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かつて誰よりも主人公だった元・野球男のラブコメ  作者: azakura
3章 せめて青春部ヒロインズの関係を見届けるまでは
41/60

3-13

 放課後。練習五日目。


 本日も昨日と変わらず俺、桜庭、織川の三人は別のタイミングで練習場へと赴いた。集合後、個人練習が始まってもやはり桜庭と織川は一切会話しないし、目も合せようとしない。


 すぐに事が変わらないのはしょうがないと思いつつ、俺は目先の譜面とキーボード相手にひたすら集中していった。

 そして個人練習も終わり休憩時間。さてと、目を瞑ってすべてをシャットアウトしようか、そう思った時だった。


「あれ織川、何やってんだ?」


 俺から二メートルほど距離を取り、壁に背を預け体育座りの格好の織川。……譜面だろうか? ペンを持ってそれと格闘している。


「せっかくの休憩時間だもん。さっき間違えたトコを確認しないと」


 そう言いつつ、真剣な眼差しで譜面へ何かを記している。


「先輩と仲良くすることも大事だけど、一番はいい演奏で先輩を盛り上げることだもんね。それサボってたらここに来た意味ないし」

「……そうか。そんなら俺も頑張らねぇとな。一番の足手まといは俺なんだし」


 まさか織川にその姿勢を教わるとは。だけど、不思議と悪い気分はしなかった。

 そうして休憩が終わり全体練習の時間、西尾先輩が主導となって五人の奏でる楽器の音色を重ねていく。当たり前のことだが練習序盤と比べると、日を追うごとに曲とよべるものに近づいている。だけどそれでも、


「……あっ、スイマセン。俺が間違えました」


 いくら練習しても難しい部分はまだ克服できていない俺。個人練習では何とかイケても、全体練習となると手の動きがぎこちなくなってしまう。

 先輩方、織川、それに桜庭に申し訳ないと思っていたが、


「善慈くん、間違えた三小節前からもう一度弾いてみてくれない?」


 ――声を掛けてくれたのは桜庭だった。


「あ、ああ……。わかった、弾いてみるわ」


 指摘どおり鍵盤を弾いてみたものの、やっぱりミスをしてしまう俺。

 桜庭は俺に近づき、その綺麗な手を鍵盤に置き、


「手、こうしてみたらどう? 善慈くんの手の動きだと、どうしてもこんがらがっちゃうし」

「……なるほど、その動きは思いつかなかった。わかった、やってみるわ」


 すぐに教えてくれた手の動きで弾いてみた。そしたらすんなりと弾くことに成功。今まで何に悩んでたんだか、と思えてしまうくらいに一発で完璧にできた。


「サンキュー、桜庭。……また頼ってもいいか?」

「……、いつでも構わないよ。それじゃ先輩、再開しましょうか」


 翌日、放課後。練習六日目。


 個人練習に割く時間も日に日に短くなり、もうすぐ本番が近付いてるんだな、という気持ちに差し掛かった頃合い。


 休憩時間、俺は譜面を眺めながら反省点やら改良点やらを考えていた――その時、


「舞夏ちゃん」


 ピクリと、俺の肩が思わず反応した。『舞夏ちゃん』、彼女がその呼び名を口にしたのはいつ振りだろうか。

 譜面の端を両指で摘まんだまま、僅かに目線を上げた。声の方向をチラリと見やれば、あの黒髪ロングの女がそこに立っていた。俺と同様、体育座りの格好で譜面を眺めている――織川の前で。


 見るからに不安そうな面持ちの桜庭。自信無さげに右手を口元に添え、心配な面持ちを象徴するかのように目を細め、視線が泳ぐ。

 数秒間黙ったままそこに立っていたが、


「どうしたの、かなっち?」


 声を掛けられた織川がニコリと、安心を与えるように微笑んで返したのだった。

 それがきっかけになったのか、桜庭は真っすぐ織川を見定め、


「ごめんなさい、私が悪かったです。今まで酷い態度を取ってごめんなさい」


 そう告げて、深々と頭を下げた彼女。


「善慈くんにあんな態度を取ったのも、先輩と仲良くする舞夏ちゃんに嫉妬したのも私が悪かったです。本当にごめんなさい」


 織川はその場を立ち上がり、


「ううん、あたしだって悪いトコたくさんあった。あたしだってかなっちの演奏に嫉妬してたし、先輩と遊んでたんだし。……ごめんなさい!」


 彼女もまた深々と頭を下げたのだった。


 俺の心をガチガチに縛っていた鎖が紐解ける瞬間だった。


 心の底から安心したし、溜息だって出た。だけど安心するのはまだ早い、役目が残ってる。


「桜庭、織川。一番謝らなきゃならない相手がいるだろ?」


 右隣に桜庭を、左隣に織川を従え、


「先輩方に散々迷惑をかけて申し訳ありませんでした」


 俺が二人に向かって頭を下げると、両サイドの女もすぐさま頭を下げた。


「みんな、頭を上げて」


 いつもと変わらない、優しい声でそう言ってくれたのは西尾先輩。


「今日も含めて残りの練習、頑張ろっか。みんなの力があればすごい演奏ができるって信じてるよ!」


 岡崎先輩も俺たちを見回して、


「演奏はまとまってきたよ。理想には確実に近づいてる。後は完成度を高めるだけ、気を抜かずに頑張っていこうか」


 そんな二人の励ましを聞いて、俺たちの返事は完璧に一致した。

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