第三〇話 ドワンゴ商会
ヤカラ村の件もあっさり片付いた俺達は、その日は歓喜する村人に、御持て成しを受けた。
なんだか知らないけど凄いはしゃぎようで、新しい領主様は神の使徒だ! とさえ騒がれる始末。
いや、ただ川を引っ張っただけなんだけどね一瞬で。
「おら! おら! 領主様に村長に任命された事が一生の誇りだ! 末代まで語り継ぐだよ!」
ゴロンも涙ながらにそんな事を訴えてきた。
村の娘に囲まれて、愛人でもいいから! とか凄い迫られたりもした。
中々よさ気な子もいたけど、アンジュやセイラの目が怖かったから流石にやんわり断ったけどね。
イームネは、男の甲斐性じゃ! 妾はもう気にせんぞ! とか言ってたけど、まぁあまり増やしても大変だしね。
ちなみにメリッサは終始呆れ顔だった。なんでだよ!
そんなわけで色々あったけど、泊まっていってくれという申し出に関しては断らせてもらう。
エリンに会えないなんてあり得ないしね!
で、残念そうな村人たちに、また様子を見に来るから、と上手く誤魔化し俺達は屋敷に戻った。
そこは流石にキャンセルでね。
「ぴゃぴゃ~お仕事お疲れ様なの~」
帰ったらパタパタとエリンが出迎えてくれた。
あ~癒される~仕事の疲れも吹き飛ぶね!
「ところで、みんなして何処行ってたんや?」
「……川が干上がって困ってる村に趣き、一瞬でご主人様が川を引き直して村人に感謝されてきました」
「……相変わらず無茶苦茶やな」
なんでカラーナまで呆れ顔!
「うむ! しかし此度のヒットの仕事ぶりは、盟主たる実力を皆に知らしめる事間違いないであろ! わ、私はそんなヒットの、ヒットの、つ、妻に慣れる事を誇りに――」
「本当なのじゃーー! やはりヒットは最高なのじゃ! 流石妾が認めた男なのじゃ!」
うわっぷ! 急に飛びついてくるなよ! おっぱいが! ご馳走様です。
「……ご主人様、伝説になる」
「と、というかイームネはくっつきすぎだろ!」
う~ん相変わらずもみくちゃにされたけど、まぁそんなわけで今日の仕事は無事終わって、夜の仕事もキャンセル! というわけでしっかり働いた。
◇◆◇
「旦那様。ドワンゴ殿がお見えでございます」
執事のセバスチャンがそんな事を伝えてきた。
そういえば今日は約束の日だったな。
「ぴゃぴゃ~エリンも一緒なの!」
「おお~そうだな~じゃあエリンも一緒に謁見しよう!」
「……エリン、恐ろしい子」
「うちもえぇの?」
「妾は常にヒットと一緒じゃ! 今日は講義も休みなのじゃ!」
「そういえばご主人様が週休二日制を導入されたのですね」
「うむ、休日にしっかり休む事で、次の日からの仕事が捗る。このような考え、並の貴族では思いつきもしない。流石盟主たるヒットだ!」
俺のいた世界じゃ割りと当たり前なんだけどね。ブラックな企業を除けば。
まぁそんなわけで学校も今日は休みだ。
扱いとしては今日は日曜日って事になってる形だな。
曜日という感覚がないから説明がちょっと大変だったけど、セバスチャンがさくっと理解してくれて助かった。
本当優秀だよ彼。
というわけで、折角だし皆で謁見に立ち会う事にする。
よく考えたら俺働いてるじゃんって気もするけど、この約束は休みの導入前の話だから仕方ないね。
◇◆◇
「お初にお目にかかります。私はドワンゴ商会を取りまとめておりますトルネロ・ドワンゴともうします。以後お見知り置きを……いや、しかしお噂はかねがね耳にしておりましたが、若くして既に盟主たる実力を発揮されていられるとか、いや全く、いやどうりでこの若さでその精悍さ、後光が指しているようで私まともに目を合わせるのも躊躇われてしまいます」
……なんかべらべらよく喋る男だなぁ。
年齢的には四〇代ぐらいの随分と腹の出たおっさんだ。
ガマガエルみたいな顔をしていて、なんかどうみても善人には見えないな……まぁ見た目で判断しては駄目なんだろうけど。
「それで、私にわざわざ謁見の申し立てをして来たみたいだが、一体どのような要件だ?」
俺は精一杯のそれらしい言葉を並べて、さっさと話の本題に入る。
そもそもわざわざ会いに来るぐらいだから、当然何か用があっての事だろう。
「いやいや流石は新しい領主様は話が早くて助かります……では早速ではありますが、実は此度お目通りをお願いしたのは、以前と同じように少々商売の方で便宜を図って頂ければと思いましてな」
ニヤリと不気味に唇を歪めて、そんな事を言ってきた。
便宜? つまり優遇しろって事か?
「こいつ……」
するとアンジュがあからさまな不快感漂う声音で呟く。
相変わらず真面目だな。でもとりあえずどういうことか知りたいし、アンジュには手で抑えるよう合図した。
近くにいたメリッサが俺の言いたいことに気がついたのか、ここは抑えて下さい、と宥めている。
「で? なんで私がお前に便宜を図る必要がある? 前の領主がどうしていたかは知らないが、私には私のやり方があるからな。いきなりこられて便宜を図れと言われても困るぞ」
とりあえず俺は、少しだけ語気を強めて、目の前の蛙豚に言い放った。
見た目蛙だし腹は豚そのものだしな。
「ははっ、いやいや、確かにそうでしたな。えぇ、えぇ、判っておりますとも。そう思いまして、しっかり奉納品をご用意しております――」
そこまで言った後、何故か蛙豚は俺の周りに控えている女性陣を値踏みするように見だした。
こいつ軽く不敬じゃね?
おまけに何故かエリンの前で目が止まり、ニヤ~、と気色悪い笑みを零した。
やべぇ殴りたい。
「……ぴゃぴゃ、気持ち悪いなの……」
エリンが泣きそうな声で口にし、セイラが宥めてくれた。
エリンを怖がらすなんてそれだけで死刑ものですよ!
「くくっ、いやいやしかし、領主様とは趣味が合いそうです。きっと気に入って貰えると思いますよ。では早速ご用意させて頂いても宜しいでしょうか? すぐドアの外で待たせてますので」
「…………」
今ので俺の何が判ったんだ?
それにセバスチャンも神妙な面持ちだ。
まぁよくわからないけど、くれると言うなら見るだけ見てみるかな。
だから俺は頷いて了承する。
「許可が出ましたな。さぁ、では入ってまいれ。粗相のないようにな」
すると蛙豚が、パン、パン、と手を叩き、入り口の扉が開かれ、ぞろぞろと一〇人ほどの男女が入ってきた。
なんだこれ? しかも一様に首輪が填められている。
う~ん、つまりこれって……
「いかがですかな? うちでも上質な品をしっかり見極め選ばせて頂きましたぞ。領主様の趣味がまだ把握しきれていないので、念のため美少年も混ぜてありますが、気に入らなければ拷問でもなんでも好きに遊んでやって下さい。勿論そこのエルフのようにしっかり幼女も揃えております。人間だけではなく獣人もおりますし、全て生娘……勿論男もそっちの意味でまだ経験はございません」
……あ~なるほど。そういうことね。
つまりこいつは――
「き、貴様! 一体どういうつもりだ! よりにもよって奉納品としてそのような……この!」
「待てアンジュ」
俺は威圧を込めてアンジュを制する。
しかしヒット、と不満そうに述べるけど、俺が睨むようにみやると何も言わなくなった。
……ちょっと罪悪感。でもあまり感情的になってもな。
こっちも一応色々確認しないといけないし。
「ははっ、流石ヒット卿はよく判ってらっしゃる。どうやら奴隷の扱いも随分と心得ているようですな」
急に馴れ馴れしくなった気もするな。
それに……もしかしてこいつアンジュの事も俺の奴隷だと思ってる?
すげぇな……それ一つとっても……まぁいいか。
「一つ確認だが、その奴隷は正規の手続きで連れてきた奴隷か?」
「……ははっ、ご冗談が上手いですな。勿論正規ではありませんぞ。そこのエルフと一緒です。子供は本来奴隷に出来ない、それを判ったうえで領主様もソレを玩具にしてるのですよね? そうでなければ人里にめったに現れないエルフの子供など手に入れられませんからな」
うん、まぁそうかなと思ったけどね。
「ちなみに、もしよければこちらでカスタマイズも行いますぞ。必要なければ四肢も切断致しますし、口を別の口に変えたりも可能です」
揉み手をしながらとんでもないなこいつ。
後ろの皆も普通に引いてるし。
俺も正直これ以上聞きたくないけど、一つだけ、どうしても確認する必要がある。
「今、エルフは手に入れられないといったが、お前のところなら手に入るのだろう?」
見たところここに連れてきた中にエルフはいない。
ただ、エリンの事もあるから訊いてみる。
「えぇ、まぁ確かに。あぁなるほど、エルフが趣味でしたか。ふふっ、確かにエルフの里を襲えるような腕利きを抱えているのは、王国中を探してもわがドワンゴ商会ぐらいのものですからな。残念ながらエルフは人気ですぐ売れてしまうため、今は在庫がありませんが、少しお時間を頂ければ――」
「最近どこかの村を襲ったか?」
俺が豚蛙の話を聞き終える前に質問を重ねたら、は? と発し。
「あぁ。そうですそうです。よくご存知で。確かに襲わせました。ただ残念なことに貴重なエルフの子供を逃がしたようで、すぐに追ってを差し向けたのですがお恥ずかしい話でとり……」
「うん、判った、もういいや。お前死刑ね」
俺がそう宣告すると、蛙豚は、はっ? と間の抜けた顔を見せてきた――
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サムガン~異世界のサムライとガンマン~
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