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かつて誰よりも主人公だった元・野球男のラブコメ  作者: azakura
0章 サイレント・スクール・サバイバル
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0-4

 夕焼けに染まる我が教室に一人佇む少女、織川舞夏。普段元気いっぱいの彼女もこの時になれば乙女になるのか、綺麗にラッピングされたケーキを両手で大事そうに持ち、想いの人間を待ちよせていた。


 なんてアイツから見えないように解説をするのは俺こと、神宮寺善慈。ちなみに織川には許可を取っていない。というか、来るなと言われている。


 俺はそんな織川を身勝手なヤツだとは思っていないし、他の部のメンバーだってそんなこと思っていないだろう。誰だって告白を覗き見されるのはイイ気がしないからな。


 ――まあ前述の通り、俺は、俺だけは探偵を演じるけどね。なぜって? それは……、


「俺を呼び出したのは――――……」


 爽やかな声が聞こえてきた。声だけでイケメンだと判別できそうな声、菱野高丞。

最終下校時刻が近いからか廊下の人数は極端に少ない。それもあってか、足音、そして声はよく響き渡る。


「――――高坂だったのか。どうしたんだ、手紙で呼び寄せて。手紙の通り、教室に行くか?」


 彼が声を掛けた場所は織川が構える教室ではない。そこから少々離れた廊下、出会った人間は――――高坂玖瑠未。


 織川といえば教室の窓から小さく顔を出して、外の様子を焦る面持ちで覗いていた。

 高坂はゆっくりと首を横に振り、


「ううん、やっぱり予定変更で。別に場所は関係ないし」


 プールサイドで俺に見せたような威圧感のある態度はない。まるで恋をする乙女のように頬を染め、伏せがちな目で前方の男をチラチラ見る女がそこにはあった。

 菱野も状況を察したのか、高坂の心情を把握したのか、おもむろに口を閉ざした。


 そして、


「――――あなたのことが好きです、どうか私とお付き合いをしてください」


 大きく目が開かれたのは菱野ではなく織川舞夏。まさに絶望、顔の色が失われていく。

 告白を受けた菱野は照れくさそうに、念入りにセットされた髪を弄りながら、


「……俺なんかでいいの? その、こう見えてもスポーツ苦手で、茶道っていう変わった趣味が好きな男だけど……それでもいいのか?」


 高坂はコクリと頷いて、


「……うん、そんなこーちゃんが好きだからっ」


 こうして想いを告げた高坂は急ぎ足で去って行った。教室に用があったらしい菱野は、そのまま教室に向かって行った。


「あれっ、織川じゃん。どうした、誰か待ってたのか?」


 告白を受けたからか、菱野の声は妙に上ずっていた。かすかだが調子がいつもとは違う。

 その音色は織川にとって残酷なのかもしれない。だといえど、彼女は健気に笑顔をつくって、


「……あっ、うん! と、友達待ってたんだ……。誕生日プレゼントにケーキ渡したくて……」

「誕生日? 奇遇だなあ、実は俺も今日が誕生日だったんだ」


 菱野は机の内部を調べ、一冊の本を取り出して織川に一言、


「じゃあな、また明日」

「…………うん、バイバイ」


 口の端を吊り上げたような笑顔で、織川は菱野に手を振ってそう返したのだった。


       ◇


 まさか高坂玖瑠未がここで絡んでくるとは……と思ったのは最初だけだ。

 篠宮天禱、アイツが二日前にプールサイドで放った言葉。


『――――ふんっ、こりゃあまた一波乱がありそうだぜ』


 俺には分からん、これがどうなるのかはな。これが序章なのか、はたまた終わりなのかは。


「ルミちゃん、どうして…………」


 しかし今はそんなことを気にしてはいられない。

 ……いや、だがな、ここで踏み出してもいいのだろうか? 織川に声を掛ければそれは、告白を盗み見したと言っているようなもの。


「せっかくみんなとケーキ作ったのに……。こんなんじゃ申し訳ないよぉ……」


 織川はラッピングされたケーキを胸元に優しく抱き寄せる。

 もう、これが限界だった。俺はコソコソ隠れるのを止め、織川のいる教室に入った。


「……なあ織川、こういうこともあるさ……」

「じっ、神宮寺くん! どうしてここに!」

「スマン……、盗み見する気はなかったんだが……。どうしてもな、そそっかしい織川のことが気になって……」


 織川は目を伏せ、若干頬を膨らませて、


「……告白を覗き見するなんてサイテー……。ふんだっ、だからモテないんだぞっ……」

「そうだな、俺は今まで誰一人として付き合ったことがない」

「うわ、誇らしげに言わないでよ……」

「誰からも告白されたことはない。そんで、誰にも告白したことがない。――――好きなヤツがいたとしてもな」


「好きな人、いたの?」

「ああ、優しくしてくれたんだ。まあ、誰にも優しいような人間だったけど。でも、告白する気なんてなかったさ。……要は格好付けたかったんだろうな、理由は自分でも説明できんが」

「怖い、とか? 受け入れられなかったら、って考えると恥ずかしいから?」


「まあ、そんなところだ。だけど実際に告白に移そうとした織川は凄いと思うぞ? 告白する前に失敗に終わったけど、そうやって辛い思いをするのは告白しようとした者の特権なのさ。俺には眩しく見えるね」


 伏せがちだった織川は顔を上げ、わずかにだが頬を緩めた。

「ははっ、ナニその慰め方は……。カッコつけてるみたいだけど、ちょっと不器用だよっ?」

「お前に不器用だとは言われたくない」


 織川はオレンジの光が差す窓側へ歩んだ。そして夕日に照らされた織川はクルリとこちらを勢いよく振り返って、


「――――織川さんと一緒にケーキを食べられる権利をあげちゃいまーす。モテないキミも、これで少しは幸せになれるかな?」


 哀しげな様子はなかった。夕日は金髪を眩く弾く。そして、その眩さに負けないくらいの笑顔を俺に向けてくれた。


「申し訳なくなんかないさ」

「…………うん?」

「結局、織川の目的は果たせなかったけどよ。でも、出雲や篠宮、桜庭、それに織川とケーキを食べられて……その……楽しかったっていうか……」


 ああチクショウ! 俺が告白を今に控える乙女チックな心境に陥ってるじゃねえか。無性に髪をクシャクシャにしたい気分になる。

 ところが織川はそんな俺に、


「そっか、あたしも楽しかったよ? ボランティアの会の一員になれた気がして……すごく楽しかった!」


 無性に気恥ずかしくなった俺も、織川のその一言で救われたような気がした。


「さて、それじゃあケーキを食べるとするか…………」


 しかし、織川は慌てたようにラッピングされたケーキに目をやり、


「あ、でも! あたしお腹すいてるから、やっぱケーキ二つ食べてもいい?」


 上目使いで俺を見てくる織川。


「…………だから胸に脂肪が溜まって」


 その後、俺が食らうのはケーキではなく織川の説教だったのは言うまでもない。

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