第三十二話 フラグ
「ぴゃぴゃ~みて~人がゴミのようなの!」
「エリンどこでそんな言葉を! パパ心配です!」
全く誰だこんな事をエリンに教えたのは! ぷんぷん!
「お言葉ですがご主人様。これはエリンが眠る前にご主人様が聞かせてあげた物語を覚えた影響ですよ」
「……」
いや! 確かに聞かせたけど! 天空の城的なのを聞かせたけど~もっといい名言があったじゃ~ん。
と、言うわけで、今オレたちは王都に向けて迎えに来てくれたペガサス馬車で向かっている。
なんか叙勲式と一緒に叙爵と領主任命と正式なアンジュとの婚約発表やってしまうようだ。
仮だったんだけど、結局やることやっちゃったから、もう正式に婚約結んじゃおうかって話になったんだよね。
まぁそれには俺もいろいろ条件出しちゃったけど、あのパパさんノリいいからあっさり快諾してくれたしな。
「……ご主人様と空の旅、し・あ・わ・せ」
無表情なのになんかうっとりしてるようにみえるなセイラ。
「ペガサスというのは凄いのじゃ! 妾こんなに高いところは初めてなのじゃ! ヒットとするときぐらい気持ちいいのじゃ!」
まぁ俺は何度も昇天させてるしね。
「……いや、ぽろっと何とんでもない事いうとんの?」
そんな事いいながらカラーナもベッドの上じゃ飛びまくってるけどな!
「ヒット、その、私は幸せだ。だが、今度できればペガサスでふたりきりで、その……」
指と指を絡ませてモジモジしながらアンジュが言ってる。
何この姫様愛らしい!
「全くお前は本当に節操ないのう。姫様だけじゃあきたらずこんな……」
で、何故か一緒に迎えに来たロアンが嘆くように言った。
てか、なんで彼女がと思ったけど、この馬車は二十人ぐらい乗れる特別仕様。
流石国王の愛娘であるアンジュが乗るだけに、護衛として騎士と腕利きの冒険者が同乗しているわけだ。
で、冒険者の代表として付いてきたとかロワンは言ってる。
それでいいのかギルドマスター。
まぁついでにうちのギルドの視察も兼ねてとか言ってたけど。
あのギルドの爺さんもロワンの前ではヘコヘコしてたもんな~見た目幼女なのに。
「大体空の旅やのに、そんな襲われることなんかそうそうないやろ」
カラーナがそんな事を言い出したけど、これって――
「……カラーナ、ご主人様から教えてもらった知識に寄るとそれは――」
「フラグなの! フラグが立ったなの!」
どんどん知識を吸収するエリンの将来が楽しみです!
「おい、なんだあれば!」
「大変ですロワン様! 外を包囲する魔物が!」
「…………うちのせい?」
カラーナが泣きそうな顔で言った。でもその表情はわりとくるものがあるな~
「……早速」
「全く、折角のヒットとの空の旅を邪魔するとは無粋な連中じゃ」
「で? こんな空に一体どんな魔物がやってきたというのだ? ガーゴイルか何かか?」
「は、はい! それがワイバーンが空一面、恐らく一万匹ほど!」
「「「「「はぁ~~~~~~!?」」」」」
「ば、馬鹿な! ワイバーンといえば空のハンターと有名な飛竜! しかし王国には生息しないはずではないか!」
うん、ロワン解説ご苦労様。
「し、しかし事実です! それが空一面を覆い尽くす程に!」
「ワイバーンといえば、Aランク冒険者が数人がかりでようやく一匹倒せるといったレベルではないか!」
「いくらなんでも多すぎるこれでは……」
「え~いビビるな! 弓を持て! 我ら王国騎士団! なんとしてもアンジュ様とヒット様ご一行をお守りするのだ!」
「いや、そんな危険おかさなくてもいいよ」
「「「「「「へ?」」」」」」
護衛にきてた騎士とか冒険者とかが唖然と目を丸くさせた。
「ヒット! 私も手伝うぞ!」
「……ご主人様の為、死も厭わない」
「仕方ないですね、ご主人様、私も賜ったこのエロスカリバーで」
「妾の闇魔法も忘れるでないぞ」
「う、うちもこのナイフで……」
「エリンも精霊さんでぶっ飛ばすなの!」
エリン……すっかり逞しくなって……みんなもその気持は嬉しい。
でも――
「いや、ここは俺一人で大丈夫。それに、大事な妻になる予定のみんなを危険な目にあわせられないしね」
俺がそう告げると一様に顔を真赤にさせてもじもじしだした。
やだ、もう纏めて抱きたい。色んな意味で。
と、いうわけで俺は馬車の戸を開けて、コマツクンを携えて屋根の上にサクッと移動する。
うわ~ペガサスめっちゃビビってる。ブルブル震えてるし。
まぁ凄い量だしな。本当ワイバーンに囲まれててここまでいくと壮観ですらある。
でも――
「ヒット! いくらなんでも無茶なのだ! たった一人でワイバーン一万匹など――」
「真空破斬・万閃――キャンセル!」
「「「「「「「「「「「「グギャァアアァアァアアアアアァアアァアァアアァア」」」」」」」」」」」」
「……へ?」
ロワンが目をまん丸くさせて固まってる。
まぁ一万のワイバーンが瞬時にして挽肉に変わればそうもなるか。
あ、でもワイバーンの肉って旨いのかな?
回収できないのはちょっと残念かも。
「……ご主人様人外を超えた人外」
どんな人外!?
「忘れてました。そうですね、ワイバーン一万匹程度で心配した私が馬鹿でした」
メリッサ褒めてくれてるんだよね?
「と、飛べないワイバーンはただのワイバーンなの!」
それはちょっと無理があるな~エリ~ン。
「うち、とんでもない化物と結ばれてもうたんやな……」
カラーナからも化物扱い!?
「流石ヒットなのじゃ! こうなったら一緒に魔王を目指すのじゃ!」
いや、それは遠慮しておくよイームネ。
「む、むぅ、これはなんというか、いや、わ、私は全てを受け入れるからな!」
アンジュの戸惑い方が凄いな!
まぁそんなわけで、サクッとワイバーンも倒して、これで後は王都まで平和な旅に――
「ほぅ、私の用意したワイバーンをこうもあっさり。どうやら我が魔族の同胞である、ギャアあぁああぁああぁあぁあぁあ!」
「ヒットぉおぉぉおおぉおお! 何しとるのじゃ~~~~!」
「あ、ごめん。あまりに怪しかったからつい斬っちゃった」
てへっ、と後頭部を擦りながら指をぶんぶん振り回すロワンに告げた。
だって、なんか蝙蝠みたいな翼を生やして角まで生やして肌も青白いし瞳も黒くてキモかったんだもんな~
うん、これは仕方ないね。
と、言うわけで今度こそペガサス馬車が順調に王都に向かう。
気のせいかペガサスの俺を見る目が熱かった気がしたけどな。
「ペガサスの雌まで惚れさせるとは、とんだ女殺しだなお前は……」
ロワンがすっかり呆れた目で俺を見てきたけど気にしな~い――




