第二六話 お前は誰だ!
「で? お前一体何? なんで俺の屋敷を覗き見してるわけ?」
腰に帯刀していたコマツクンに手をかけつつ、俺は目の前の角人に聞いてみた。
まぁどうせろくな奴じゃないんだろうけど。
「……わ、私は、私は! 旅人だ!」
……はい?
「旅人?」
「そ、そうだ! 少々道に迷ってしまってな。そしたらば随分と立派な門構えの屋敷が見えたのでな。おまけにそこに街もあるではないか。だからそのルートを確認していたのだ」
「あ~なるほど。そういう事なのね」
「うむ、そういう事なのだ。いやしかし、貴殿のおかげで街に人がいる事も判ったしな。ではこれから向かうとしようさらばだ!」
「うん、頑張ってねぇ~」
と、いうわけで角男は俺に背を向けて足早に立ち去ろうとするけど。
「せいっ!」
「ぐぼらぁぁああぁああぁああぁ!」
男の背中に向けてドロップキックかましました。
そしたら派手に転がっていって樹の幹に当って止まった。
俺を見上げて困惑の表情。てか意外と丈夫だな。
「き、貴様何をする!」
「いやだって怪しすぎだし」
「くっ! だから言っているだろう旅人だと!」
「額に角はやして、こんな真夜中にじ~と俺の屋敷を盗み見しておいて、よくそれで誤魔化せると思ったな。てか、そもそもあんた人間じゃないよね? かといって亞人でもエルフでもなさそうだし、普通に怪しいんだよ」
くっ! と唇を噛みしめる。
「まさかチャームポイントの角が仇になるとはな……」
チャームポイントだったのかよ。
「てか、元の領主を食って成り代わってた魔物の事もあんたの仕業なんだろ?」
「な!? 貴様なんでそれを!」
「あ、やっぱそうだったんだ。確信はしてなかったけど今のでもう確信に変わったよ」
あがっ! と間抜けに口を開く角男。
「ゆ、誘導尋問とは卑怯だぞ!」
そして指をブンブン振り回して抗議してくる。
今の立場判ってんのかこいつ?
「で? お前は誰の指図でこんな事してんの? どう考えても単独犯じゃないよな?」
若干の殺気を込めて問い詰める。
すると、むぅ、と一つ唸って立ち上がり俺の事を睨み返してきた。
中々生意気だけど、少しとはいえ俺の殺気を受けても怯まない辺り、これまでの敵よりは実力はありそうだ。
「ふん! 魔族の私が何故貴様なんぞの質問に答える必要がある! 舐めるなよ小僧!」
「てか魔族なんだあんた」
「ぬぐぉおおおぉお! 貴様何故それを!?」
あ、こいつアホだ。
「まさかそこに気づかれるとはな。だがそれを知られた以上、このまま黙って見過ごすわけにはいかなくなったぞ!」
「いや逃げようとしてたのお前だろ」
「覚悟しろよ小僧! この魔族一の策士と称された私に掛かれば貴様などちょちょいのちょいよ!」
話聞けよ。てか、こんなんのが策士って魔族とやらは大丈夫か?
「喰らえ! 我が手にあつまるは闇の雷――打ち砕け! ダークライジングインパクトサンダーストライクゴールド!」
なげーよ! と突っ込もうとしたら黒い雷が落ちてきて俺の視界を覆った。
「ぬははははっは! どうだライジングサンダーダークインパクトゴールドストライクの味は? といっても跡形も無いだろうけどな。くくっ……」
「いや、てかなんか名前変わってるし。覚えられないなら無理して長いネーミングにするなよ」
「なにーーーーーー!」
目玉が飛び出そうな勢いで……いや、実際目玉が飛び出たな、どういう仕掛けなんだ。
「全く。てか、試しにキャンセルなしで受けてみたけど、長ったらしい名前の割に全然大したことないな」
「ば、馬鹿な事を言うな! この魔法はあのオークですら一撃で一〇〇〇匹を葬る威力があるのだぞ!」
いや、それ全然大したことないし。まぁ俺だからだろうけど。
「一つ聞くけど今のがあんたの最大の魔法?」
「え? ……あ、はは、何を馬鹿な! 勿論あれだ! 私にはあれだ! もっと凄いのが、あ、る!」
今のが最大か。
「まぁとりあえずまだ聞きたいこともあるし手加減はしてやるよ。【居合骨砕】! キャンセル!」
「ぐがぁああぁああああぁあぁ!」
はい、これで終わりと。居合で全身の骨を砕いたからね。
角も砕けたけど、まぁでも喋れる程度には加減してある。
「あ、あうぅぅう」
「さてっと、で、もう一度聞くけど、あんたの後ろには誰がいんの?」
「ぐぅ、だ、だれが、口が裂けても、仲間の、情報は、売らん」
「じゃあ拷問かけちゃうけど?」
「いう、いう、いう、だか、ら、ゆるし、て」
俺が言うのも何だけどこいつ最低だな。
「わ、我々、魔族は、魔王様の命令の下、てい、ぐぅ! げはぁ!」
うわ! ばっち! なんだ? 突然魔族の身体が弾け飛んだ!?
あ~あ、なんだよこれ、うわ……グチョグチョだな――流石にこれはキャンセルでも無理か。
ふぅ、とりあえず周囲の気配を探るけど……特に怪しいのは感じられないな。
まぁそんなのが近づいてきてたら、気づく自信はあるしな~
と、なると、どこか離れた場所からこいつを殺ったって事か。
仲間でも容赦無いんだな。
まぁこいつも中々最低だったけど。
ふむ、どうしようかな……といっても他にできる事もないしな。
唯一聞き取れたのは魔王様って言葉だけか。
魔王ってやっぱあれだよな~ゲームなんかでラスボスのだよね。
う~ん、やっぱそういうのがいるんだな……なんか面倒な事になりそうだけど、ふぅ、ま、とりあえず屋敷に戻るとしますか。
◇◆◇
「ぴゃぴゃおはよーなの!」
「あぁおはようエリン」
朝、エリンの声で目覚めた。
俺の上に乗っかってくるエリンが愛らしい。
何か色々癒やされる思いだな!
とりあえず抱きしめて頭を撫でてほっぺをスリスリ擦る。
「ぴゃぴゃ擽ったいなの~」
「え~だってエリンが可愛いんだもん。う~んよしよし」
俺が更に小さな頭を撫で撫でするとコロコロと表情を変えて喜んでくる。
う~ん至福の時間。
「あの、ご主人様。朝食の準備が整いましたので親馬鹿もいい加減にして下りてきてください」
いつの間にか部屋に入ってきていたメリッサがそんな事を言う。
う~ん、クール。
「昨日はベッドの上で喜んでたくせに~」
「な、何を言ってるんですかエリンちゃんの前で!」
怒られた、ちょっと反省。
「ぴゃぴゃと側室さんが夜の情事なの!」
また新しい言葉を!? パパは心配です!
「ヒット~~~~! おはようなのじゃーーーー!」
食堂に向かったら早々にイームネが俺の腕に飛びついてきた。
う~んモーニングおっぱいは、やっぱりいいね。
なんかあいつの気持ちがちょっと判るな。元気かなあいつ。
「……馴れ馴れしい」
他のメイドと一緒に食事の準備を進めていたセイラが無表情で唇を噛みしめる。
なんかドス黒いのが背中から滲み出てるような……
「セイラおはよう。てかセイラも仕事を?」
「……ご主人様の料理を作る、奴隷メイドの仕事、嗜み」
「そっかぁ。でもセイラだって時期がくれば俺と一緒になるんだし、立場でいったらあんまりそっちに携わるのはね。まぁその辺はまた話して決めていこうか」
「……一緒に、ご主人様と、ふぁ……」
うん? なんか固まっちゃった? お~い大丈夫か~?
「旦那様の言うとおりでございます。セイラ様もメリッサ様もこのような仕事は私達にお任せ頂ければ、奥方様の手を煩わすのは申し訳なく思いますので」
「そ、そうですか? では、お任せするように致しますね」
メリッサは上手いこと良い距離感を保ってる感じかな。
「ヒット! 勿論妾も――」
「当たり前だろ? イームネともずっと一緒だよ」
「嬉しいのじゃ!」
「うぷぅ!」
イームネが胸を顔に押し付けてきた。
う~ん柔らかい。
「コホン、ひ、ヒット、おはよう」
「おはよう。てかなんか固いね~あ、勿論アンジュも妻になるわけだからね」
「あ、あぁ、そ、そうか、そうだな、何せ私の、私の、ふぁ!?」
あ、アンジュも湯気出して思考停止しちゃった。昨日の事思い出しちゃったのかな?
う~ん可愛らしい。
「……うぅ、うちもなんかついつい、うぅぅう」
カラーナが一人身悶えてるな~話しかけても聞こえてないみたいだ。
「みゃみゃがいっぱいなの! 賑やかな朝なの!」
「うんうんそうだね~エリ~ン」
(((((……親バカ)))))
うん? なんか視線が痛いような?
まぁいいか。
そんなわけで準備も整ったし朝食を食べる。
メリッサとセイラも手伝ってるだけに凄い旨い。
パンも自家製の焼き立てだ。
「もぐもぐ、う~んデリシャス! あ、そうだ昨晩なんか魔族ってのが来てたんだよね~」
「ほぅ魔族がか」
「魔族が何のようやろね」
「……魔族?」
「ふむ、魔族……聞いたことあるような響きじゃのう」
「いや、というか」
「「「「「はぁ? 魔族ーーーーーー!?」」」」」
「そうだけどどうかした?」
「どうかしたではないぞヒット! 本当に、本当に魔族だったのか!? それでその魔族は一体どうなったのだ!」
「うん、さくっと倒しておいた」
「「「「「えええぇええぇえぇえぇえ!?」」」」」
なんかみんな驚き過ぎだなぁ~まぁ倒したと言ってもとどめを刺したのは他の誰かだけどね――




