第七話 王都に向けて
エリンを養女として迎え入れた俺は、途中エリンをまじえて談笑を交わしながら、セントラルアーツの街に戻った。
エリンの両親の事は悲しいけど、エリンはそれを乗り越えて俺達と生きていく道を選んでくれたようだ。
こうなったら俺が立派な幼女に育ててみせる!
そんな決意を熱く語ったら、メリッサに変な趣味がないか疑われてしまった。
違うよフェミニストだよ。
ストライクゾーン広めと言ってもそこまでじゃないよ。愛ダーヨー家族愛ダーヨー。
「……エリンには負けない」
気のせいか、セイラが妙な対抗心を燃やし始めたような気もしないでもない。
ただそんなセイラも、エリンの笑顔には敵わないようで、にぱぁっとしたエンジェルスマイルに無表情ながらも口元がうずうずしてしまっている。
別に普通に笑ってくれてもいいと思うんだけどな。
ちなみにメリッサに関してはもっとあからさまで、可愛い可愛い! と身悶えまくっている。
まぁそんな微笑ましい光景を目にしながらも俺たちは取り急ぎギルドに向かったわけで――
「はぁ、なるほど。ゴールドミノタウロスのいるC級ダンジョンを二時間一五分で。へ~すっごいですね~」
なんかもう凄く心の篭ってない棒読みで言われてしまった。
顔もなんかセイラ以上に無表情だし、なんでだよ!
てか、全く俺に心開いてくれないなこの猫耳受付嬢。
「……それはそうと、その、そのエルフの女の子は一体?」
ニャーコが、どこかウズウズした様子で俺に尋ねてくる。
表情も俺に対するものと違って、興味津々といった感じだ。
まぁこれはよく判るけどね。エリンはどうみても天使だし。
で、一応エリンを養うことに決めた経緯を話す。
「そうですかそんな事が……それはつらいでしょうね――」
猫耳を萎れさせ同情の目をエリンに向けた。
ニャーコからしてみれば、予想以上に重い話だったようだ。
まぁ両親が憂いな目にあってるわけだしな……
「でも、お兄たんとお姉たんがエリンと一緒にいてくれるっていってくれたなの! ぴゃぴゃとみゃみゃになってくれるなの!」
両手をパタパタさせて嬉しそうにエリンが訴える。
しかし――その所作も可愛い! 抱きしめたい!
「か、可愛い――」
そして受付嬢も猫耳もフリフリさせて、両手を頬に当てて身体をくねらせている。
てか、よく見るとギルドにいる連中全員の頬がだるんだるんだ。
美幼女は正義だね。
「……はっ! そうです! 大事な事を忘れてました。ヒット様、マスターがヒット様が来たら上がってもらえといってたので部屋に向かって下さい」
ん? なんだ、随分掛かったけどやっぱあれかな? まぁとりあえずダンジョン攻略分や倒した魔物の査定をニャーコに任せて、俺達は四人揃ってマスターの部屋に向かった。
「これはまた随分とめんこい子だのう。お嬢ちゃん名前はなんて言うのかな?」
「エリンなの~凄~いお髭さん立派なの~」
部屋に入った直後は、相変わらずの渋面だったマスターが、エリンを目にした瞬間その表情が瓦解した。
なんか今はもうほっぺたゆるゆるにして、エリンに髭とか触らせている。
「エリン。あんまり触るとお手てが汚れるからもうやめた方がいいよ」
「お前それ、私の事汚いって言ってるようなもんだぞ」
不機嫌そうに言ってるけど、綺麗ではないだろ。
「で、要件はなんだ?」
なんとなく判って入るけど一応尋ねる。
「なんでそんなに偉そうなのか……一応私はここのマスターだぞ……」
「……爺ィうざい」
「このメイド酷い!」
全く私を何だと……なんてぶつぶついいながらも、マスターが本題に入る。
「お前ならもう判ってると思うが、向こうのマスターと連絡を取り合ってな。ヒットには王都まで赴いて欲しい。要件は今回の領主の件でだ」
やっぱその事だったか。
「了解。これでやっと王都か~」
「それにしてもマスター様、王都まで一体どのようにしてご連絡を? 馬車で一〇日程は掛かる距離がございますが……」
メリッサがそんな事をマスターに尋ねた。妙な事を気にするなメリッサ。
「うむ。我々は重要な案件に関してはマジックバードを利用して連絡を取り合っていてな。これに手紙を運ばせれば王都とはいえ一日あれば届く」
「たった一日で! やはりマスター様ともなると違いますね」
「ふふっ、お主は判っておるではないか。そうだぞマスターは凄いのだ」
メリッサのよいしょで、やたら上機嫌になったなこのおっさん。
それにしても一日ってそんなに凄いか? 多分俺なら一分かからないぞ。
てか、この感じだと皆郵便とかどうしてるんだか……馬車とかで運んでる感じか……王都まで一〇日って、なんか郵便屋でも開けば儲かりそうだな。
面倒だからしないけど。
「まぁいいや。丁度やることなくなってきてたしすぐにでも王都に向かうよ」
「うむ、恐らく王に謁見する事にもなると思うがくれぐれも粗相のないようにな。くれぐれもな!」
なんかそこだけ偉く強調して、釘を刺すみたいにいってきたな。
「大丈夫だよ。王に会うぐらい問題ないって」
「……その口ぶりが既に心配なんだが……メリッサといったな。ここはお主だけが頼りだ、失礼のないようしっかり見てやってくれ」
なんで奴隷に頼むんだよ! おかしいだろ。
「お、王への謁見……しょ、承知致しました! ご主人様がいつものような事にならないよう気をつけます!」
「……不敬禁止」
「ぴゃぴゃしっかりなの~」
いつものような事ってどんな事だ! てかメリッサも完全にその気になってるし。
セイラも不敬って……エレンは、まぁよくわかってないんだろうけど。
「さて、では早速王都に向かう馬車の手配をするとしようか」
「ん? 必要ないよ馬車なんて」
「……何を言っている? まさか歩いて行くつもりではないだろうな? 馬車で一〇日は掛かる距離だと話にあっただろ?」
「歩くわけじゃないけど、馬車なんかより俺の能力使ったほうが断然早いし」
俺の話を聞いたマスターが顔を渋くさせる。
「マスター様。ご主人様はその……転移魔法のようなものを使用できるので、それを使えば確かに馬車より速く移動が可能なのです」
メリッサが説明してくれた。キャンセルはいまいち判ってないみたいだから説明はちょっと曖昧な感じだけど。
「転移魔法のような……? まぁオークの集団とオークキング、それに領主に化けていた魔物を一人で片付けてしまうような男だしな……常識を当てはめるだけ無駄か……」
溜息混じりにそんな事を言ってきた。いやそこはもっと感動したりそういう反応じゃないのか?
……まぁいいや。一通り話も終わったしマスターの部屋を後にして、ニャーコに査定してもらった報酬を受け取り、これから王都に旅立つ旨を伝える。
「……そうですか、いよいよ王都に。ではくれぐれもお気をつけ下さいね。無茶は! しないでくださいね」
……う~んなんだろ。心配されてるようで、なんか意味合いが違う気もするし。
まぁ何はともあれ、言ってくるよと言い残し、俺達は四人でセントラルアーツを出た。
ここから王都まで長い旅が始まるぜ! さぁ、とりあえず……キャンセル!
「わ~凄いなの! お人が一杯なの!」
「……まぁ判ってましたけどね」
「……一瞬」
うん、全く長くなかったな。瞬きしてる間についてしまったよ。
今更だけどキャンセルすげぇな――
それにしても、確かに人は多いし街も広いな。セントラルアーツも中々だったけど規模が段違いだ。
何せ一区画分だけでセントラルアーツ並にデカい。馬車も多いしな。あまりに広いから街を巡回する乗合馬車もある。
建物もセントラルアーツは木造の方が多かったけど、ここは石造りや煉瓦造りのものが多いようだ。
とにかく色々と違うし活気に溢れてる。エリンが感動するわけだな。
さて、のんびり観光、というのはとりあえず後回しにするとして、さくっと王都の冒険者ギルドに向かうとするかなっと。
次より王都編突入!




