第五話 領主の正体
「領主様いるかい?」
屋敷に潜入し、キャンセルで領主の部屋の前まで移動した俺だけど、とりあえずいるかどうかの確認のため声を掛けてみた。
「……なんだ? 誰だ?」
うん、中にちゃんといるみたいだな。
「ちょっと話があるんだけどいい?」
「はぁ? 名も名乗らず何を馬鹿な事を! 誰かはわからぬがそんな失礼な奴に用はない!」
「やっぱ駄目か」
「流石にご主人様それは無理があるかと」
「……無茶」
まぁそうなんだろうけどな。
でも、だったら仕方ないか。
というわけで扉を――殴る!
ドォオオォオオオン! というけたたましい音がして、俺の目の前の扉が粉々に粉砕された。
「な、なな! なんだ! どういうつもりだ!」
部屋にはいると、三〇代ぐらいの金髪の男が慄きながら叫びあげてきた。
結構若いな。
「ご、ご主人様これ、大丈夫でしょうか? 間違ってましたではちょっと洒落に……」
「……大罪人……逃亡生活……望む所」
セイラは肝が座ってるな。メリッサはちょっと心配が過ぎるけど。
「誰か! 誰かおらぬか! 曲者が屋敷内に入り込んでいるのだぞ!」
曲者扱いかよ。まぁ十分曲者か。
「どうかなされましたか!」
「むぅ! お前たち何者だ!」
「こんな堂々と伯爵様を狙うとは! いい度胸しているな!」
うん、まぁ、あたりまえだけど領主の親兵が三人飛んできたな。
「お前たち、とっととこの不届き者達を捕らえろ! きっと余の命を狙う為にきたに違いない」
「うん、まぁそれは違いないんだけどね」
「ご主人様そんなあっさり!」
「……肝が座ってて素敵」
メリッサは不安そうな、セイラはなんか無表情ながらも、俺に何か期待してるようなそんな雰囲気を感じる。
とはいえ……兵士を呼んでもらったのは普通に計算通りなんだよな。
て、わけでとりあえず。
「キャンセル!」
俺は領主に向けてスキルを放つ。
すると、は? と疑問の声を発して首を傾げたけどな。
「きゃん? 何をいっているのだ貴様は。まぁいい、さっさと、って……どうしたのだお前たち?」
領主は再度小首を傾げて駆けつけた兵を見やった。
兵たちの顔が驚愕に染まっているからだろうな。
うん、こいつ全然気がついてないな。
「お前、そこの窓ガラスに映る自分の姿見てみろよ」
仕方ないから俺がしっかり教えてやる。
するとさっきまで領主だったそいつは、部屋の窓ガラスに映る自分の姿をみて、あ!? と声を上げた。
「ば、馬鹿な! 俺の! 俺の変身が解けてるーーーーー!」
うん、変身をキャンセルしたからね。ちなみに本来なら、イベントアイテムの真実の鏡を使うとこなんだけど、手に入れるのも面倒だしな。
「そ! そんな!」
「領主様が魔物だったなんて!」
「俺達は騙されていたというのか!」
言うんだよ。ちなみにその正体は全身紫色のコウモリの顔をもった人型の魔物だ。
なんか飛膜も備わっているぽい。
「くそ! 人間ごときにこんなにあっさり見破られるとはな! だが! だったら貴様等全員この場で皆殺――」
「居合! キャンセル!」
「ぎゃひいぃいいぃい!」
領主の振りをしていた魔物の絶叫が屋敷中に広まった。
おかげで親兵だけでなく使用人も何事かと集まってきたようで、更にギャラリーが増える。
魔物は左脚を斬ったからか痛そうにしてるな。
「ところでここの本当の領主はどうしたんだ?」
「ん、んなもんとっくに喰っちまった、がぎいぃいいいいぃいい!」
なんとなく予想はしてたけど、聞くとやっぱ気分悪いから、左腕と右足もキャンセルで斬り落とす。
無様に床を転げまわってるな。
「ぢ、ちぐじょう……魔物のエリート、の、この、おで、が……」
魔物のエリート? これで? 大したことなさすぎだけどな。
「とりあえず三秒ね」
「は? さ、三秒?」
「三、ニ、一、キャンセル!」
「ぎひいぃいいいぃいい!」
残った右腕を斬った。
四肢をなくしたからか、転げまわることも出来ず、ジタバタ震えている。
後は首を斬れば終わり……な、筈無いじゃん、キャンセル!
「え? な、身体が治って、る?」
「怪我をキャンセルしたからな」
「キャンセ……よく判らんが馬鹿め! 敵を治療するなどぎゃぁああぁああぁあ!」
「もう三秒数え終わってたのに気づかなかったのかよてめぇ」
「な、ま、まさか――」
再び右腕を斬られてようやく気づいたみたいだな。
「さて、三秒後、次は何処を斬られたい?」
結局魔物の処刑を一〇〇回ほど繰り返したところで、もういいから、と周りから止められてしまった。
だから仕方ないから、その後はぶつぶつ煩い魔物の首を刎ねてとどめを刺した。
俺としては、もっと苦しませてから殺してもよかったんだけどな。
でも夢中になってて気が付かなかったけど、見に来てた使用人の中には床を汚しちゃった人もいたようだ。
なんか俺が振り返るとガタガタ震えだすメイドもいる始末だし。
「折角魔物を倒したのに失礼な話だよな本当」
「……いやご主人様。慣れてない人からみたらそれも当然かと……」
「……全員脆弱」
ちなみに流石に俺の奴隷は心が強い。
俺の行為を見ても平気なようだ。
てか親兵ってのも吐いたりしてるんだよな。どんだけだよ。
まぁそんなわけで、無事領主に成りすましていた魔物も倒し、当然その場にいた全員が証人であることから、俺たちが勝手に屋敷に入った事はお咎め無し、どころか一応は感謝もされた(何故か顔は引き攣ってたけど)わけで。
で、後で証明はお願いねと告げ、魔物の核を持ってギルドに戻った。
「――というわけで領主は魔物だったんだよ。じゃあこれその核ね」
「…………」
あれ? ニャーコちゃん固まってる?
「お~い大丈夫?」
「いえ……もうなんと言っていいか、とりあえずマスターに報告してきます……」
大きく溜め息を吐き出し、どこか諦めに近い表情を見せた後、ニャーコはマスターとやらに報告に行ってしまった。
「もっと凄い! とか言ってもらえると思ったのにな」
「……いや、ご主人様は確かに凄いのですが、規格外過ぎてついて行けていないのかと……」
「……私は尊敬」
そういえばメリッサにも、ニャーコと似たような対応されてる気がするな……
判ってくれるのはセイラだけか! 夜はたっぷり可愛がってやろう。
「ヒット様、とりあえず二階のマスターの部屋に行ってもらえますか?」
戻ってきたニャーコにそんな事を言われたけどな。
「え? 行かないと駄目なの?」
「事態が事態だけにお願いします」
なんだ、めんどいな。あんな小煩さそうなおっさんと顔つき合わせていても嬉しくないけど……まぁしょうがないか。
「おい、あいつマスターの部屋に呼ばれたらしいぜ……」
「しかもなんか断ろうとしてなかったか?」
「なにもんだよあいつ……」
「ばかお前ら! あれがあれだよ、オークの集団を倒した化け物の……」
誰が化け物だこら! しっかり聞こえてるぞ!
「たくっ、油断すると変な噂がたってたりするんだからまいるよな」
「そ、そうですね」
「……英雄の定め」
英雄か、そう言われるなら悪い気はしないんだけどな。
「……まさか本当に領主様が魔物だったとはな。しかもそれをたった一人で解決してくるとは――」
部屋に赴いた俺達の顔を見て、マスターは溜息混じりにそういった。
なんか皆反応が色々おかしくないか?
ちなみにマスターの部屋はこじんまりとした執務室って感じだ。
マスターの座ってる机は流石に中々立派だけどな。
「とりあえず今回の件は、流石に私だけの判断では色々と決めかねる。報酬やランクの件も含めて王都のマスターに報告し、更に領主の件は王の耳にも入る事になるだろう」
ふ~ん、どうやらギルドマスターというのはそれぞれの街のギルドにいるらしいな。
で、王都はその中でも一番でかくて権限が強いようだ。
「恐らく……というかほぼ間違いなくお主には王都に赴いてもらう事になると思う。それだけは念頭に入れておいてくれ」
「王都にね。了解」
「……何か軽いなお前」
そうか? こんなもんだろ。
「話は以上だ、それと正式には後での通知となるが、仮としてランクはCランクと設定させてもらう。仮なのでカードには登録しないが、下にはもう伝えてあるからな、この領内限定でCランクまでの活動も可能だが……かといってあまり荒らし回らないでくれよ?」
荒らすって何だよ! 全く失礼な。
まぁいいや、とりあえずそんなわけでギルドマスターの部屋は一旦後にした。
今回の件は領主のフリしていた魔物に関しては報酬は後回し、オークの集団に関してはオーク討伐分としては一五〇〇万ゴルドの稼ぎとなった。
……まぁこんなもんか。日本円にしたら一億五千万だけどな。
でもまぁ流石にこれだけ稼いだら今日はもういいかってなもので、宿に戻って飯食って風呂入って、サクッと夜の営みはキャンセル! て事で寝た。
メリッサにはしっかりお仕置きしたけどね――
さくっと領主も殺しました
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