっとかー。ボクもやらないとなあ」
「ね、今度いっしょにやろうよ」
「うん、いいよ! あっ、着いたみたい」
電車は目的の菖蒲公園駅に到着。アナウンスと共に、静かにドアが開いた。
「楽しみだなあ」
改札を抜け、私たちは離れないよう、どちらからともなく手を繋いだ。
「うわ~、人いっぱいだな~~」
「ホントだー。ねえ、どこから行く?」
「ボク、スーパーボールすくいとかやりたいなー」
「いいよ、行こう! 私はヨーヨーほしいなー!」
「あはは、なんかスーパーボールとヨーヨーって、似ているね!」
「どっちも水から掬うところがねー」
人の賑やかな声と明るい光で、お祭りはとても楽しい雰囲気に包まれていた。色とりどりの浴衣、ちょっと暑苦しいお店の店主、小さな子供が親に欲しいものをねだっていたり、遠くからは陽気な祭囃子も聞こえてくる。
ユウくんはスーパーボールを、私はヨーヨーを手に入れて、人波にまかせてぶらぶら歩いた。
「ユウくん見て! カメすくいだってー!」
「わあ、そんなのもあるんだ! ……すくうのばっかりだね!」
「あ、偶然だよ。カメなんか持って帰ったら、飼えないし怒られちゃう」
「ボクも、連れて帰れないなー。見るだけだね」
他にも、定番から初めて見るものまで、いろんな屋台がずらりと並んでいる。おめん屋、くじ引き、金魚すくい……。
食べ物のいいにおいも漂っている。かき氷やフレッシュジュースなどの冷たいものから、フランクフルトや焼き鳥などの焼いたものまで。目移りしそう。
「お腹すいてくるね!」
「あっ、私わたあめほしい!」
「わたあめっておいしいよねー。甘いし、口に入れるとスッと消えちゃうし。ボクも好き!」
「ね! そうだ、わたあめって一袋にけっこう入っているから、分けっこしよ!」
「いいの?」
「うん、買ってくる!」
私はお店のおじさんに言って、好きなキャラクターの袋に入ったわたあめを一つ買った。
「ちょうどそこのベンチが空いているから、座って食べよ!」
二人並んで座って、わたあめを指でつまんで食べながらお喋りした。
ちょっと疲れていたから、いい休憩になったねーとか、ごはん前に甘いもの食べても、親になにも言われなくていいねーとか。
「じゃあ今度はボクがなんか買うね。ごはんになるのがいいかな? 何がいい? たこ焼き? 焼きそば?」
「なんでもいいよ! 甘いの食べたからしょっぱいのがいいな」
「分かった! ナツナちゃんはここで待ってて!」
「おっけー、場所取られないようにするね」
私はユウくんの後ろ姿を見送って、ベンチでのんびりしていた。
口の中がまだ、少し甘いのが残っている気がした。
えへへ、楽しいな。
ずっとユウくんと一緒にいたい。
私はわたあめの袋を小さくたたんで、ヨーヨーをみょんみょんと弾ませた。
「おまたせー!」
「あ、ユウくん、何買ったのー?」
「うんとね、たこ焼きにした!」
「わあ、おいしそう!」
「ほんとはね、揚げパンもおいしそうだなーって思ったんだけど、給食にも出るし、甘いものだったからやめたんだ」
「え、揚げパンなら甘くてもよかったのにー」
「そうなの? ……まいっか。冷めないうちに食べよ!」
そのあとはそれぞれりんご飴を買ったりチョコバナナを食べたり、射的で遊んだりした。ユウくんは私に小さなクマのぬいぐるみを取ってくれた。
どーーんっ!!
ヒューーッ、パァン!!!
突然、夏らしくて心地の良い音を立てて、夜空に大輪が咲き誇った。
「あっ、花火!」
私とユウくんは同時に空を見上げた。
「きれい! もっと見やすいとこ行こ?」
「うん!」
屋台の並びから少し離れて、やや小高い丘にのぼった。他にも花火を見るために何人かの人が来ていた。
花火が打ち上がるたび、私たちの顔は明るい色に照らされた。
夜空を背景に、次々と咲いては消える大きな花火。
時々丸型ではなくて、ハートだったり、ニコちゃんマークのものも打ちあがった。
何発も途切れることなく打ちあがる花火は本当にきれいで、ずっと見ていたかった。
でも、楽しい時間は終わりがつきもの。
「ナツナちゃん、そろそろ帰る時間じゃない?」
ユウくんもそう言ったし、私も眠くなってきたので、駅に戻り帰ることにした。
電車に揺られること十分。家の最寄り駅に到着。
「今日は楽しかったよ! じゃあ、またね!」
「うん、ボクも楽しかった! バイバイ!」
「バイバイ!」
まだ名残惜しい気持ちもあるけど、私はユウくんと別れてひとり、家路についた。
屋台について調べていたら、お祭りに行きたくなりました…
フルーツ飴とかチョコバナナとか食べたいですね(笑)