第三十三話 一斉婚約
あの後は特に問題なく王都についた。
で、国王であるパパさんと王后のママさんに挨拶。
「アンジュ、ヒット様と上手くやってるようですね」
「うむ、意外と早く婚約までこぎつけて世は満足であるぞ!」
「もう、父上も母上も……」
アンジュが頬を染めて照れくさそうに言う。
まぁでも流石に俺との仲を否定することはもうないね。
で、他の皆も一緒に食事に招待されたりしながら次の日の予定を話して、その日は王宮で寝た。
流石に王宮ではやってないけどね。
それぐらいはわきまえてるつもりさ。
「ヒットよ、此度のガルグ王国アーツ所領におけるそなたの功績を讃え、ここに勲章を授ける――」
ガルグ国王がそれを読み上げて、后様が俺に勲章を付けてくれた。
アンジュのママいい匂いすんだよなぁ……ぶっちゃけ綺麗だし。
流石に手は出せないけど。
「更にヒットには伯爵の位とアーツ地方における領主に任命することをここに宣言する――」
「謹んで拝命いたします」
国王から剣で肩を叩かれ、俺が返事する事で周囲から、お~、という歓声にも似た響き。
ただ中にはやはり面白く無い顔をしているのもいる。
まぁやっかみという奴だろうな。
というわけで無事叙勲式兼叙爵と領主任命まで終わったが、更に国王兼義父であるウィンが悪戯っ子のような笑みを零し。
「さて、ここからが最も重要な事であるが……ここに! ウィン・ガルグ・クロースの名のもとにヒット卿と我が娘であるアンジュ・クロースとが婚約を果たしたこともご報告しよう! ヒットよお主は今日より我が息子と一緒、今後はヒット・アーツ・クロースを名乗るが良いぞ」
にこにことパパさんとママさんが告げ、アンジュもすぐとなりに手招きされて顔が真っ赤だ。
ただ、その場はやはりざわめきだした。
「噂は本当だったのか……」
「てかアンジュ様ってあんなに綺麗だったのか……」
「しかし一介の冒険者だった男にこれはいくらなんでも……」
まぁやっぱ納得がいかないって貴族の声も聞こえてくるな。
予想はついていたけど。
「陛下、例の件も……」
そして、俺がパパさんにそう耳打ちするようにしていうと、おおそうであった、と笑顔で頷き。
「さて、まだ一つ言うことがあったな。うむ、メリッサ、セイラ、イームネ、カラーナ、そしてエリンちゃんも一緒に、さぁこちらへ」
というわけで国王に招かれ、俺を中心に全員が横に並んだ。
それを見ていた王侯貴族達が、なんだなんだ? と目を丸くさせている。
「さて、ここでもう一つ大事な事を発表しよう。本日我が娘アンジュ・クロースと同じく、ここに招いたメリッサ、セイラ、イームネ、カラーナの四人の美しき娘たちもヒット・アーツ・クロース伯爵と正式に婚約を結ぶ事とし、婚礼の儀は我が名のもとに全員同時に執り行う事をここに誓おうぞ!」
「「「「「「「「「……は?」」」」」」」」」
その場にいる貴族たちのほぼ全員の声が揃ったな。
言っている意味がよくわからないって顔だし。
「……あ、あの、それはアンジュ殿下を除いた四人は側室としてって意味ですよね?」
「いえいえ、そこはヒット様の希望に沿い、全員同列としての扱いとなるのですよ」
ママさんがニコニコの相変わらずの和やかムードで説明するけどね。
「……それはつまり、アンジュ殿下と同じく他の娘達も正妻として迎え入れるって事なのかな?」
「うむ、そうなるな」
「私はとてもとても皆に序列を付けるなんてことは出来ませんからね。ここにいる皆を私は同じように愛していきたい」
パパさんが頷き、俺がそれに自分なりの理由を付け加える。
けど、まぁやっぱり。
「……ふ、ふざけるなーーーー!」
「陛下! いくらなんでもこれはありえませんぞ!」
「貴様! 国王陛下の愛娘たる第二王女アンジュ殿下を愚弄する気か!」
あ~やっぱり簡単には納得してくれないか~。
「え~い静まれ! 大体私の気持ちも知らず勝手な事を言うな!」
「いや、しかしアンジュ殿下」
「黙れと言っている! 第一この事は私も納得の上での事だ」
「……私は流石に無茶だと思ってたんですけどね」
「……ご主人様の正妻、婚約……もう、死んでもいい」
死んだら駄目だよセイラ。
「これで妾も正式にヒットの妻なのじゃ!」
うん、まぁまだ婚約段階ではあるけどね。
「……なんかうち受け入れきれへんかも……」
今更だよカラーナ。
「凄いなの! ママが凄く増えるなの!」
そうだねエリ~ン。あぁ愛らしい笑顔、パパはメロメロです!
「……しかしアンジュ殿下、いくらそう言われても王国には王国の習わしというものがあります」
「そうですぞ。ましてやそこに並んでいるもの内のふたりは、奴隷であろう? 王族と奴隷が同じ扱いなど、とてもとても」
「全く前代未聞だ!」
「敢えて言わせてもらうが陛下、これはいくらなんでも些か問題が多すぎですぞ。このような恥知らずな決断、他国にでも知られたら、陛下の名を貶める事に……」
「つまり、皆の知ってる常識や慣わしで言えば、とんでもない事だという事かな?」
俺が確認するように問う。すると貴族たちが堰を切ったように声を荒げだした。
「当たり前だろう! この恥知らずが!」
「なんたる無知、これだから冒険者という連中は信用ならん!」
「全くだ、貴様も何を平然といっているのか! そもそも一介の冒険者と王国の姫が一緒になるというだけでも常識はずれだというのに――」
「あっそ。だったらその常識――全てキャンセル!」
俺がそう告げると、一様に目をパチクリさせて。
「は、はぁ? キャンセル? 一体何を言って。第一、だい、いち?」
「うむ、よく考えたらこれも中々良い話ではないか?」
「うむ、どうやら我々は古い常識や慣習にとらわれすぎていたようですな」
「寧ろこれからは、貴族たるもの新しい世代の考えを積極的に取り入れていくべきだろう」
「ヒット卿は見事、我々に新しい道を切り開いて見せてくれた!」
「うむ! 流石魔物の手からアーツ領を救った英雄だ!」
「「「「「「「「「ヒット様バンザーーーーイ!」」」」」」」」」
うん、自分で言うのもなんだけど凄い手のひら返しだ。
「うむ、流石ヒットである! これだけの批判の声を瞬時に覆し、ここまで賛同を得るとは……やはり私の睨んだ通り、ヒットの器は計り知れぬわ!」
「このような素敵な御方と一緒になれてアンジュは幸せものです」
「も、もう父上も、母上も」
「……てかご主人様、さてはまたやりましたね?」
「え~いいじゃん。そのおかげで丸く収まったんだし」
メリッサが、はぁ、と呆れたように溜め息を吐き出した。
まぁでも俺と無事一緒になれることはまんざらでもなさそうだね。
まぁなにはともあれ、これで無事婚約会見も終了! 後は日取りを決めて正式に契を結んでってとこかな。
これからは領主の仕事も待ってるしいろいろ大変な事も多そうだけど、まぁでも皆の力があれば俺はきっとだいじょ……
「た、大変でございます陛下ーーーーーー!」
と、なんだよ~上手くまとめようと思ったら、なんか騎士然って感じの男が大慌てで会場にやってきたな~。
「なんだ騒々しい。今は大事な儀式の最中であるぞ。よっぽどのことがない限り」
「そのよっぽどが、一大事なのですよ! 陛下お聞き下さい! さ、先ほどあのセイフク帝国が、わ、わがガルグ王国に宣戦布告の書状を送りつけて参りました!」
「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」」
王侯貴族が一様に声を揃えたな。
てか、宣戦布告?




