第二一話 アーツの領主
「さて、無事アンジュも嫁に行くことが決まったわけだが」
「よめ……ち、父上! 私はまだそうと決めたわけでは!」
「そうですよ貴方。本当に気が早い。孫の顔を見るのはもう少し待たないと」
「母上まで何を!」
アンジュもなんか色々大変そうだな~。
でも孫か、つまり俺にとっての子供って事だよな。
確かに結婚するとなるとそれも考える必要があるのか……メリッサやセイラ、カラーナとそれにイームネもいるし……あ? でもヴァンパイアとのあいだに子供って出来るんのかな? う~ん?
まぁいっかそのへんはおいおいでも。
「なんか、うちまで妙なメンツに入れられてる気がするのは気のせいなん?」
あ、すっかり入れてた。まぁ間違いにと思うしね。
「娘のエリンの事もあるし、六人で暮らすとなると、そろそろ住む家の事も考えないと駄目かなやっぱり」
「六人ってやっぱりうち頭数に入れられてる!」
「ご主人様との愛の巣……ふふっ、うふふっ」
セイラ、ちょっとその笑い方は無表情だけに不気味……家手に入った後燃やしたりしないよね?
「まぁ確かに流石にこの状況で宿ぐらしもないですよね」
メリッサの言うとおりだな~宿から人数分払えって言われたら結構出費だし。
まぁ、別に金ならあるんだけどね。
「いい案なのじゃ! 妾に相応しい豪邸を所望するのじゃ!」
豪邸か……やっぱプール付きとか?
「や、やはり私も一緒に住むことになるのか……」
「新しい家なの! ぴゃぴゃとみゃみゃと二号さんと愛人さんと妾さんとのマイホームなの!」
エリン、嬉しそうなのはいいがその手の言葉が豊富になってるよ? 全くメリッサとセイラは何を教えてるのか……
あとやっぱアンジュはやっぱ控えめだな。でも頬も桜色だし嫌ではなさそうだ。
「うむ! そのとおりであるぞ! これだけの大所帯となれば勿論屋敷が必要だ! そこに気がつくとは流石ヒット殿だ!」
すると立ち上がり、ビシッと! 指を突きつけて王様、将来的には義父になるのかな? が言ってきた。
う~んこれはもしかして王都に暮らすというパターンだろうか?
「そこでだ。話の本題なのだが」
うん? 本題? 本題はアンジュの事じゃなかったのか?
「実はな、ヒットの今回のアーツの街での功績を讃えて、爵位を授けようと思っておるのだ」
「へ? 爵位ですか?」
「うむ。伯爵の位を授けようと思っておる」
「!? は、伯爵ですと! いや! いくらなんでもそれは……陛下、私これまでの記憶を探ってみても、騎士でもない一介の冒険者が男爵や子爵を飛び越えて伯爵という位に付くなど例がございませんが」
ギルドマスターのロワンが恐れ多そうにいう。 う~ん正直言うと俺も貴族とかめんどい気がするな~
「例がなければヒット殿が好例となってくれればそれで良いであろう。それにだ、アーツ地方は今回の件で丁度領主の席が空いておる。魔物によって残念な結果になってしまった元の男は、嫁も子供もおらんかったからな。そうなると結果として街を救った英雄となったヒット殿が貴族としても領主としても適任であろう」
「な!? 父上! まさかそれはヒットを伯爵とし領主の座についてもらうと、そういう事ですか!?」
「うむ、そのとおりだ」
「あらあら貴方ったら大胆」
「いやいやいやいや! 少々お待ちを陛下! それは無茶です! 失礼ながら申し上げますが、そのような形で元は一介の冒険者でしかないヒットにそのような位を叙爵しあまつさえ領主にまでなど、他の王侯貴族達に示しがつかないのでは?」
一介の冒険者と連呼されてるな。いや、間違いないけどね。
「うむ、さすが王都のギルドマスターともなるとよく頭が回る。だが安心せい。今もいったように娘のアンジュとヒットは正式に結婚を前提に交際することが決まったではないか。勿論仮というのは頭につくが、それでも王である私が認めているのだ。つまり、ヒットは今日を持って王族と深いつながりが出来たことになる。それであれば文句を言うものもおるまい」
……あれ? これもしかして外堀から埋められてない?
「……まさか父上。私とヒットの仮婚約はその思惑があったために画策したのですか? 私をりよう」
「それは違うぞアンジュ。この件はアンジュがヒットにゾッコンだったから、たまたまそうなったというだけだ。偶然である」
「そうですよアンジュ。この人はアンジュが惚れたヒット様を一目見るのを楽しみにしてましたし」
「だからなぜ私がゾッコンで一目惚れということになっておるのだ!」
「いや、なんかそれは間違いなさそうやけどな」
カラーナの静かなツッコミに、むぅ、とアンジュが頬を染めた。
「まぁとにかくだヒットよ、どうだろう? 爵位と領主の件、引き受けてはもらえぬだろうか?」
「う~んありがたい話ではあると思うけど、貴族とか領主というのはちょっと面倒だし、それに俺領地経営とかあまり自信が」
「それなら大丈夫であろう。アンジュはこうみえてそういった事にも明るい。将来の正妻として一緒に暮す以上、ヒットに協力は惜しまないであろう。それに私の見たところ、そこのメリッサやセイラも随分と頭が回りそうだ。イームネという娘からも不思議な力を感じるしカラーナもフットワークが軽そうではないか」
「うぅ、なんかうちも外堀から埋められてる気が……」
「確かに帳簿などを付ける事は可能ではありますが……」
「管理や料理に洗濯に……」
「妾の力に気がつくとは流石であるぞ褒めて使わそう」
「エリンも手伝えるなの! パパの役に立つなの!」
「おお、そうであるな。エリンちゃんもきっとパパのことをお手伝いしてくれるであろう」
王が微笑ましそうにいった。う~ん、でも確かにそう考えると優秀なメンバーが揃っているな。
「それにだヒット殿。この件を請けてくれるなら、アーツの街の元領主の屋敷はヒットのものであるぞ? 勿論メイドや執事もそのままヒット殿の傍に仕えるようおふれも出そうと思う」
「あ、それなら請けます」
「かる! ヒットかる! いや、お主事の重要性が判っておるのか!」
指をぶんぶん振りながらロワンが喚いてくる。
そうはいってもな~丁度家が欲しいと思ってたところだし、あの屋敷なら十分過ぎるしね。
領地とかは、王の言うとおりこのメンバーだったらなんとかなるっしょ。
「ロワンよ、私がヒット殿にお願いしてそれを請けてもらっておるのだ。これ以上何か問題でも?」
と、王が目を鋭くさせてロワンに問う。というかこれはもう四の五の言うな! て命令だな。
ロワンも、はっ! はい! 勿論ありません! と慌てて頭を下げたな。
見た目が幼女だから叱られて謝ってるみたいだ。
「さて、これで話が決まったな。後は大臣を呼んで早急に手続きをふもうとは思うのだが……その前にヒットよ、一つだけ確認しておきたいのだが……」
「うん? 確認ですか?」
「うむ、そうである。ヒット殿であるが、これまでに学園は出ておるか?」
……はい? 学園?




