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かつて誰よりも主人公だった元・野球男のラブコメ  作者: azakura
0章 サイレント・スクール・サバイバル
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0-11

 桜庭は優しげな顔で緩やかに首を横に振って、


「アマトくん、喜んでたよ。アマトくんも織川さんにお礼を言ってたよね?」

「うん、お礼にイチゴ大福くれたよ。それに篠宮くん、『俺が何とかしてやるから』ってことも言ってくれた。でもね、あたしも何かできることはしないとっ」

「……えっ、イチゴ大福!? ……しまったな、私も何か言ってやればよかった」


 何を羨ましがってるんだか。意外っちゃ意外な反応だが。まあ篠宮はいくら売れ残りでも、イチゴ大福だけは鮮度の理由で部室に持ってくることはない。つまり、織川に差し上げたのは売れ残りではない、バリバリの売り物のイチゴ大福なのだろう。


 話は逸れてしまったが、


「織川は気にすることないさ。俺は織川が正しいと思っている。……できれば最後に俺の名前を出すのはヤメてもらいたかったが」

「ごめんね、ぜんじー」


 笑いを含みながら両手で手を合わせて申し訳なさそうにする織川。


「――――けど」


 呟いたのは桜庭。そうして彼女は真剣な面持ちで、


「一旦拗れた関係を修復するのって、本当に難しいよね。なんかさぁ、何やっても許してくれない雰囲気が漂うっていうか……。一人を説得させるだけならまだどうにかなるかもしれない。けれど、高坂玖瑠未みたいにたくさんのお友達と絡んでいる人間を説得するのは難しいよ。だって、そのお友達含めて雰囲気つくってるんだもん」


 そう、織川が相手にしなければならないのは高坂玖瑠未だけではない。影響力の強い高坂玖瑠未の態度はすぐにクラスに感染していくのだろう。そうなった場合、感染した雰囲気をどうにかすることは難しい。


「正直固定観念だよね、『アイツは嫌われてる』っていうのは……。別に本当に嫌われる人格してるワケでもないのに、単に一人が嫌いだからっていう空気が感染しただけなのに……。何言っても無視されることだってあるよ」


 妙に暗い顔で話す桜庭。その空気が織川に伝わったのか、


「……ど、そうしよう」

「あーいや、ごめんね。私が言ったのは最悪の場合だよ。そんなに悲観的にならないで」

織川が一息ついて、

「あたしね、ルミちゃんが嫌いになったとか、そういうことは思ってないの。けど、ルミちゃんが人の陰口を言うのが嫌だってだけで……」

「たしか織川……、人の悪口を言う高坂は嫌いって言っただけだもんな。……勘違いされてもしょうがないか」


「どうしても他人の気に入らないことってあると思うけど、だからってすぐにそれを悪く言うのはやめてほしいなって伝えたかったんだ。ルミちゃんは篠宮くんたちの映画やアニメのおしゃべりが気に障ったみたいだけど、だからってそれで強く当たるのは自分勝手だよ……」

「……織川さんの言いたいことは十分に分かるし、その通りだと思うよ。言っても伝わらないって……ホント、人間ってややこしいよね」


 うんざりした口調で桜庭は言った。


「ま、実際に言って気持ちが伝わらなきゃどうしようもねーよ。諦めるしかねぇんじゃねえの?」

「…………言って伝える、かぁ……」


 思いつめた様子で織川は呟いた。だが、


「…………言って、伝える?」


 今度は疑問形で呟いた。そうして、


「……あ、分かった」

「何が分かったんだ? 高坂と仲を取り戻す方法か?」


 桜庭も興味ありげという様子で織川を見た。


「うんっ。あたし、どうすればいいか分かったような気がする」


 織川は俺、桜庭かなえの顔をしっかりと見て、


「…………あたし、甘かった」


 織川はそっと、言葉を風に乗せるように呟いた。


「……何の根拠もなかったのに、ルミちゃんに言えばどうにかなるってて思ってた。何となく友達として言ってあげれば解決できるんだな、って考えてた」

「友達として、ねぇ……。アチラ側が純粋にそう思ってるのかは分からねぇがな」


 桜庭は無言でジト目で、俺の右肩を肘で突いた。

 その桜庭の反応に俺は思わず心の中で反省を促したが、織川は何も言わずコクリと頷き、


「うん、言葉だけでそう言っても薄っぺらいんだなーって気づいたのかも……」

「そもそも、織川と高坂が知り合ったのっていつごろなんだ? 中学から一緒だったのか?」

「ううん、高校の入学式が終わった後、かな? 高校生になっても友達できるかなー、ってずっと心配だったんだ……。中学同じだった子は違うクラスになっちゃたし……。でもね、不安だったときにルミちゃんが気さくに声を掛けてくれたんだ」


 織川は目を細めて、感慨深げに事を思い起こしていた。

というか、織川にも友達ができるかできないかで悩んだりすることもあるらしい。傍から見れば。至極簡単そうに友達作っていそうだが。


「ぜんじーもあるよね? 不安なときに声を掛けてもらえると、すごく安心することって」

「……まあ、そうだな。お節介だな、って思うこともあったけど、心の底では案外嬉しかったりするんだろうか?」


 織川は儚く崩れてしまいそうな表情で笑った。


「何となくじゃ、ダメなんだよ……。しっかりと理由を出して何かしないと……」

「理由、見つかったか?」

「……漠然とは分かるよ? けれど、まだはっきりと言葉では説明できない……かな?」


 ゆっくりと目を閉じ、織川は正直に告げた。嘘を付いているようには思えない。

 そして。


「――――決めた。あたし、行動で示すから。ルミちゃんが納得するように言葉を並べるだけじゃなくて、動くことでルミちゃんを惹きつけてやるって決めた!」


 グッ、と拳を握り、意を決した織川。


「はんっ、そうか」


 そんな織川に掛けてやる言葉は生憎だが、一つしか見つからなかった。

 篠宮みたいにうまい切り替えしは思いつかないし、桜庭みたいに言葉遊びを交えることもできない俺が掛けてやる言葉は一つだけ。

 桜庭も優しく見守るように微笑んで、俺の言葉を待つようにこちらを向いた。


「無理はするなよ。がんばれ」


 俺渾身の言葉を受け取った織川、シンプルに一言、


「ありがとう!」


 織川らしい満開の笑みを浮かべて、そう言った。

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