第一九話 国王登場
王城までの迎えにと、随分と綺羅びやかな馬車が、ギルドの前にズラリと整列していた。
御者役の人物もビシッ! とタキシードみたいな格好でキメていて、いかにも宮殿に仕えております的な雰囲気が漂っている。
で、馬車にどうぞお乗り下さい、みたいに促してくるもんだから。
「いや別にいいよ。馬車遅いし揺れるし俺瞬間移動みたいのできるから」
「失礼な事抜かすでないこの戯けが!」
断ったら後ろから幼女にパコン! と殴られた……理不尽だ!
「ご主人様それは流石に……」
「……素直なご主人様素敵」
「良いではないかヒット様。折角働き蟻の連中が運んでくれるといっておるのだからのう」
「そやそや。うちも一度こういう馬車のってみたかったねん」
十人十色といった感じにそれぞれ別な反応をみせるな。
てかイームネとカラーナも一緒でいいのかな? まぁ何もいってこないしいいのか。
「ぴゃぴゃ~エリンも馬車のってみた~い」
「よし! 乗らせてもらおう!」
俺が乗ることに決めたら、エリンがありがとスマイルで抱きついてきてくれた。
幼女にこういわれたら従うしかないよね!
というわけで馬車に乗り、窓からエリンが眼をキラキラさせて街の様子を眺める姿に癒やされながら、王城に向かう。
城は王都から北に少し離れた場所にあるようで、王都を見下ろすような形で王都とは別の城壁に囲まれた堅牢な場所に存在した。
尖塔が数カ所伸びていて、正面からの見た目は巨大な教会にも近い、見た目にも立派な城だな。
「良いか! 決して粗相のないようにな!」
城についてからは、幼女なギルドマスターのロワンに口が酸っぱくなるぐらいの勢いで言われ続けた。
どんだけ信用されてないんだ俺?
で、城に着いてからは案内人によって謁見室ってとこに連れて行かれた。
「ここで王様が玉座にふんぞりかえっているわけだな」
「お前は言っている傍から何を言い出すのじゃ!」
なんかまた怒られた……素直な気持ちを口にしただけなのに。
「なんかやはり凄い不安ですね……」
メリッサまで!
「……例え王と謁見であっても、いつもと変わらないご主人様素敵です」
判ってくれるのはセイラだけだな!
「何か旨いご馳走とか振る舞われるのかのう?」
イームネがじゅるりと口を拭う。血に興味がなくなったぶん、旨い料理に目がなくなったようだな。
「やっぱ城ってからにはお宝とか一杯眠っとるのやろか? ヒット後で回ってみぃひん?」
いや、それを回ってどうする気だカラーナ……
「王様なの! お姫様なの!」
無邪気なエリンが可愛らしいなの!
まぁそんなわけで謁見室に入る。
で、やはり想定通り奥に立派な玉座が二つあった。
すでに誰か座っているけど、まぁ多分それが王様と後はお妃様って奴かな?
王様は金髪でハの字の口ひげを生やしていて年齢は四〇代ぐらいかな?
王というだけに貫禄はある。
王記も金髪碧眼で巻き髪を形まで伸ばした綺麗な女性だ。
絶対王より年下だな。三〇代ぐらいかなって気がする。
あと巨乳だ。
「よくぞ参られた! 私こそがここガルグ王国の王、ウィン・ガルグ・クロースである」
「冒険者のヒットだ宜しく」
王様自ら自己紹介してきたから俺も返したらロワンにすねを蹴られた! いてぇよ! レベルあってもそこはそこそこ痛いのに!
「も、申し訳ありませんですのじゃガルグ陛下。このものは少々礼儀のほどが欠けておりまして――」
「よいよい。なんとも豪胆な男ではないか。流石はセントラルアーツの危機を救ったというだけある」
ガルグ王もそういってるしな。ちなみにその後他のメンツに関してはロワンが簡単に説明してくれた。
「さてさて早速ではあるが、此度お主達を呼んだのは他でもない。セントラルアーツを救ってくれたことも勿論であるが、私の愛娘を救ってくれたそうではないか。そのお礼も兼ねてな」
うん? 娘を救った? なんだろな一体?
「あ! クロースって!」
と首をひねっていたら、メリッサが思い出したように声を上げた。
王の御前であるぞ! とロワンに咎められて謝っているけど……
う~ん、そういえばクロースってなんか聞き覚えがあるような――
すると失礼する、と入り口から声が届き扉が開かれる音。
「おお来たな。さぁこちらに来るのだアンジュ」
うん? 確かアンジュって……
で、玉座の横にやってきて俺達の前に姿を見せたその姿に思い出した。
「アンジュって姫様だったのかよ!」
「アンジュ殿下じゃ! 呼び捨てとは馴れ馴れしすぎであるぞ!」
「いや、私はアンジュでいい。そして改めて王女としての立場からお礼を述べさせて頂きたい」
そういってアンジュが俺達に頭を下げた。
別に気にすることないさ、と俺が言うと、ロワンはなんかもう諦めたみたいに溜め息を付いているな。
「それにしても、まさか王女様が自ら盗賊の退治に向かわれているなんて……」
メリッサが信じられないといった感じに呟くとアンジュがふむ、と頷き。
「この国の姫として悪は放っては置けないのでな!」
「……ふぅ、それにしても全くお前はな。今回ヒット殿に助けて頂いたからまだいいが、城を抜け出す癖はいい加減やめてほしいところだぞ。肝が冷える」
「しかし父上に素直に話したところで許しては貰えぬではないか!」
「アンジュ、それは当たり前ですよ。どこの世界に、娘が盗賊を退治しにいきたいといって許す親がおりますか」
ここで王記が初めて口を開いたな。
う~んこうしてみるとアンジュともよく似てる。
「ヒット様、改めて私からもお礼を、娘を助けてくれて本当にありがとうございます。しかしアンジュときたら、次女という事で少々のびのび育てすぎたかしら」
「うむ、確かにな。剣を習いたいというので護身術程度に教えさせたつもりが、いつの間にか本気になり、下手な騎士よりも腕が立つようになってしまってな。そのせいか少々お転婆な性格に……心配だからと今回も監視役の付き人ふたりに目を光らせるよういっておったのだが、隙をみて城から抜け出し、そしてこの始末だ。本当に困った娘だよ」
「その付き人って、氷魔法が得意な爺さんと若い神官だったりしますか?」
「え? いや普通に騎士ふたりであるが……」
なんだ違うのか。まぁ向こうは確か武闘家だしな。
「しかし今回の件でアンジュも少しは思い知った事だろう。全くヒット殿に助けて頂かねばどうなっていたか……」
王様が溜息混じりに口にし、眉を落とす。
まぁ気持ちは判らなくもないかな。
「判っております父上」
で、アンジュが胸の前で拳を強く握りしめて決意したように声を上げる。
「おおそうか。判ってくれたか」
「良かったですわね貴方」
「あぁ、まぁこれだけ危険な目にあえば――」
「不詳アンジュ! まだまだ修行がたりないことに気が付きました! つきましては父上。この機会に武者修行に出る許可を――」
「何も判ってなかったよ! 寧ろ悪化してるよ!」
国王が大声で喚いた。てか王でも突っ込み入れるんだな。
「ふぅ……そういう事であってなヒット殿。実は此度お主を呼んだのは、お礼をというのも勿論あるが、私から直接お願いしたいことがあってな」
お願い?
「俺にお願い? 一体何だろう?」
俺が反問すると、うむ、と王様が頷き。
「ヒット殿、我が娘のアンジュを貰っては頂けぬだろうか?」
「「「「「えええぇええぇええええぇええぇえ!」」」」」
ギルドマスターも含めて声を揃えて驚いた。そりゃそうか!
てか、まさかいきなり結婚の話を持ちかけられるとは思わなかったぞ……




