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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある魔眼持ちの薬剤師の日常

ある魔眼持ち薬剤師の日常 その三

作者: カスミ楓

「なにこの忙しさはっ!! もぐもぐ」


 つい先日アーヴェン様に千個の回復軟膏を卸したと思いましたら、何故か突然回復軟膏が馬鹿売れ状態なのです。

 今まで一日せいぜい売れて五個だったのが、ここ一週間近く毎日五十個ですよ?

 月に換算すると千五百個になるんですよ?

 わたくし、美容の為に一日八時間は最低寝ないとダメなのです。本当であれば十時間は寝たいところなのですけど、これでも我慢しているのです。

 でも昨日など五時間しか寝ていないのです。これは由々しき問題です。

 そりゃー売れるのは大変嬉しい事です。

 でも限度ってものがあるのです。

 私の中では、睡眠時間>超えられない壁>売れる喜び、なのですよ。



 しかし……なぜいきなりこのような自体になったのでしょうか?

 こう言っては何ですけど、私はちまたではマッド薬剤師などと呼ばれているのです。

 白竜さんをお店に横付けしたり、王族で領主のアーヴェン様を往来でたまに鞭でしばいたりしていますけど、別にマッドな事などやっておりません。

 ホンの少し薬に危ない成分を入れる程度なのです。

 ちょっぴり幻覚を見たり、食欲旺盛になったり、二日ほど眠れなくなったりする程度のお茶目な薬を作るだけなのです。

 おかげさまで効力はものすごいが何が起こるのか分からない、とご近所の奥様方にもご好評なのです。


 だからこそ、今までは物好きがたまに買いに来る程度だったのです。


 あ、軍に卸している回復軟膏は非常に残念な事ですが、ちゃんとそのような副作用の起こるものは出しておりません。重要な資金源ですしね。

 それにお店に売っているもの全てに副作用が起こるわけでもありません。一カートンに一つだけ副作用の起こる薬を入れているだけです。


 こうすればどきどき感を味わえて楽しめますよね。


『ああー、今回ははずれだったか』

『へー。俺当たったみたいでさ。ハイテンションになったらしく、気がついたら領主様の像の上に跨ってたんだよ』

『俺は急激に空腹感に襲われて、大ヤサイマシマシ頼んでしまったんだぜ』


 なんて若者の間の会話ネタにもなります。


 ……まあそれはさておき。


 話を戻します。

 なぜこんなに売れるようになったのでしょうか?

 その原因を突き止め、排除する必要があります。


 ……売れるのはいいことなんですから排除しちゃダメですね。


 でもお休みも欲しいところです。

 先日の大量納品の際に、回復軟膏の材料であるフィン草、エネモル草、サージ草を余分に取っておいたのでまだ在庫がありますが、それも遠からず品切れてしまいます。

 でもこの売れ行きですと取りに行く時間すらありません。ギルドに頼むと手数料かかってしまいますし、なるべく原価を抑える必要があります。

 私が取りに行っている間、お店を休みにすると売れ行きが鈍るかもしれません。どうせなら稼げるときに稼いででおきたいのが人情です。

 従業員を雇うのも手ですが、雇った瞬間すぐに売れ行きが元通りになると問題ですし、期間限定で一ヶ月のアルバイトでも募集しましょうかね。



「ということで、そこを歩いている人、一月ほどアルバイトしませんか?」

「え? な、何が、という事、なのですか?」


 言い忘れていましたが、今はお昼休憩なのです。今日は天気も良いのでお店の軒先でお弁当を広げて食べていたのです。

 そしてお弁当も食べ終わりましたので、丁度目の前を通り過ぎた女の子に声をかけたのです。

 年のころは十代前半で、綺麗な茶色の髪をして少しだけウェーブがかかっている女の子です。水色のワンピが清楚可憐で護ってあげたい、という雰囲気を醸し出していますね。なかなか可愛らしい子です。


 私には負けますけどね!


 そして、貴族ではないこと。これも重要です。

 この子はお供も連れていませんし、着ているものも高級品という訳ではありません。貴族ではないでしょう。


「たまたま私の目に付いたので諦めてください」

「な、なんですか? あたし何されるの?」


 お弁当箱を綺麗に仕舞ったあと、彼女の腕を掴んでずるずるとお店の中へ引っ張っていきました。


「さあさあ、無駄な抵抗はやめて大人しくしてください。お給金は月銀貨十枚でどうでしょうか? 大判振る舞いです!」

「ひっ、い、いやぁぁぁぁぁぁ!!」



「あーあ、マッド薬剤師に捕まったか」「かわいそうに」「あの子大丈夫かな?」「お前助けにいくか?」「無理、俺まだ命惜しいし」



 なにやら外野がうるさいですが、まあ無視しましょう。



 △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



「ど、どうする気……ですか? あたしを殺す気ですか?」


 何故かお店の中に連行して椅子に座らせると、彼女は涙目になりながらも私に詰問してこようとしました。

 でもいかにも怯えています、という雰囲気で迫力は全くありません。

 っていうか、なぜ殺される発言するんでしょうかね。


「先ほども申し上げましたが、ここでアルバイトしませんか?」

「アルバイト……ですか? 何故あたしに?」

「たまたま目に付いたからですね。ところであなたのお名前は?」

「リュイスです。それより、たまたま……って」

「その辺は諦めてください」

「……うう、帰りたい」

「ちゃんとお給金も出しますから。今なら回復軟膏も一つおまけでついてきますよ!」

「怪我しませんし」


 そうですよね。町中に居る限り、そうそう怪我する事はないです。

 でも……。


「そんな事はありませんよ。打ち身捻挫切り傷、様々な危険性があります。リュイスさんもお料理するとき包丁で指など切った経験はありませんか?」

「あ……。あたしお料理したことないんです」

「……え?」


 お料理をしたことがないと?

 大抵の家庭はこの子の年齢くらいであれば、母親の手伝いをするはずです。

 それ以外にも掃除、洗濯は当たり前で、更に男手が足りない場合の水汲みもあります。

 私は貴族出身でしたからやったことはありませんけど、でも前世では一人暮らししてましたから料理くらいは出来ます。

 お菓子作りの方が好きでしたけどね。


「ご両親のお手伝いはしたことないのですか?」

「はい。両親のお仕事は特殊で、あたしは勉強不足なのでお手伝いできないのです」

「ならここで社会勉強をするのもいいのではないですか?」

「社会勉強……ですか」

「ええ、社会の仕組みを覚えるのも将来役に立つと思いますよ?」


 社会勉強とぶつぶつなにやら呟いています。

 ここは押せ押せモードですね!


「さ、どうでしょうか? うちでアルバイトしませんか?」

「アルバイトって何をするのですか?」

「基本はお店の売り子ですね。特に私は薬の材料を取りに半日から一日程度あけることもありますから、その間お店をお任せしたいのですよ」

「は、はぁ……でもあたしやったことないのですけど」

「誰にでも初めてはありますし、うちは金額計算さえ出来れば問題ありません。それにまずは二週間程度から始めてみませんか? その間やってみて、肌に合わなければ辞めていただいて構いません」


 じっと何か思案しているリュイスさん。

 こういった場合は話しかけず、見守るのが大人ってものですよね。


 そして一分くらい考えていたでしょうか、何かを決めたように私の顔を見てきました。


「一度帰宅して相談する必要はありますけど、おそらく二週間のみ週に三日、午後からなら多分大丈夫です」


 この世界、銅貨百枚で銀貨一枚になります。そして銅貨一枚は日本円でおおよそ百円くらいの価値ですね。

 まあ計算が面倒ですから時給千円、つまり銅貨十枚として……。

 十三時から十八時まで一日五時間、それが計六日ですので三十時間ですか。


「では銀貨三枚でどうでしょうか?」

「金額はお任せいたします。特に困っておりませんし」


 ええっ。ご両親の職業は特殊でお手伝いできない、更にお金に困ってないということは、どこかお金持ちの子なんでしょうか。

 まあ詮索はやめておきましょう。


「では銀貨三枚で、毎日お仕事の終わりに銅貨五十枚をお渡ししますね。さて、早速ですけど今日からお願いできますか?」

「わかりました。宜しくお願いします」



 こうして何とかアルバイトを確保できました。

 身元不明ですけど悪さするような子には見えませんし、更にこっそり魔眼で鑑定したところ、普通の一般的な市民程度のお強さでした。魔法も殆ど使えない様子ですし、危険という訳ではなさそうです。


 これで多少楽になればいいですね。



 △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 リュイスさんが来てから今日で一週間、通産三回目の出勤です。

 そして彼女はものすごく優秀でした。

 初日は多少手間取った様子でしたが、二回目からはもう殆ど教える事がなくなったのですよ。

 私の店で売っているものは計算しやすいように、銀貨一枚、銅貨五十枚、など端数を出さないようにしています。

 それでも計算器そろばんみたいなものですを使っても半数くらいは計算できない人がいます。ましてや暗算できる人など殆どいません。

 それを彼女は一瞬で計算してはじき出しているのですよ。相当教育が施されていますね。

 更にはお客への対応も殆ど完璧です。

 笑顔を絶やさず丁寧に、どんな金額のものも、たとえ一番安いものを一つだけしか買わなくても、ちゃんと『ありがとうございました。またのご来店お待ちしております』なんて言ってくれるのですよ。

 私なんて面倒くさくてそこまで言わないのに。


 ……ダメじゃん。


 まあそれはともかく、二週間と言わずずっと続けて貰いたいくらいです。


「リュイスさん、少しいいですか?」

「はい? 店長、何でしょうか」


 お客がたまたま途切れた時を狙って、声をかけました。


「私はこれから材料を採ってきますけど、少しばかりお店を任せてもいいですか?」

「はい、どのくらいでお戻りになりますか?」

「三時間……四時間くらいですね」


 回復軟膏の材料は、ここから歩いて半日くらいの山に生えています。普通の人であれば往復で一日、採取するのに一日、合計二日はかかる道程ですが、私なら跳んでいけば一時間足らずで到着します。

 そして鑑定の魔眼を使えば、一時間もあればカゴ一杯の材料が採れるでしょう。


「お店を閉めるまでに戻ってきていただければ」

「それまでには間に合わせます。ではしっかりお願いしますね」

「はい、いってらっしゃいませ」


 大きなカゴを背負い、リュイスさんに見送られて私はお店を出て行きました。

 さあ超特急でいきましょー!






 ふー、さすがに疲れました。

 時刻は少し薄暗くなった十八時です。先日軍に卸す為に材料を乱獲したおかげで、今日はなかなか生えているのが見つからず、結局こんな時間になってしまいました。

 いつもならそろそろ店じまいです。

 リュイスさん、大丈夫でしょうか。


 私が店の中に入ると……。


「てめぇ、こんなクソ薬売るなんてどういう了見だよ!」


 ……少しお行儀の悪いお客がいました。


「問題があれば返金いたしますが、どのような状況だったのでしょうか?」

「いいからさっさと金返せよ!」

「ですから、どのような理由でしょうか、と聞いておりますが」

「ごちゃごちゃ言わずさっさと金返せ! 慰謝料含めて金貨一枚だよ!」

「そのような要求は飲めません。正当な理由をご提示ください」

「だぁぁぁ! てめぇ、喧嘩売ってるのか!?」

「あ……」


 そしてとうとう手を上げるお客さん。というかもうお客さんじゃなくて、チンピラさんですね。

 その手を掴んで、少し強めに握りました。


「あ? ……い、いてててててて!!」

「店長!」

「そこまでです」


 リュイスさんは安堵の表情を浮かべていました。

 そりゃ怖かったですよね、あの気弱そうなリュイスさんがここまで頑張ってくれるとは思いませんでした。

 あとで少しお給金に色をつけて差し上げましょう。


「て、てめぇ! 放せよ!」

「あ? きこえんなー?」


 何とか振りほどこうとしているみたいですが、私の握力と腕力は白竜さんですら適いません。まず普通の人どころか相当強い人でも無理でしょう。

 そして更に強くしめてあげます。ミシッという音が聞こえてきますけど、まあ気にしないでおきましょう。


「おっ、折れる!! ちょっ! やめて!!」

「暴力に頼るような相手には更なる暴力で、が私の信条です。さて、別室でゆっくり経緯をお聞きしたいと思いますので、こちらへどうぞ。あ、リュイスさん、今日は閉店でお願いします。その後別室に来てください」

「は、はいっ! わかりました店長!」


 そしてそのままずるずると引っ張っていきました。




 別室。

 そこはお店の地下にあります。

 最初用意されたお店に地下室はなかったのですが、材料を保存させる為に私が魔力で作り上げたものです。

 ついでにストレス発……げふげふん、偉大なる魔法練習のために壁を強化して、白竜さんが暴れたとしても壊れない程度の強度を持たせました。更に振動はどうしようもないですが、音はかなり吸収する仕上げにしております。


 別に拷問部屋、ではないですよ?


 防音室のようなもの、と思って頂ければ問題ありません。


「い、いい加減放せよ!! いてぇんだよ!!」

「あら、そうですか。えいっ」

「ぐはっ!」


 私は野球のピッチングフォームを真似て、チンピラさんを壁に投げつけました。鈍い音が鳴り響きましたが、外へ漏れる心配はありません。

 っと、どうやら痛みで気絶した様子です。


 さて……。


 私は上半身を裸にひん剥いたチンピラさんを天井からロープで吊るし、バケツに汲んだ水を思いっきりぶっかけてあげました。


「ぶはっ?! ……あ、あれ?」

「お目覚めですか? ご気分はいかがでしょうか?」

「て、てめぇ何しやがる!」

「あなたをロープで吊るして水をかけました」

「そんな事聞いてるんじゃねぇよ! 一体俺をどうするつもりだ! それに何だよ、その手に持っている鞭は」

「これですか? これの使い方を知らないと? これはこうやって使うんですよ」


 まずは軽くチンピラさんの背中を叩いてあげました。


「い、いてぇぇぇぇぇ!!」

「あら、これくらいで悲鳴ですか。根性がありませんね。さあ次々いきますよ?」

「ちょ、ちょっと、うぎゃぁぁぁぁぁ…………」


 十回くらい叩いてあげると、また気絶してしまいました。


「店長、これは……」


 と、そこへタイミングよくリュイスさんがやってきました。さすがにこの光景は驚いている様子です。


「あら、リュイスさんいらっしゃい。早速で悪いのですけど、そこにあるお薬をこの人の背中に塗ってあげてください」

「お薬って、これ塩ですよね……?」

「はい、別に砂糖でもいいのですけど、砂糖は高いんですよね」


 塩は岩塩からも採れますし海水からも採れるため、意外と安いのです。

 ただ砂糖はサトウキビ自体が少なく、更にこの大陸は雨量が少ないので育てるのが大変なのです。だから希少品なんですよね。

 この世界では主に甘味料といえば、サトウカエデから採れるメイプルシロップが主流ですが、やっぱり砂糖も欲しいですよね。


「そういう事を聞いているのではありませんけど……」

「まあまあ、細かい事は気にせず、まぶすようにして彼にかけてあげてください。きっとショックで起きると思いますよ」

「は、はぁ……」


 はなさかじいさんが花を咲かせるように、リュイスさんがぱっと彼の背中目掛けて塩をかけました。

 その瞬間、この世とも思えぬ声がチンピラさんから聞こえてきました。


「うっぎゃぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁあ?! し、しみる、痛てぇよぉ!!」

「お目覚めですね」

「い、いてぇぇぇえええぇぇぇ!!」

「あら、私の言葉は無視ですか。リュイスさん、もっとかけてあげてください」

「は、はい」

「うぎゃぁぁぁ…………」




 こうして一時間くらいチンピラさんを甚振ってあげました。

 あ、でもちゃんと最後に彼がお買い上げした回復軟膏を塗ってあげたところ、涙を流しながら感謝してくれました。


 こうして町のチンピラさんが一人改心してくれました。

 とても良いことをした気分です。

 リュイスさんも「あの鞭を叩いたときの感触、そしてその声、反応がたまらないですね。ぞくそくします」と言ってました。




 …………ま、いいか。



多分、次回その四で一旦終わりになると思います


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